音楽業界と技術と立ち上がるアーティストたち。Jimmy Iovineの発言とSZAの例から考える

 

音楽が売れない

と言われてから、結構な年月が経ったと感じる。どこに行っても枕詞のように「インターネットのせいで音楽が売れない」という発言を聞いていたが、今でもそうなのだろうか?このスピーディーな世の中で、アーティストと音楽「業界」の関係性はどのように変わったのだろうか?

そんなことを考えているうちに、「長年音楽業界で活躍し、昔もバリバリに売ってきたし、今も最前線にいる人のインタビューでも見てみるか」という思考に至った。そしてインタースコープ・レコードの創業者でもあり、BeatsをDr. Dreと創業したJimmy Iovine(ジミー・アイオヴィン)の最新のインタビューを見ていたのだ。

Dr. Dreとインタースコープ・レコードの代表Jimmy Iovineの関係を表したドキュメンタリーのトレイラー

70年代からジョン・レノンやブルース・スプリングスティーンのレコーディング・エンジニアとして、音楽業界の第一線で活躍していたジミー・アイオヴィン。彼は80年代にインタースコープ・レコードを創業し、1991年に2Pacと契約したり、デス・ロウ・レコードの親会社としても常にヒップホップ業界を前に進めてきた。Dr. DreのAftermathの流通だけにも留まらず、業界のビッグネームを次々に輩出してきた。さらに彼は音楽だけではなく、技術にも羽を広げている。そんな彼はこのように語る。

 

Jimmy:2003年にスティーブ・ジョブズに会って、私が最初に音楽業界に入ったときのことを思い出した。これからクールになることは、スティーブ・ジョブズが考えていることだと感じたんだ。

音楽業界は、常に技術が問題を解決してくれるのを待っているんだ。でもそれを待っているだけだと、結局は技術に食われるだけだ。だから私は食われないように、その向かい側に渡ることにしたんだ。技術が音楽業界に様々な影響をもたらしていると言われているが、むしろ効果はまだ始まってもいないし、これからさらに影響をもたらすだろう。

今はまだ「カタログセールズ(過去作品)がこんなに売れてる!」って喜んでるんだ。それについて「素晴らしいことじゃない?」って言われるんだけど、もし技術とアーティストの思考が変わらないままだったら、業界の売上は素晴らしいままでいられるだろうね。でもそんなことはありえない。

その変わっていく技術とアーティストの思考の一部にならないと、終わりだ。カタログ(過去作)はいつでも価値のあるものだけどね。

 

彼は音楽と技術の関係についてこのように語った。音楽業界は常に、誰かが変えてくれることを待っているだけだと。しかし彼はインタビューの最後のほうで「動き続ける技術にたいしては、禁止にしても解決にはならないから、一緒にシステムづくりしないといけないんだ」と語っており、これは音楽業界に限らないことかも知れない。Uberとタクシー業界、AirBnbとホテル業界、Netflixとレンタル業界などにも共通する話であろう。CDが売れなくなり、むしろMp3も既に完全に置き換わろうとしている。そう考えると日本では上記で挙げた全業界が、まだ古い体制であると感じる。ある意味先進国?としては面白い状況となっている。

そんななか技術の変換により、アーティストが有利になっている状況もあるとジミーは語っている。

 

Jimmy:最近だとSZAが好きだ。TOP DAWGのところの女性アーティストだ。もし彼女が5年前にレコード契約をしてたとしたら、契約しても12%とか15%ぐらいしか彼女に入らない契約になっていただろう。でも今だと彼ら(TDE)はマスターも全部所有しており、70%も入る契約となっている。それは彼女や彼らがメジャーレーベルと関係ないところで、技術を駆使してバズをつくることができたからだ。

アーティストたちは今では自分で行動を起こして、自分の価値をあげることができている。自分で活動をし、ファンとコミュニケーションをとっている実績があるため、10年前では考えられないぐらい高い契約金で契約するアーティストも増えている。そしてそういうアーティストたちは、それを受ける権利がある。

 

そう、「技術のせいで音楽が売れない」という人たちもいれば、技術の恩恵を受け、今まで以上に自分の作品の対価を受け取っているアーティストもたくさんいるのだ。「誰か助けてくれないかな」ではなく、自分で活動をし、ファンベースを増やすことができたためである。同じ才能を持っていたとしても、それ以前にどのような活動をやってきたかにより、今後の活動の幅が広がってくるのだ。これはお金の問題だけではない。自分の権利を持ち続け、アーティストとして自由に活動をし続けることができるか?そしてアーティストとしての対価をゲットできるかが重要だと感じる。

「時代に合わせ自分で活動をし、自分で問題を解決する」アーティストたちと「技術が解決してくれるのを待っている音楽業界」…よく考えたら問題解決のための思考プロセスの構図は似ており、対応できた人たちが対価を得ているだけという話なのかもしれない。下記のChance the Rapperの記事にも繋がることだと感じる。

Chance The Rapperが大学で講義をした内容に音楽業界の未来が詰まっている②

その活動スタイルを讃え、Playatunerでも頻繁に取り上げているRussというアーティストがいる。彼は「今の時代は自分を業界にねじ込ませることができるんだ」と語っている。彼も自分でプラチナ認定されるほどのファンベースをつくり、メジャーと「自分たちが有利なパートナーシップ契約」を結んだのだ。

自分の権利を持ち続けることの大切さ、アーティストとして自分を安売りしないための地道な活動、そしてこのままだとそんな「時代に対応し続けるアーティストたち」に遅れをとって衰退してしまう「業界」について、長年音楽業界のリーダーとして活躍してきたジミー・アイオヴィンが教えてくれた。音楽業界が「新技術 V.S. 旧体制」のような構図のUberやNetflix側になれるのか、衰退していくのか…?CDが衰退しレコードが復活していることを考えると、個人的には「中途半端な体験」は衰退し続けるのではないか?と感じた。

そして現在「水面下で帝国を築き上げるアーティストたち。作詞作曲ミックスマスタリング全部をやる美学」という気合いを入れた記事も書いているので、そちらも公開されたら注目だ。今のところは下記の記事を読んで頂きたい。

水面下で帝国を築き上げるアーティストたち。「自分で全部やる」というパワーと美学

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