【Classic Video】Xzibitの「What U See is What U Get」のMV制作秘話。プロジェクトのヴィジョンの伝える重要性

 

 

 

作品の世界観

を創り上げる上で、音楽はもちろん視覚的情報も非常に重要である。そんな世界観を創り上げるために、アーティストたちはクリエイティブなディレクターと組み、「作品」として満足いくものを夜に出す。特にヒップホップMVの世界にはリリックの世界観を出すためにプロットに凝っているMVが多く存在する。もちろん近年はインディペンデントアーティストにもプラットフォームが与えられるようになったため、歩きながらラップをする系のMVであれば低予算で製作できるようになった。

以前はClassic Videoとして、Dr. Dreとエミネムの「Forgot About Dre」のMVのドキュメンタリーを紹介した。

Dr. Dreとエミネムの名曲「Forgot About Dre」のMV制作ドキュメンタリー。彼のプロフェッショナル意識

 

Playatunerを運営する弊社が転換期なのもあり、久しぶりの更新となってしまったが、今回はXzibit(イグジビット)のクラシックMV「What U See Is What U Get」の制作秘話から学べることを紹介したい。このMVはXzibitのキャリアにおいてブレイクアウトのきっかけとなったが、実は当時のBETにて最も長い期間オンエアされていたビデオでもある。

この曲がリリースされた1998年当時は非常にクリエイティブなMVが多かった。そのなかでもこのMVは目立っていたわけであるが、実はこのMVのアイディアはXzibit本人が挙げたものであった。

 

この「カットなしで1ショットで全てが撮影されている」風のMVは元々Xzibitが構想していたものであり、当時彼はこれを実現するために数多くのディレクターにアイディアをピッチしていたと、AllHipHopにて語られている。実際にはカットなしで1ショットで撮影されているわけではなく、13のショットを上手くつなぎ合わせているのだが、当時の周りのヒップホップMVディレクターは彼の意図を理解できなかったらしい。彼はこのように語る。

 

Xzibit:これは元々俺のコンセプトなんだ。最初は有名なヒップホップ・ディレクターに説明しようとしてたんだけど、当時は伝えようとしているコンセプトを誰も理解してくれなかった。だから実はGregory Darkというディレクターだけが引き受けてくれたんだけど、彼はアダルトビデオの監督だった(笑)実はこれが彼の初ヒップホップビデオなんだ。

 

元々この「シングルショットで撮り、その間にフッドで起こる事件が描写される」というコンセプトの視覚的面白さを伝えようとしたが、ヒップホップディレクターたちには理解してもらえなかったのだ。しかしXzibitは彼のヴィジョンを信じてくれるディレクターを探し、Gregoryにたどり着いた。彼はこのビデオのシグニフィカンスについてこのように続ける。

 

Xzibit:このMVの大きな要素は、車の爆発とリリックに出てくるFlavor Flavの登場だ。彼は何故か撮影に現れて、最終的にビデオにカメオで出演することになった。こういうことは「脚本」として事前に書けることではないんだ。なんとなく流れでそういう形になった。

こういうアイディアは自分のヴィジョンに共感してくれて、信じてくれる人たちによって実現される。(当時話したディレクターたちは)誰もこのビデオが20年後も話題に上がっていると思わなかっただろう。俺は自分がこのコンセプトを信じて実行したことを誇りに思っている。その経験が自分また新しいことをトライする自信を与えてくれた。最終的には他人を説得しようとするのを辞め、自分でやるようになった。

 

この制作秘話であるが、単純に面白い話しであるが、いくつかかなり共感できることがあったので、それについて書きたい。「脚本に書かれていないが良いことがたまたま起こる」「嬉しい誤算が起こる」ことによって、全体のヴァイブスが上がることは制作現場にて頻繁にある。そして何年後も語り継がれるものは、一見「いや無理じゃん」と思われてしまうかもしれない「ヴィジョン」を信じている人たちによって作られる。実際にベンチャー企業でもそうなのだが、代表となる人物が「企業理念」や「ビジョン」をいかに打ち出し、いかに一丸となれるメンバーを集めるかが重要となってくる。

XzibitのこのMVでもそうなのだが、もし適当に報酬を支払ってそのヴィジョンを理解してない実績のあるヒップホップ系のディレクターに依頼していたら、上記の嬉しい誤算も、歴史に残るMVにもならなかったであろう。「嬉しい誤算」と言っているが、恐らく「これまじで良い」と信じている関係者が胸を張ってFlavor Flavをどこかのタイミングで誘ってみたのだろう。もし関係者が全員「あんまわかんないけど、とりあえず仕事だからやってる」というテンションであったら、そのような「計算された奇跡」は起こらない。また、冒頭に登場する赤い車も、実はディレクターGregoryのものだったり、窓を割って出てくる人もスタント・コーディネーター本人であったりで、予算が限られているなか、いかにそのプロジェクトを信じている人たちが本気で協力したかが伝わってくる。

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