日本の音楽ファンがまだ知らなさそうなアーティストを紹介する企画④ GoldLink、DRAMなどのプロデュースもするクリス・マクレニー

 

 

全部自分でやるアーティスト

というテーマでPlayatunerでは何度も記事を書いてきた。むしろ最近はまさにこのテーマが多いが、そのようなアーティストを応援するもの、研究するのも非常に重要であると感じる。Playatunerはヒップホップ/ブラック・ミュージックのメディアであるが、私が書く記事の根本にあるものは「エンパワーメント」なのかもしれない。アーティストなどの「ハッスル」、「人生ストーリー」を読み、勇気付けられる方がいたとしたら本望である。そのような意味でも、最近は「水面下」「裏方」であるが、前に出ていこうと努力をするアーティストたちにスポットライトを当てるような記事が多い。

水面下で帝国を築き上げるアーティストたち。「自分で全部やる」というパワーと美学

 

Chris McClenney(クリス・マクレニー)

そんななかで、上記の「水面下で帝国を築き上げるアーティストたち」という記事のなかでも少しだけ紹介した「Chris McClenney(クリス・マクレニー)」という人物について、今回はもう少し深く紹介したい。彼は実は「成功例」として紹介したのではなく、今後水面下で化けるかもしれないという事例で扱った。今後化けるであろうアーティストとしてもう一人挙げた、PlayatunerではおなじみのLouis Coleとは全く違う性質のクリス・マクレニーであるが、彼も驚きのスキルを持っているアーティストである。

実は先日「水面下で帝国を築き上げるアーティストたち」の記事を書いた際に、ありがたいことにクリス・マクレニーの国内流通を行っているレーベルからPlayatuner限定の視聴ミックスを頂いた。そんな試聴ミックスを聞きながら、彼について紹介をしたい。

7月28日に日本リリースされるデビュー・アルバム『Portrait in Two (Japan Deluxe Edition)』からのミックスであるが、やはり気になるのはブギーを感じさせてくれるファンクナンバーと、まるで80年代後半のニュージャックスウィングを彷彿とさせる楽曲である。個人的には2:40からの「Tell Me (Remix)」が非常にツボである。まさにテディー・ライリーのボーカルラインが脳裏によぎる、一度聞いたら耳から離れないキャッチーさを持っている。

彼についての素晴らしいところは、複数あるのだが、そのうちの一つは「楽曲の多様性」である。上記の視聴ミックスでは最初の2曲のような「ソウルの影響を受けたポップス」から、3~6曲目のような「オールドスクールな雰囲気をまとったファンク」までこなしている。

 

裏方としての活動

もし彼のことを既に知っている人がいたとしたら、恐らくKhalidの「Location」、DRAMの「Outta Sight」、GoldLinkの「Dark Skin Women (Remix)」で知った方が多いだろう。このように彼は近年の「流行り」とも言えるフューチャー・ソウル的なサウンドも得意としているのだ。Anderson .Paakの「Am I Wrong」やMac Millerの「Dang!」をプロデュースしたPomoにも共通したサウンドであると感じる。まさに2017年のブラック・ミュージック的なサウンドも、昔のファンク・サウンドもやってのけてしまうのだ。素晴らしい才能である。

 

そして彼の素晴らしいところは、全ての制作を1人で行っているのだ。彼はプリンスやディアンジェロのようなアーティストがセルフ・プロデュース/制作をするのを見て、自身もシンガー/ソングライター/プロデューサー/アレンジャー/楽器プレイヤー/エンジニアと全てを自らでこなすようになったのである。ここまでのマルチプレイヤーは珍しいとも感じる。さらに23歳という若さであり、彼のような存在が世の中に出れるように、応援すべきだと感じる。(なんと彼は弱冠20歳の時に、LAの次世代サウンドレーベル「Soulection」の人気シリーズ「White Label EP」に抜擢されてもいるのだ!)

実は海外メディアでは既に数回取り上げられている。「THE FADER」、Questloveの「Okayplayer」、ソランジュによる「Saint Heron」でもその才能は絶賛されており、先日投稿した「新世代アーティストの面白い売れ方を分析」という記事で紹介したように「無断転載チャンネル」にも楽曲が無断でアップロードされている。この「無断転載チャンネル」にアップロードされ、Spotifyのプレイリストにも次々と入る彼の楽曲は、今後バズる可能性が高いだろう。この時代の「水面下で売れる」アーティストの条件は満たしていると感じる。

楽曲提供をするときに比べたら、ソロの作品は確かに全体的に落ち着いており、もしかしたら一般受けはしにくいかもしれない。また、個人的にはもう少し形式的なサウンドから抜け出し、もう一歩ハッチャケてもいいのではないだろうか?という感想もなきにしもあらずだ。この素晴らしいスキルを持って、内面からオリジナルなサウンドを編み出したとしたら、最強のアーティストになれるだろう。今後が非常に楽しみなアーティストである。

水面下で「麻薬王」的な存在となったBlackbear。新世代アーティストの面白い売れ方を分析、Spotifyの存在

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