DJ Khaledの「GRATEFUL」から学ぶプロジェクトマネージャー術【オフィスで働くPMも必見!?】

 

 

Playatunerが担当したライナー・ノーツ(通称:Playa Liner)こちらはDJ Khaled「GRATEFUL」のWEB限定Playa Liner「プロマネバージョン」です。8月23日発売の「GRATEFUL」国内盤には「長い旅バージョン」が封入されています。2つのバージョンには、オチの違いがあります。

グレイトフル

 

2017年の前半戦が終了した。

思い返してみると、ヒップホップ業界にて期待されていたプロジェクトが次々にリリースされた半年間であった。ケンドリック・ラマーBig SeanVince Staplesのような現行でヒップホップを引っ張っているアーティストだけではなく、Jay-ZPublic EnemyMC Eihtのようなベテランも一斉にアルバムをリリースし、貴重な上半期となった。Jay-ZはTidal/スプリント限定リリースをしたり、Public EnemyはサプライズでBandcamp無料配信をしたり、それぞれのアーティストがリリースの方法を工夫し、話題を作っていった。そんな上半期に音源をリリースしたアーティストの中で、最も長いスパンで話題を作ってきたのはDJ Khaledだろう。

思い返すと彼の話題は2016年の「Major Key」をリリースしてから、一度も途切れていない。グラミー賞にノミネートされたり、ジョーダンとのコラボスニーカーを出したり、常に話題を集めていたが、彼にとっての最大の話題となったのは息子Asahdの誕生であろう。彼は2016年10月23日に生まれたAsahdの誕生、成長、そして生まれてきた息子への感謝と愛を常にSNSやメディアにて語ってきた。息子への愛がこのアルバムの話題を何百倍にも増幅させ、全米がAsahdの成長を見守っているかのような状況であった。さらに彼は元々Snapchatで「成功への鍵」というシリーズを配信しており、それが人気コンテンツとなったため、世間的にはどちらかと言うとSnapchat芸人だと思われている節がある。「生きるMeme」と言われているDJ Khaledであるが、そのような情報はネット上に溢れているので、今回はあえて彼の「プロデューサー」としての功績を探ってみたいと感じる。

 

「そもそもDJ Khaledって何をやってる人なの?」

という方は多いだろう。これは我々の日常にも通じてくるような非常に重要な疑問である。日々オフィスで働く方も、若手時代に似たような疑問を自分の上司に抱いたことはないだろうか?しっかりプロジェクトを前に進めている人材だとそんな心配は無用であるが、動きが見えない上司にたいして「あのマネージャーはなんもしてないのに偉そうにしてる…」なんて思ってしまう若手社員は少なくはないと感じる。役職が高くなるにつれ、業務内容の想像がつかなくなるのだ。私も会社勤めをしていたとき、「俺でも頑張ればマネージャーできそうじゃね?」と思っていたが、いざ自分がプロジェクトの責任者になってみると、そうもいかないことを思い知った。自分がその立場になり、初めて「プロジェクトマネージャー」の苦労を知ることになるのだ。

それではDJ Khaledはどうだろうか?彼の名前を聞いたときに思い浮かべるのは、「とにかく明るいキャレド」というポジティブなパーソナリティだ。彼のポジティブさが話題を呼び、まるで「歩く自己啓発セミナー」のような人物像となっている。ヒップホッププロデューサーというと、どうしても「トラックメーカー」的なイメージが強いが、彼に関してはまさに「プロジェクトを前に進める責任者」なのである。もちろん自分でもトラックづくりに携わることもあるが、彼は史上最強の「プロジェクトマネージャー」と言っても過言ではない。そんな史上最強のPMである彼から学べる「プロジェクトマネージャー術」を紹介したい。皆さんも明日からDJ Khaled気分で仕事をできるだろう。

 

