The Grind Filez ①: Raz Fresco – Raekwonなどの大御所ともコラボをするカナダのアングラ凄腕リリシスト

 

 

The Grind Filez

「グラインド」という言葉はPlayatunerで頻繁に提唱しているスラング的な言葉である。ニュアンス的には「ビジョンや目標に向かって毎日集中して努力すること」という意味であり、今まで「グラインド」をテーマにした記事は何度か書いてきた。恐らくまだ日本で定着していないこの言葉であるが、私は様々な分野で目標に向かって努力している人や、まだ自分がやりたいことに飛び込めていない人の糧になるように、アーティストたちの「グラインド」を紹介してこの言葉を広めたいと思っている。

カムアップするラッパーにとっての「地下室スタジオ」の役割。音楽にコミットできる環境づくり

 

その意図もあり、今後は日本を含め世界中で「グラインド」をしている、カムアップ途中のアーティストに簡易的なインタビューをする「The Grind Filez」というシリーズを始めたいと思う。そんな初回で紹介するアーティストはRaz Fresco(ラズ・フレスコ)である。

 

① Raz Fresco(ラズ・フレスコ)

彼は1995年生まれのオンタリオ州出身のラッパーである。彼は22歳という若さであるが、もう何年も水面下にて噂されていた人物である。自身もプロデューサーとして、Mac Miller、Tyga、Big Sean & Wale & B.o.B、French Montanaにビートを提供した経験を持っており、知名度がいつ全国的に爆発するのかが楽しみなラッパーの一人である。彼はかなりヘヴィに「グラインド」をしており、彼の事例を聞くとやる気が湧いてくる人もいるだろう。

そんな彼は、自身が参加したMetropolis EPというコンピのプロモーションも兼ねて、2017年に来日していた。その際に彼と会食を兼ねて話しを聞くことができた。入国時に色々トラブって最初の3つのライブに出演することができなかった彼であるが、開始と同時に急にボイスレコーダーを手にとり、「日本にきてから一度も違法なドラッグやウィードやってないぜ!」とアピールしはじめた。

音楽を明確に始めた時期というのは思い出せない。人生記憶があるうちはずっと音楽をやっていた。

と語るRaz。彼の叔父さんはEarl Zeroというルーツレゲェのアーティストであり、音楽が血に通っていると自分自身で感じているようだ。彼が2017年にリリースした「H.U.S.T.L.E.(How U Survive Through Life Everyday)」は「どのようにして毎日を生き抜くか?」というタイトルの頭文字を取っており、彼のストーリーを聞くといかに彼がアンダーグラウンドシーンで「サバイブ」しているかが伝わってくる。リリシストとして非常に高い評価を受けている彼は、地元ブランプトンで活動していたが、彼のキャリアが米国で開花しはじめたのが、あの名門「Duck Down Music」と契約したときであろう。現在は契約期間が終わり、Duck Downと一緒に仕事はしていないと語る。

そんな彼はプロデューサーとしてMac Miller、Tygaなどのアーティストにビートを提供しているが、その方法が非常に現代的で面白い。彼はこのように語る。

 

➖ Mac MillerとかTygaはどうやって繋がったの?

Raz他のラッパーたちのビートは全部ツイッターで声をかけたことによってやることになったんだ。例えばMac Millerだと、まだ彼が8000人ぐらいしかフォロワーがいなかったときに、連絡をしてネット上で仲良くなったんだ。それで彼はいつも俺に「ビートが欲しい」って連絡をしてくるようになった。

Tygaの件もそうだ。まだYoung Moneyのアルバムをリリースする前のTygaだったから、同じくツイッターで自分から連絡をしてビートを提供した。でも当時はまだそこまで有名じゃなかったから、学校の友達とかも「え、Tygaって誰?」って感じだったのが面白い。今ではありえないけど。

 

➖ まだ世に出てないプロデューサーがどうやって発掘されるのか?ということは結構Playatunerでも発信していて、Chance the RapperのNo ProblemsもBrassTracksがツイッターで連絡したものだったんだよね。

Razそうだね。それかYouTubeにビートをアップロードするかだね。Young M.A.もYouTubeから取ったビートだったし、それが売れたからあのプロデューサーも今ホットだし。

