Vince Staples「メディアや世間のイメージがラッパーたちにプレッシャーを与えている」彼の超リアルトーク。

 

 

若手でリアル

なラッパーと言ったらVince Staplesを思い浮かべる。Playatunerでは彼の理念に共感し、今までも何度か彼の音楽やその裏に見える想いを紹介してきた。特に彼の新譜「Big Fish Theory」は誰にも擦り寄らない彼のパーソナリティが見えてくる素晴らしいアルバムであったと感じる。

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そんな彼がインタビューにて語っていることに非常に共感したので、またもや紹介したい。彼の理念だけではなく、これは業界全体に言えることなのではないだろうか?恐らく音楽ファンの多くが疑問に感じていたであろう世間のアーティストへの対応について、彼はこのように語った。

 

Vince:90%ぐらいの話題は、作品のクオリティについてじゃないんだ。この番組以外で音楽について話したり、音楽の質問をする番組/インタビューってあるか?

Ebro:確かに…ないな。

Vince:だろ?いつもインタビューの原稿や質問リストみたいなのが用意されているけど、大体はインスタグラムやSNSでの活動についてや、どんな生活してるかとか、他のインタビューで言ったことについての質問ばかりだ。例えば昔Lil YachtyやLil Uzi Vertがこの番組に出たとき、音楽の話しをしていたから、それが話題になったんだ。んで結局その後のインタビューは音楽の話ではなく、「Ebroはあなたにこのように言いましたが〜」って質問ばかりだった。

 

大多数のインタビューが音楽について聞かないと語ったVince Staples。これについては薄々感じている音楽ファンも多いと感じる。インタビューをしたとしても、SNSで言ったこと、私生活のイメージ、他のインタビューで言ったことについて聞かれるとのこと。さらにEbroの質問にこのように答えた。

 

Ebro:Vinceはそのような「イメージ」や、世間からホットだと思われることを目的としていないわけで。そういうのを求めている人たちを好まないってこと?

Vince:そういうわけじゃないんだ。コンシューマの視点で見ると、結局は「どれだけホットな話題になっているか」か「どれだけお金を持っているか」という形で認識をされるんだ。もし「ファン」や世間が「素晴らしい音楽だけをあなたに求めている…」という総意だったとしたら?確実にラッパーとかアーティストの心も態度も、もう少し落ち着くだろう。もちろんそう考えている人も世の中にはいるが、世間が求めているのはそういうことじゃない。皆どれだけお金を持っているかとか、どんな生活をしているのかとかばかり気にしている。

実際にBossipやBaller Alertのようなゴシップや私生活を報道するようなSNSアカウントのフォロワー数やRT数は、デフ・ジャムやインタースコープのようなレコード会社のものより多いし、まさにそのことを物語っている。YouTube上だってそうだ。人々はラッパーのライフスタイルばかり気にしているんだ。別それはいいんだけど、それにフォーカスすることにより、ラッパーやミュージシャンが注目を得るためだけの活動をしはじめる。

 

音楽をつくるということではなく、どれだけホットな話題になっているか?で判断されると語るVince。実際にそのようなゴシップが音楽そのものより、人々の生活レベルに入り込んでおり、人気なのである。ライフスタイルにばかり注目が行くから、それをよく見せようとする活動に力を入れるラッパーが増えるのは必然的だと語る。この発言は続き、この悪循環にたいしてさらに深く行く。

 

Vince:ラッパーだって人間なんだ。「そういう注目を浴びないと生き抜くことはできないよ」と暗に言われてるようなもんだから、音楽を作り続けサバイブするために、そういう注目を浴びるためのコンテンツをつくるようになる。そしたらそれはそれで「お前の音楽はゴミだ」って言われるんだ。

「お前の音楽なんてどうでもいい。どんな車を運転してるか、どれだけお金を持っているか、誰と付き合っているか、履いてるジョーダンやYeezyが偽物かって話題にしか興味ない」ってくせに、ラッパーたちがそれにフォーカスしたとしたら「お前の音楽はゴミだ」って言われるんだ。くだらねえ。最後に音楽を自分の本質に置いてるラッパーたちが出てきたのなんて、かなり前の話だ。ケンドリック、J. Cole、Drakeとかが全員同時に出てきた時期だ。そしてそれは最近に感じるかも知れないけど、もう結構前の話だ。実際には2008年とか2009年の話だが、インターネットが動く速度的にはもう充分昔と言える。

例えば数年前はシカゴのドリル・ミュージックが流行っていた。でも今では誰も覚えていない。当時は世間が彼らのバイオレンスにハイプしまくった。そのなかで気に入った数人のアーティストを選んで、他のアーティストたちは「どうでもいいや」って感じで野ざらしにされた。そのバイオレンスだけが残ったんだ。その後は「今流行ってるのはこれじゃないからw」みたいな感じで全員が忘れられただろ?あのバイオレンスが格好いいともてはやされ、皆が有名になりたいから実行をした結果、実際に多くの人が死んだ。当時全部のMVが同じようなMVだった。「違う音楽、アイディアもやっていいんだ。」って言ってあげれれば良かったのかもしれない。でも彼らに注目が与えるものはバイオレンスだったし、彼らは食わないといけないから注目を浴びることだけをやっていった。

 

「そういう注目を浴びないと生き抜くことはできないよ」と暗に言われてるようなものだと語る。さらにその注目を浴びたら浴びたで「音楽がゴミだ」と言われ、消費される。彼は例としてシカゴのドリル・ミュージックについて語った。今ドリルについて取り上げているメディアなんてあるだろうか?ないと感じる。さらに「大成功しないといけない風潮」について語る。

 

