ストレイト・アウタ・コンプトンで語られなかったビーフ。何故語られなかったかを意外なベクトルから推論

Writer: 渡邉航光(Kaz Skellington)


 

https://www.youtube.com/watch?v=oyoew4T74_w

https://www.youtube.com/watch?v=oyoew4T74_w

 

Straight Outta Compton(ストレイト・アウタ・コンプトン)

ヒップホップファンであれば、この映画は見た人は多いだろう。見ていなかったら急いでDVDでも買ってほしい。この作品は、ギャングスタラップの祖ともいえるN.W.A.を題材にした映画で、Dr. Dre(ドクター・ドレー)、Eazy-E(イージー・イー)、Ice Cube(アイス・キューブ)、MC Ren(MCレン)、DJ Yella(DJイェラ)の5人がどのようして音楽の世界を変えていったのかが描写されている。

個人的には音楽をやっている人であれば見てほしい映画であるが、少しツッコみたい箇所もあった。今更かもしれないが、この映画のワンシーンを掘り下げ、少しベクトルが違う推論を書こうと思う。これから書くことは一つの説として、読んでほしい。


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とある描写への違和感

私は西海岸ヒップホップに最も影響されたと言っても過言ではないので、N.W.A.が大好きなのだが、この映画を見たときに違和感を感じた部分があった。今まで数々のN.W.A.やDr. Dre関連のドキュメンタリーを見てきたが、そのようなドキュメンタリーにて描写されていることと少し違うな…と感じたのだ。

それは“Dr. Dreのソロ1stアルバム「The Chronic」が大成功をしているという旨の看板を見て、落ち込むEazy-E”という描写である。

 

以前友達が「Eazy-Eが泣きそうになるシーンが良かったわぁ」と言っていたのだが、私はこのシーンに違和感を感じる。何故かというと

N.W.A.解散後、Dr. DreとEazy-Eは激しくビーフしていたからだ。

これはかなり有名な話しなので、この辺のヒップホップが好きな人は知っていると思うが、ストレイト・アウタ・コンプトンでは描写されていなかった。Dr. Dreの「The Chronic」はいきなり一曲目からSnoop Dogg(スヌープ・ドッグ)が、激しくEazy-EとN.W.A.のマネージャーのジェリー・ヘラーをディスった「The Chronic (Intro)」から始まる。

実際にスヌープはDr. Dreに指示されてEazyをディスっていたのだが、当時スヌープはEazyのファンだったとのこと。さらには次の曲であり、2ndシングルとなった「Fuck Wit’ Dre Day」では、Dr. Dre自身がEazy-Eをディスっている。

 

自分が一緒に育ったやつらを裏切って、俺のホーミーだったけど今はお前は違う

 

という内容となっているこの曲だが、一緒にのし上がったDr. Dreよりマネージャーのジェリー・ヘラーを選んだEazy-Eに対する幻滅の気持ちがメインテーマとなっている。ここで注目しないといけないのは、この後のEazy-Eの行動である。

ストレイト・アウタ・コンプトンでのEazy-Eの反応に違和感を感じる根拠は二つある。

 

① Dr. Dreに対するディスアルバムにて反撃


Eazy-Eが1993年にリリースしたEP「It’s On (Dr. Dre) 187um Killa」ではタイトルからもわかるようにDr. Dreをディスることに全てをかけていると感じる。187という数字は、警察が使用する殺人をさす犯罪コードである。イントロではDr. Dre「The Chronic (Intro)」をパロディしたトラックとなっており、“Real Muthaphuckkin G’s”ではDr. Dreとスヌープを偽ギャングスタと批判している。このトラックはヒップホップ史上に残るディストラックとなっており、リリックだけで判断するとEazy-Eの完全勝利だと感じる。

 

② さまざまなインタビューでの発言


Eazy-Eはさまざまなインタビューにて、Dr. Dreをディスっているのがわかる。特に先程の曲でも語られているように「Dre Day only make Eazy’s pay day」というフレーズが頻繁に使用されている。これは「Dre Day(Dr. DreがEazyをディスったトラック)は俺の給料に追加されるだけだ」という意味である。実際Dr. Dreはこのとき、まだEazyのルースレス・レコーズとの契約期間が残っており、実際にDr. Dreがリリースした曲の一部はEazyに入るようになっている。