➖ DesiignerのPandaもそうだよね。

RazだからYouTubeにまたビートをアップロードしないとなーって最近思うんだ。最近は自分の曲だけアップしているから、そのビートもアップして、誰かがそのビートを使ってバズったら俺の曲も有名になるようにしたいよね。

 

彼はなんと「まだ有名ではないがこれから有名になるだろう」というアーティストとツイッターで仲良くなり、トラックを提供していったのだ。もちろんそのアーティストの作品が好きだから仲良くなったと思うのだが、実際にこれはロングスパンで考えると非常に効果のある施策ではある。得にトラックメーカーとしては非常に重要なメンタリティであろう。個人的にはAnderson .PaakがBreezy Lovejoyという名前で、YouTubeの再生回数が1000回ぐらいしかなかった頃に彼の音楽を知ったのだが、当時ネット上でコンタクトを取っていれば面白いことになっていただろうと思っている。

さらに彼のグラインドっぷりを知るために、このような質問を聞いた。

 

➖ 多分Playatunerの読者はカムアップしようとしているアーティストとか目標を持っている人が多くて、そのなかで自分の好きなことを仕事できるように応援したいと思っていて。

Razそれはいいね。

 

➖ だから結構他のアーティストのカムアップの事例とかを紹介することが多くて、Razのも教えてもらえないかな。

Raz: いいよ。てか、俺のカムアップは今見てる通りだよ。今カムアップ中だ。

 

➖ 今までどんなことをした?

Raz: あ、そうだ。Tory Lanezって知っているでしょ?俺と彼はどちらもブランプトンってところに住んでたんだ。だから彼の家でレコーディングをしてた。俺はそこで最初のミックステープをレックしたんだ。ブランプトンではカムアップしようとしているアーティストが多いから、大体皆知ってるんだ。んで俺も長くラップしてるから、大体皆が俺のことを知ってたんだ。

そのなかで、俺はCurren$yのような「グラインド」をしているアーティストの事例を見て、15歳ぐらいのときに「ミックステープを作って、MVをリリースして、プロモーションをやり続ける必要がある」って気がついたんだ。それでMVをリリースして、ブログとかメディアに片っ端から送りまくったんだ。

 

➖ ブログとかメディアに送って効果ってあった?個人的には独自コンテンツに信頼性があるところじゃないと効果ないと思うんだよね。

Raz: というか実際にはほぼ反応がなかったね。「ヒップホップブログ」ってググって、見つけたメールアドレスに片っ端から送ったけど、反応がなかった。でもWorldstar HipHopにMVを掲載して、それがきっかけで話題になったりした。それを見たDJ Holidayのマネージャーが連絡してきて、アトランタに行って当時マネジメントの契約を結んだんだ。そのときにJermaine Dupriとか、Chaka Zulu(Ludacrisのプロデューサー)とミーティングをしたりしたんだ。French Montanaとか、Big Sean & Wale & B.o.Bの「First Class」はDJ Holidayに繋げてもらってプロデュースすることになったんだ。

 

➖ 結構色んな場所に実際に足を運んで活動してるよね?

Raz: あとはかなり頻繁にNYにいって、知り合いの業界の人に毎回「誰か俺の音楽を聞かせられる業界人いない?」とか「誰かミーティングできる人いない?」って聞いて回っていたね。その時は16歳ぐらいだったけど、100枚のCDを箱に入れて、本当に誰にでも会いに行ってた。自分でセルフプロモーションをするツアーとかもやって、色んな土地を回っていたんだ。ピッツバーグでは道端で声をかけた白人の家に泊まらせてもらって、彼がジム行ってる間に留守番したりとか(笑)色んな土地に行って、レコードショップとかにCDを渡していくんだ。

 

実際に当時16歳という若さでCDを持ってアメリカに渡り、様々な人に会いに行ったのだ。彼の行動力には驚くばかりだ。実際に彼は非常に速いペースでミックステープをリリースしており、さらに自分の曲だけではなく、クルー「BKR$CLB」のラッパーたちのプロダクションも担当している。

 

➖ BKR$CLBってどんな集団?