① チャンスがあれば図々しく

プロジェクトを前に進めるためには、ときには図々しくある必要がある。今回のアルバム「GRATEFUL」での「責任者っぷり」が特に伝わってくるのが、Jay-Zとビヨンセのフィーチャリングをゲットした経緯であろう。彼はHot97のインタビューにてその経緯を語ったのだが、これがとても興味深いストーリーであった。ことの発端はDJ Khaledが、Jay-Zと別件でミーティングをした際に、”Shining”のビートを聞かせたことであった。そこでJay-Zが気に入ったのでKhaledは「奥さんにも聞かせてほしいんだけど…」と頼んだのである。そのときはJay-Zに「それは頼みすぎだろ…」という渋い顔をされたらしい。しかし後日ロック・ネイションのパーティーにて、ビヨンセが「あの曲良かった!」とDJ Khaledに声をかけてきたのである。そのビヨンセの後ろには、ポケットに手を突っ込んで頷いているJay-Zが立っていたという。

別件でのミーティングにも関わらず、彼は隙あらばといった感じで、”Shining”のビートを聞かせたのである。このように、「たまたま聞かせたから実った案件」というものはPlayatunerでも数回取り上げている。Beyonceの”Formation”Mobb DeepとQTipの出会いがいい例であろう。さらにはKhaledはJay-Zだけではなく、「Beyonceにも聞かせてほしい…」と頼んだのである。さすがのDJ Khaledもかなり緊張したらしく、Jay-Zに嫌な顔をされてしまったと語っている。しかし行動力/言動力が素晴らしい曲になったのだ。それにしてもJay-Zの粋な計らいがかっこいい。

 

② やるときは絶対やり遂げる

DJ Khaledが最強PMだと思う一つの理由が、彼が持っている半端ないバイタリティである。絶対に何があってもやり遂げるのだ。同じく”Shining”のリリースに至るエピソードから、彼のバイタリティが伝わってくる。Beyonceからお墨付きを頂いたビートであったが、さすがのDJ Khaledも、彼らレベルの人物に仕事として正式に頼めるわけではなく、そのまま時が過ぎてしまったらしい。

そこからしばらくして、2017年グラミー賞の前日にJay-Zから電話があったのだ。なんと彼に「あの曲レコーディングしたから明日のグラミー後に公開しよう。」と言われたのである。その時の会話は以下のようなものであったと語っている。

DJ Khaled:え?ミックスもしないといけないし、サンプルの権利もクリアしないといけないし、週末だし、明日までは無理だよ

Jay-Z:え?やれるっしょ

Jay-Zはこのような反応だったらしい。そこでDJ Khaledはグラミー前日の週末にも関わらず、1日で当曲のアレンジ/ミックス/マスタリング/サンプルのクリアをやり遂げ、2017年グラミー直後に伝説的なリリースをすることができたのである。グラミーのバックステージにてJay-Zとビヨンセにミックスの最終確認をしていたらしく、彼は式に出席していたにも関わらず、内心はドキドキだったと語っている。この件からDJ Khaledのバイタリティが伝わってくる。

もしJay-Zが上司であったとして、「え?やれるっしょ?」みたいな反応をされたら正直腹が立つであろう。もちろん上司がこのようなことを日常的にやっていたら、パワハラとして体と心を壊してしまう可能性がある。しかし何か大きなことを成し遂げる「仕事」には、ときにはこのような「やり遂げないといけない場面」も存在する。それは一世一代の挑戦かもしれない。そのような場面で、DJ Khaledは「絶対にやり遂げるバイタリティ」を発揮するのだ。

 

③ 過去の繋がりを無駄にしない

仕事をしていると、過去に少し微妙な雰囲気になってしまった取引先の1つや2つぐらいあるだろう。そのような取引先の手助けが必要になったとき、「気軽に連絡できる関係を保てていれば…!」と嘆く人もいるだろう。DJ Khaledはその点に関して、マスターである。彼は人付き合いのマスターなのだ。彼が過去に所属していたCash Money Recordsとの関係を見ると、そのマスターっぷりが見えてくる。

