【2Pacと信仰】ー 2Pacの「神・信仰・天国」に関わる作品/リリックを解説。

 

 

Guest Writer:

2Pacと信仰

アメリカ文化を語る時、キリスト教や聖書は重要なエッセンスになるが、ヒップホップにおいても例外ではない。 近年ではケンドリック・ラマーのgkmc、TPAB、DAMN.でも神についてラップがされている。歌詞に登場するGodやJesus、あるいはその他聖書の一節は何を意味しているのだろうか?十字架やイエスの顔(Jesus piece)のゴールドチェーンが、お守り兼アクセサリーとして一般的である背景にあるものは何か。クリスチャンである筆者は、ラッパーの「信仰」にスポットライトを当てていきたいと考えている。

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このPlayatunerにもよく登場し、生死や神に関わるリリックも多い2Pacはこのテーマにふさわしいラッパーであろ。2Pac「Me Against the World」が伝えた「ブルース」でも紹介されているが、この作品では生死や苦悩・痛みを多く扱っている。そんなMe Against the Worldから、特に下記の2曲を見ていきたい。

 

1. Lord Knows


題名からして「主は知っている」となり、「Lord(主)」とは、聖書で神・キリストの別名である。「絶望的なサグな生き様の中、敵も多く、生きた心地がしない、自殺願望さえある状況だが、神はそんな自分を見ていて、知っている」。そのことだけが最後の拠り所という心境を表現しているのだろう。以下いくつか歌詞を抜き出してみる。

Forgive me; they wanna see me in my casket
And if I don’t blast I’ll be the victim of them bastards
I’m losin’ hope, they got me stressin’, can the Lord forgive me
Got the spirit of a thug in me
許してほしい。彼らは俺を棺桶に入れたがっている
先に撃たなきゃ犠牲者になってしまう
希望を失っている。ストレスに押し潰される。神は許してくれるだろうか
サグの魂を持つ俺を

Got me thinking, what do Hell got?
Cause I done suffered so much, I’m feelin’ shell-shocked
地獄には何があるのだろうと考える
(生きてるうちに)もう散々ヒドイ目にあって 戦争神経症みたいになってしまった

コーラスでは「神は知っている」の繰り返しである。

 

2. So Many Tears


「たくさんの涙」と訳せばいいだろうか。少し可愛い響きになってしまう気もするが、Lord Knowsが第三者に向けて「神は知っている」と言っているのに対し、こちらは神に向けての呼びかけ/叫びとなっている。こちらもいくつか抜き出してみよう。

I shall not fear no man but God
Though I walk through the valley of death
If I should die before I wake
Please God walk with me
Grab a nigga tight and take me to Heaven
死の谷を歩いているが、人を恐れず神のみを恐れる。
起きる前に死ぬようなことがあっても

神よ共に歩いて、俺を強く掴んで天国へ連れて行ってくれ

このイントロのセリフは聖書から引用されていることが分かる。引用元と思われる聖書の節を挙げてみよう。

新約聖書 へブル人への手紙13章6節:だから、わたしたちは、はばからずに言おう、「主はわたしの助け主である。わたしには恐れはない。人は、わたしに何ができようか」

新約聖書 マタイによる福音書10章28節:また、からだを殺しても、魂を殺すことのできない者どもを恐れるな。むしろ、からだも魂も地獄で滅ぼす力のあるかたを恐れなさい。

旧約聖書 詩編23章4節:たといわたしは死の陰の谷を歩むとも、わざわいを恐れません。あなたがわたしと共におられるからです。あなたのむちと、あなたのつえはわたしを慰めます。