Raz: Wordstarに掲載された後、色んな人から連絡がきて一緒に作業するようになったんだ。そこから発展していって、一人が有名になったら皆が有名になるようなムーブメントを作りたいと思ったんだ。それはブランプトンだけではなく、アトランタとか色んな場所にいる人たちだ。ChillxWill、The 6th Letter、Lo Thraxxの曲もめっちゃプロデュースしていた。

 

まだ22歳という若さで、ここまで多くの作品をリリースしているアーティストはなかなか少ないであろう。彼のこの生活は本当に音楽に全てを捧げているからこそできるものなのだろう。さらに彼の地元について聞いてみた。

 

➖トロントで活動するのはどんな感じ?

Raz: 一時期ホームタウンでは全然有名じゃないことに気がついたんだ。今の時代ではインスタグラムとかあるから、ホームタウンでバズを作らなくても大丈夫かもしれない。でも少し前まではホームタウンからの支持がないと駄目だったんだ。

しかもDrakeがまだ有名になる前だったし、本当にトロントはローカルだった。Drakeが出てきてからトロントは注目されるようになったし、トロントの人たちもトロントのアーティストをサポートしはじめたんだ。でも当時は地元のアーティストをサポートする風習があまりなかった。アメリカで流行ってるものにディックライドしてばかりだったんだ。まぁDrakeが出てきてからホームタウンプライドみたいな感じになったけど。それで俺はカナダでも知名度をアップさせるために、カナダのマネージャーもチームに入れたんだ。俺は2012年から2013年の間、トロントにきたラッパー全員のオープニングアクトをやっていたよ。ATCQ、J. Cole、Method Manとか、本当に全員のOAをやった。

 

彼はトロントのシーンのDrake前とDrake後の違いについて語った。実際に彼はDrakeが有名になる前からローカルのアーティストとして活動をしており、Drakeが有名になってから、トロントのリスナーは地元のアーティストをサポートするようになったと語っている。これは非常に興味深い話である。メッカとして米国のヒップホップをサポートするのは素晴らしいことであるが、地元から超ビッグになったアーティストが出て来ると、ローカルのアーティストをサポートする人々が増えるのだ。日本でこのような例はまだ世界レベルでは見えていない気がするが、いつかその現象を見ることができるのだろうか?

さらに最後に彼がどのようにして「音楽にフォーカスできる環境」を作っているかを聞いてみた。

 

➖ 音楽にフォーカスする環境をつくるのに苦労したことある?

Raz: 俺は人生でずっと音楽をやってるんだ。音楽は俺のクリエイティブのアウトレットであり、人間は感情的な生物だから、そうやって音楽で発散するんだ。今、「環境」って言ったよな?俺の場合は環境を音楽に合わせるんじゃなくて、音楽がそもそもの環境になるんだ。俺にとっては周りで何が起こってるかは関係ない。いつも何かしらの事件が起こっているけど、自分が音楽を作るという行為は変わらないんだ。あとはもちろん日中は誰かが連絡してきたり、色々予定がある時もあるから、夜に制作をする場合も多い。

「社会」という意味での「環境」としては、世の中は結構ヤバイと思うね。俺は若者として、世の中の「仕事」をやるつもりはないよ。今自分が好きでもない仕事をやっている人は「ファイナンシャル・スレイブ(金銭的な奴隷)」だ。今は肉体的な奴隷の時代ではないが、メンタル面で奴隷になっている人たちが多い時代だ。俺はそうなりたくないし、絶対にならない。

ただ、くすぶってる貧乏アーティストになるのはクールじゃないから、もし仕事をしながらでもクリエイティビティを維持できるのであれば、両立するのはいいだろう。「金がない」ということは「自分に投資できない」ということだ。そういう状況になると、金を持っている人に「搾取」される可能性がでてくる。俺も過去には仕事をしているときもあった。

でもこの世の中では、世間と自分の関係が「奴隷とマスター」みたいになってるやつも多い。例えば奴隷が逃げ出すときに、他の奴隷に「逃げ出すなんて無理だ!お前が逃げ出すならマスターに言いつけるぞ!」と言われたり、奴隷をやっている人たちは「自分には無理だ」というメンタリティになってしまう。今の世の中でも「仕事を辞めて自分の好きなことをやる」って言うと、「そんなの無理だ!絶対に失敗するからやめておけ!」って言われるだろ。それと同じだけど、俺は絶対にそうなりたくないんだ。

 

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