彼の音楽キャリアは、元々ニューオーリンズのレコード屋さんで働いていたことから始まったのだが、その時にまだ有名になる前のLil WayneとBirdmanと出会っている。その後Cash Money Recordsに所属しているのだが、仲違いして脱退している。Khaledの親友Rick Rossが”Idols Become Rivals”という曲にて「BirdmanはDJ Khaledに酷いことをした」と語っている。Rick Rossによると、どうやらDJ Khaledは他のCash Money所属アーティストと同様に、悪い契約を掴まされていたのだ。そう、Birdmanに騙されていたらしい。それがきっかけで2015年にDJ KhaledはCash Money Recordsから脱退しているが、その後の対応が素晴らしいのである。Rick Rossによると彼は酷い仕打ちを受けたはずなのに、彼自身はこのように語っている。

俺は今でもBirdmanに感謝している。彼は俺に様々な機会を与えてくれたし、彼が与えてくれたもの全てに感謝している。その機会がどんな結果になろうと、機会は機会なんだ。彼に感謝をしている。

悪い契約を掴まされて、ここまで言うことができる存在は世界に何人いるだろうか?普通であれば「ぜってぇ許さねぇ…」となりそうであるが、彼はBirdmanに感謝しているのだ。それは彼が単にポジティブな人というのもあるが、彼は恐らく「常に良い関係を築くメリット」を知っているのだ。現に今回の「GRATEFUL」も過去作と同様にLil Wayne、Nicki Minaj、DrakeとCash Money軍団が参加している。Lil Wayneに関してはBirdmanと現在仲違い中であるが、もしDJ KhaledとBirdmanが争っていたら実現するはずのない顔ぶれであろう。彼はエゴを捨て、自分の作品のクオリティを高めるために常に取引先と良い関係を築いているのだ。なんのためにやっているのか?それは作品のためであり、その作品を聞く人々のためである。

 

このようにいくつかの事例を見るだけで、彼が単に楽曲で「DJキャレッドッ!!!」と叫んでいるだけではないことがわかる。ちなみに今回の「GRATEFUL」においては、インスタグラムにて楽曲「Wild Thoughts」の自作MVをファンに投稿させる「#Wildthoughtscontest」というコンテストを自ら開催している(優勝賞金は100万円!)。このように彼はWEBマーケティング/グロースハックを使用した施策も考えることができるのである。恐らく彼の会社にはPRチームもいると思うが、彼の長年のSNS活動による「勘」がこのような施策の成功要因となっているのだろう。

上記の点を踏まえても、私たちが見えない場所で、誰よりもハードに仕事をし、プロジェクトをまとめ上げるために努力をしているのだ。「DJ Khaledは自分では何もしてないじゃん」というYouTubeコメントをたまに見るが、この大人数のプロジェクトをまとめ上げることができる人物は世界に何人いるだろうか?前に進む行動力、そして人を惹き付ける力は業界の誰よりも強いと感じる。彼はバイタリティの塊なのだ。それは世の中で働いているプロジェクトマネージャーたちにも言えることであろう。見えない場所で、誰よりもハードに仕事をしているのだ。プロジェクトをまとめ上げ、前に進めるためにはエゴを犠牲にすることが必要なのかもしれない。

結果的にアルバム「GRATEFUL」は全世界23か国で1位を獲得した。 このようにメインストリームでも大成功をおさめたアルバムは、聞いているだけだと、製作者の汗と涙を感じることができないかもしれない。しかし彼の努力の結晶は確実に作品という「魂」としてアウトプットされており、まさに今までの人生に対して「感謝」しているアルバムとなっている。

今作のライナー・ノーツの別オチ「長い旅バージョン」が気になる方は8月23日発売の「GRATEFUL」国内盤をゲット!

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