Vince:なんでEbroの態度が嫌いって言う人がいたり、ヘイターが湧くか知っているか?それは音楽について、自分の意見を持って、話しているからだ。Ebroが「◯◯の音楽が好きじゃない」と言うと、皆「彼は金を稼いでるし、稼がせてやれよ!お前はヘイターだ!」って言うだろ?でもそういう音楽について話す風潮を作るのは1人じゃできないんだ。

実際にネットではなく、現実で音楽について話している人たちは多くいる。だからJ. Coleとかは、なんてネット上で言われたとしても、スタジアムを満員にできるぐらいのファンがいるんだ。それは彼が既にこのレベルの話しから一抜けしているからだ。彼やケンドリックはもう既に10年前からいる人で、もうファンベースやキャリアが形成されている。10年前と今ではネットの状況も全然違うし、求められているペルソナも全然違う。今の新しいラッパーたちは、こういうゴシップ的な注目が求められているし、もしケンドリックが今新人として出てきたとしたら、SNS活動に注力せざるを得ないかもしれない。全員が全員ケンドリックのような活動をして、注目を浴びることができるわけじゃないんだ。

Ebro:でも全員がそうやって「勝つ」わけじゃないんじゃない?

Vince:そうだよ。じゃあそうやって全員が「勝たないといけない」って風潮を止めようよ。皆いつも「ラッパー」って言うとドレイクのように成功しないといけないってイメージがあったり、金を稼がないといけないってプレッシャーがあったりするんだ。インタビューでも、いつも「いい生活できるようになった?」とか「どんぐらい稼いでる?」とか「フォロワー何人?」みたいな話しになるし、そうやって「ラッパーは成功して金持ちにならないといけない」というステレオタイプでプレッシャーをかけてるんだ。そういう「自分が信じている音楽をつくる」という点以外で、知らずの間にプレッシャーをかけてる。だから全員が全員そういうイメージで活動をしないといけないと感じてしまうんだ。俺はまぁまぁな条件で契約して、生きていくには充分なお金を稼いで、ツアーをすることを学べた。俺は「成功」しなくても、それでいいんだ。俺は音楽作品を作るためにここにいるんだ

俺らのホーミーたちで亡くなったやつらも、元々はそういうことをやるようなやつらじゃなかった。「大成功」して、金をめちゃくちゃ稼いで、注目を浴びないといけないって風潮がプレッシャーとなってそういう行動を起こすんだ。「大成功」しないといけないと思ってるやつらが、注目を浴びるコンテンツを作りたがるのは当たり前の話だろ?もしこういうやつらに「そんなイメージ/プレッシャーはない」って世間が言えてたら、皆「注目される内容」じゃなくて、普通に自分がやりたい音楽を見つけて、「音楽」を作るだろう。いつもインタビューする度に「いい生活してるんだ?」とか「どんな車乗ってるの?」とか聞かれるのは、そういうことだ。こういうことを言われまくっても、気にしないほどのメンタルを持っているやつばかりじゃないんだ

 

「勝たないといけない風潮」「超金持ちにならないといけない風潮」にたいして物を申したVince。これに関しては、様々な意見があるだろうが、私は概ねこのインタビューと同意見である。アーティストのインタビューを読んだときに、SNSの質問や、ゴシップ的な質問が多くてうんざりするときもあるだろう。Playatunerでも何度も言っていることであるが、やはり「作品を作ること」が本質であり、大切なのはその作品と、その作品の裏にある理念や、その理念を紐解くためのエピソードだと感じる。もちろんいい暮らしができるようになったがため、それをコミュニティに還元できるようになった、というエピソードは積極的に取り上げているが、それも彼らが「作ること」に集中した結果だろう。

海外ネタのメディアなどでも、結局フィーチャーされるのは「◯◯がステージからヤバイ飛び降り方をした」や「◯◯が喧嘩になった」や「◯◯が浮気した」などのコンテンツである。インタビューでもそのような質問が多いのもあり、インタビューを嫌う海外アーティストが多い理由もわかってくる。しかしそれが世間で「人気」であり、それが「カルチャー」だと思われているのは、Vinceが言ったように数字を見れば明らかだ。弊メディアでも必要に応じてゴシップっぽいネタも数回取り上げたこともあるのであまり強く言えないが、音楽に絡めたり皮肉る場合が多い。やはりアーティストは作品にとんでもない時間と労力をかけているので、特にインタビューでは音楽やその裏の理念に通じる内容を聞きたいと思っている。(GoldLinkのインタビュー

このプレッシャーが止まらない限り、ラッパーたちは本質ではないところに囚われ、ドリル・ミュージックと同じように、大半が数年後には消えていくのかもしれない。しかしこの「イメージ」がヒップホップ内から発生したものという側面も少なからずともあると感じる。長年培われてきた「成功」したアーティストのイメージが、一般世間の憧れとなり、注目の話題になっているのかもしれない。恐らくJay-Zが4:44にて若手をおちょくったのも、このような側面があると感じる。彼は単にディスっているのではなく、オリジナルなスタイルで長年のキャリアを持っているからこそ、若手に「消費されてほしくない」という心配をかけているのかもしれない。もちろん若手が全員Vinceの言っていることに当てはまるわけではない。実際にインタビュー中でもVinceは「Lil Uziがここまで成功できているのは、求められているイメージを提供できているだけではなく、絶え間なく音楽を作り続け、ライブもし続け、「アーティスト」として働き続けているからだ。」と語っている。

 

アーティストとメディアとリスナーの関係について考える。Vic MensaとユーチューバーDJ Akademiksの確執からわかる「恐ろしさ」

ライター:渡邉航光(Kaz Skellington)

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