水面下で「麻薬王」的な存在となったBlackbear。新世代アーティストの面白い売れ方を分析、Spotifyの存在

 

 

 

水面下で帝国を築くアーティスト

という記事を先日書いたのを読んで頂けただろうか?その記事では、「気がついたら水面下でめっちゃ売れていた」というアーティストたちを紹介し、インターネット時代の「成功の新しい形」について書いた。この特徴としては、自分でほとんどの作業をし、コンスタントにネットにて作品を公開するアーティストたちが多かった。こちらの記事は下記で読むことができる。

水面下で帝国を築き上げるアーティストたち。「自分で全部やる」というパワーと美学

 

その事例として私が最も気になっていたのがBlackbear(ブラックベア)というアーティストである。彼の水面下での売れっぷりは半端なく(2017年の売上見込みは6億円以上!)、正直メジャーアーティストよりも稼いでるのではないか?と感じる。そんな彼の7月19日に国内盤が発売される最新作「Digital Druglord」のライナー・ノーツを書かせて頂く機会があったのだが、そちらを元にBlackbearの「成功」をもっと詳しく紹介/分析したい。彼のようなアーティストの活動を調査することにより、新世代アーティストにとって非常に大きなメリットとなると感じる。

彼の功績は上記でも記載した「水面下で帝国を築き上げるアーティスト」で紹介したが、彼のニュースなどが日本に入ってこないのは何故なのだろうか?今まで裏方として活躍していたからなのだろうか?それか他の理由があるのだろうか?そして最も大きな疑問

動画の再生回数が少ないのに何故ここまでファンがいるのだろうか?」

彼の活動をブレイクダウンしてみるとこのようになっている。(追記:現在は再生回数も凄い)

彼はフロリダ州デイトナ・ビーチ生まれのシンガー/ソングライター/プロデューサーである。彼は18歳のときにアトランタに移転し、その2年後にLAに拠点を移している。彼の裏方としてのキャリアで有名なのはジャスティン・ビーバーの2012年のヒット曲「Boyfriend」のソングライターの1人として参加したことであろう。彼はその後様々なアーティストに曲提供するだけではなく、なんと自主レーベルからEP6枚、今回のアルバムと「I Took a Pill in Ibiza」で知られるMike Posnerとのコラボプロジェクト「Mansionz」を含めて4枚ものアルバムをリリースしている。驚きなのは、彼が2015年にリリースした1stアルバム「Deadroses」のシングルとなった”idfc”は、1年もの間ビルボードR&Bチャートにチャートインしている。彼のSpotifyやSoundcloudの再生回数も半端なく、2014年にはSoundcloudでマネタイズを可能にした数少ないインディーズアーティストのうちの1人にもなっている。どうやら彼のグッズ・ビジネスも非常に上手く行っており、本人によると「Tech N9neのグッズより売り上げているかもしれない」と語っている。ここまでファンベースや実績がありながらも、何故日本にはほぼ情報が入ってこないのだろうか?自分が情報を追えていないだけなのだろうか?正解はわからない。しかし考えているうちに、彼がどのような存在なのかが分かってきた。

 

Digital Druglord

彼は実は2016年のほとんどの期間を病院で過ごしている。ツアー中に酒を飲みすぎて、壊死性慢性膵炎になってしまったのだ。インタビューにて、生死をさまよったと語っている彼であるが、その入院中に書いたのがこの「Digital Druglord」である。彼はアルコールを摂取することができない体になってしまったと語っており、医者からもストップがかかっている。さすがに今ではアルコール以外においてもクリーンであると思うが、「自分の経験」を元に作品を作り上げたのだ。

そして気になるのが「Digital Druglord」というアルバム名である。「デジタル麻薬王」という意味となるこのタイトルであるが、何を表しているのだろうか?単に彼が麻薬について歌っていることを表しているのだろうか?私はそうは感じなかった。ここで重要なのは、現実に存在する「麻薬王」たちがどのようにのし上がっていくか、そしてその活動とBlackbearの共通点を考えることである。その現実での「麻薬王」がどのような活動をし、どのような存在かをブレイクダウンできれば、このアルバムに込められた意味を理解することができる。

ここまで説明すれば、彼の「デジタル麻薬王」というフレーズが何を表しているのかを理解できる方も多いだろう。ここの考察、私なりの「麻薬王」の解説についてさらに読みたい方は、是非7月21日に発売になったBlackbear「Digital Druglord」の国内盤を購入して、ライナーノーツ全編を読んで頂きたい。そして彼に対してはもう一つ大きな疑問がある。

 

動画の再生回数<実際のファンベース?

 

最も不思議なのは、彼自身がアップしたMVや楽曲はそこまで再生回数がないということだ。(2018年追記:現在は動画の再生回数も非常に多い)それにも関わらず、楽曲はゴールド認定されたり、恐らく「Do Re Mi」は既にプラチナ認定されている。ここに違和感を覚える人は多いだろう。私も最初にBlackbearを知ったときに、「実際のファンベース>動画の再生回数」という構図を不思議に感じた。逆に、「ハリボテの再生回数を買っているが、実際のファンベースは少ない」という構図はよくみる。しかし「動画の再生回数<実際のファンベース」という構図を見るのは新鮮であった。昔活動していた過去の大御所アーティストであれば理解できるが、近年のアーティストでこの構図は非常に興味深い。

その原因として考えられるのは「①Spotifyの役割」と「②無断転載チャンネルの存在」である。Blackbearは実際にインタビューにて「Spotifyが気に入ってくれて、多くのプレイリストに入れてくれた」と語っており、彼の音楽活動はSpotifyという独自のプラットフォームで完結しているのだ。プロモーションしてくれて、同時に実際に売上に直結するプラットフォームは今まで存在していなかったのではないだろうか?以前は「YouTubeで再生回数伸びる→iTunesやSpotifyで聞く」という段階があったが、彼はそのプロセスを吹っ飛ばし、Spotifyで自己完結をしているのだ。そのためSpotifyでは楽曲「Do Re Mi」が2017年7月時点で5000万再生されている。

さらに気になるのが「②無断転載チャンネル」の存在である。上記に貼った「Chateau」は「Trap Nation」という、様々なアーティストの楽曲をアップし、キュレーションしているYouTubeチャンネルである。このようなチャンネルにアップされているTennysonというアーティストに直接聞いてみたところ、「無断でアップされてるけど、めっちゃ知名度アップしたから良かった」と語っている。このようなキュレーションチャンネルが、(無断で)インディーズアーティストのプロモーションに一役買っていることがわかる。もちろん裏ではレーベルなどとの金銭的なやり取りがある可能性もある。これに関しては賛否両論あるだろう。(むしろレーベルやマーケティングエージェンシーそのものの可能性がある)

ここでさらに疑問として出てくるのは、「Spotifyに認知される方法」「無断転載チャンネルに認知される方法」である。こちらに関しては、また事例をさらに調べ、紹介したいと思う。このような記事がアーティストたちの活動の参考になれば幸いである。

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ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington):カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼Playatunerの代表。umber session tribeのMCとしても活動をしている。

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