このようなことから映画内でのEazy-Eの反応に違和感を感じた。

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信じるか信じないかはあなた次第な説


何故このように、ストレイト・アウタ・コンプトンではEazy-Eの反応をこのように描写したのであろうか?かなり極端な推論かも知れないが、その疑問に対しては一つの面白い可能性が思い浮かぶ。

 

“これは作られた偽のビーフであり、Dr. Dreはなかったことにしたいのかも”

 

なぜ私がこの推論にいたったかという理由がいくつかある。

 

① お互いのキャリアのためのビーフ


最強のグループが解散し、メンバーがソロ活動に専念するというと、そのアーティストたちが落ちぶれると予想する人たちもいるだろう。Eazy-EもDr. Dreもそのような不安があったに違いない。特にEazy-Eが1992年にリリースした「5150: Home 4 tha Sick」EPは50万枚ほどの売上となっており、N.W.A.時代から比べるとかなり減っている。お互いの今後キャリアのために、話題性を作りたかったのではないだろうか?

彼らはIce Cubeが“No Vaseline”でN.W.A.とビーフをしたときに、彼のアルバム売上が跳ね上がっているのを目の当たりにしている。ソロにも関わらず、N.W.A.へのディストラックを含んだIce Cubeの2ndアルバムは1stに比べて、数倍もの売上枚数を見せている。このように彼らは「ビーフが売上をアップする」ことを知っており、利用したのではないだろうか? 時代は違えど、NasとJay Zのビーフも売上をアップさせており、歴史が証明している。

結果Dr. Dreの「The Chronic」は今までとは比べ物にならない、500万枚を超える売上を誇ることになる。また、Eazy-Eの「It’s On (Dr. Dre) 187um Killa」は前回のEPの4倍以上もの売上枚数を見せている。

 

② 「Dre Day」がYouTubeから全て消されている


ストレイト・アウタ・コンプトンが放映されてから、Dr. DreがEazy-Eに対してリリースした「Fuck Wit’ Dre Day」が全て消されているのだ。アップルとの契約のためか、「The Chronic」の曲はほぼ消されているのだが、「Nuthin’ But A “G” Thang」などは残っている。Daily Motionでは残っているようだが、もし契約の問題だったらこちらでも消すであろう。ストレイト・アウタ・コンプトンでEazy-EとDr. Dreのビーフが秒描写されなかったことも考えると、「Dr. Dreはこのビーフを隠したいのでは?」と感じてしまう。

 

③ 葬式にいかなかったDr. Dre


一応Dr. DreやIce Cubeの話では、最終的には和解をし、N.W.A.は復活するはずだったとのことであるが、この2人はEazy-Eの葬式に出席をしていない。Ice Cubeは「最後に見たEazy-Eの記憶を、元気な状態な彼に留めておきたかった」と語っている。この発言はリスペクトできるし、Dr. Dreが葬式にいかなった理由もちゃんとあるのだろう。しかし、もしかしたら「このビーフの真相を墓場までもっていく」という信念だったとしたら、葬式に行くことが自然かどうかについて、混乱しても不思議ではないとも思う。これに関してはただの可能性でしかないので、「もしかしたら」ぐらいのテンションでいて欲しい。

さらに考えられるのが、このビーフにおけるスヌープ・ドッグの役割である。是非先程のリンクも読んでみて欲しい。

 

まとめ


この説を信じるか信じないかは、読者の皆さん次第である。実際に私自身がそこまで信じているわけではないのだが、このようなことがあったらストーリーとして興味深いし、辻褄が多少は合うな、と常に考えていることであった。さらにDr. DreとEazyほどのビジネスセンスを持っていれば、いとも簡単に戦略の一部として実行できるのではないかと感じる。

ただ一つ言えるのは、Dr. Dreは長年の友を失ってしまい、後悔しているのであろう。だからこそ、あえてストレイト・アウタ・コンプトンからこの描写を消したことは間違いない。

そしてこのEazy-Eが車のなかで泣くシーンの本質は

長年の友達が、大人のいざこざが原因で疎遠になってしまい、彼を幻滅させてしまったことによる喪失感なのかもしれない。自分のホーミーたちにはリアルであれ、友を守れというメッセージなのかもしれないと感じた。

ストレイト・アウタ・コンプトンのIce Cubeたちの乱闘シーンについてDa Lench Mobが語る

ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Steezy, incの代表。FUJI ROCK 2015に出演したumber session tribeのMCとしても活動をしている。

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