さらにこのようなリリックとなっている。

fuck the world cause I’m cursed, I’m having visions
Of leaving here in a hearse, God can you feel me?
Take me away from all the pressure and all the pain
Show me some happiness again, I’m going blind
I spend my time in this cell, ain’t living well
I know my destiny is Hell Where did I fail?
My life is in denial and when I die
Baptized in eternal fire
世の中なんてクソ食らえ 俺は呪われてるんだ
霊柩車でこの世を去るヴィジョンを見ている。神よ分かってくれるか
全てのプレッシャーや痛みから連れ去ってほしい
目が見えなくなっていく、幸せというものをまた見せてほしい。
牢獄に入れられ、いい暮らしはしてない
俺の運命は地獄だって知ってる。どこで間違ったのか
俺の命はそれから目を逸らす
死んだ時には永遠の炎で洗礼を受ける

though my soul was deleted, I couldn’t see it
I had my mind full of demons trying to break free
They planted seeds and they hatched, sparking the flame
Inside my brain like a match, such a dirty game
No memories, just a misery
Painting a picture of my enemies killing me, in my sleep
Will I survive ‘til the mornin’ to see the sun
Please Lord forgive me for my sins, cause here I come
俺の魂は消えていくが、俺には見えなかった
俺の心は自由になろうとする悪霊たちで溢れている
彼らは種を植えつけ、火種をつくる
俺の頭の中にマッチのように。汚いやりかただ
思い出はない 惨めさだけだ
寝てる間に殺されるイメージを思い描く
朝日を見るまで生きてるだろうか
神よ罪を許してくれ、そっち(天国)に向かうから

I’m fallin’ to the floor; beggin’ for the Lord to let me in To Heaven’s door
床にひれ伏して 神に請う。天国の扉に入れてもらえるように

 

3. Thugz Mansion


もう一曲、Me Againt the Worldからではないが、神・信仰・天国に関わる作品として、Thugz Mansionの一節も是非参照して頂きたい。

 

Maybe in time you’ll understand only God can save us
いつの日か分かるだろう、神だけが俺たちを救えると

Just think of all the people that you knew in the past
That passed on, they in Heaven, found peace at last
Picture a place that they exist, together
There has to be a place better than this, in Heaven
So right before I sleep, dear God, what I’m askin’
Remember this face, save me a place in thug’s mansion
過去に知ってたみんなが天国にいて、ついに安らぎを見つけたことを想像してほしい
みんなが一緒にいて、ここよりいい場所が空の上にあるはずだ
だから寝る前に神様にこの顔を覚えててくれと願う
サグたちのマンションの一部屋を空けておいてくれ
これらの歌詞を見ていく時、聖書的、キリスト教的に重要ないくつかのキーワードが何度も登場する。

キーワードその1 「許し(赦し)」

「許してくれ」「許してくれるだろうか」など神に許しを請う心境が繰り返し語られている。聖書では「人の姿になった神(イエス・キリスト)が、人類の罪の為に十字架で死んだこと。さらにそれから復活をしたことを信じ、自分の罪を悔い改めた者は”赦し”を受け、救われる」と説かれている。赦しとは「許可する」とは意味が違い、人の過ち(罪)を忘れ去って思い出さない、という意味である。

キーワードその2 「救い」

キリストはメシア(救世主)という意味だが、聖書で「赦し」と「救い」とはセットになっている。赦され=救われという意味で、天国で平安の中永遠の命を生きるというのが、クリスチャンの究極的な希望になっている。

キーワードその3 「天国・地獄」

救われた人々は天国で永遠の平安を得るのと逆に、救いを拒否して神から離れる人々には、いわゆる地獄での「死」「滅び」が待ち受けているというのが聖書の世界観である。

アメリカでは、クリスチャン、もしくはクリスチャンや教会とのつながりがある人々が多い。特にヒップホップを形成してきたマジョリティーである黒人貧困層では、信仰を拠り所にしている人々も多いようだ。反抗/反体制を象徴する他の音楽よりも「過激」とされるメッセージを放っていると批判されがちなヒップホップであるが、その「過激」さのなかにも信仰の要素を持ち続けていることには独特な面白みも感じるだろう。

ヒップホップが音楽的要素としてゴスペルの流れを汲むソウル・ミュージックをサンプリングしているジャンルであることも大きいだろうか。(「ゴスペル」とは本来、聖書の良き知らせ「福音」という意味である)欧米では敬虔な信仰者は、ボーンアゲイン(生まれ変わった)クリスチャンと言われている。2Pacは生前ボーンアゲインクリスチャンとは言えなかったかもしれないが、彼の救いを求める数々のリリックを見るにつけ、彼が苦悩から「救われた」ことを願って止まない。

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