Vic Mensaデビューアルバム「The Autobiography」は彼の人生をなぞった作品【一聴レビュー】

 

 

デビューアルバム

はキャリアのなかでも最も重要な一枚となるであろう。自分のサウンドを定義づけし、世の中に自分という存在をを示す重要な作品となる。そのような意味では常に進化し続けるアーティストにとっては、どのアルバムもデビューアルバムとも言える。そんなデビューアルバムの重要性も、時代と技術が進化するにつれ薄れてきている部分もあるが、やはり長年待っていたデビューアルバムがリリースされるとテンションが上がるのは私だけではないだろう。

そんな長年待たれていたデビューアルバムをリリースしたラッパーがVic Mensa(ヴィック・メンサ)である。Jay-Z率いるロックネイションの一員として契約した彼であるが、この度デビューアルバム「The Autobiography」をリリースした。彼のデビューアルバムの理念については以前下記の記事にて紹介したので読んでいただきたい。

「助けを求めてもいいんだ」Vic Mensaのデビューアルバムに込められた理念から見る「痛みを自覚すること」

 

そんな彼のアルバムが7月28日に正式にリリースされたので、いつものように一回聞いて率直なレビューをする【一聴レビュー】を開催をしたい。

 

【一聴レビュー】

このアルバムを一回聞いて素直に感じたのは「アルバムの内容にぴったりなタイトルだ…」ということである。「自伝」という意味のタイトルであるが、このアルバムは彼の「内」と「外」のバランスが上手くとれていると感じる。「アーティスト」として内面を見つめなおした部分、そして活動家としてシカゴのリアルを発信していく外部的要因、その多面性が素晴らしい。私のGoldLinkのインタビューでも伝わると思うが、私が個人的にそのような作品が好きなのもある。

1曲目「Didn’t I」はソウルフルなサンプルからはじまる。「俺がトップへ昇りつめるって言っただろ?」というサビからはじまり、今までの自分の人生についてラップをする。彼の曲を聴いていると、「人生というものを書き起こしてみるとドラマになる」ということが伝わってくる。

今までの自分が抱えていた問題について歌っている曲も多い。「Homewrecker」ではWeezerをフィーチャリングしているのだが、これは次の曲「Gorgeous」とつながっているテーマな曲にも思える。両方とも自分と交際していた人との問題、そして彼の浮気と2人の女性との交際について歌っている。GorgeousではSydの声と歌い方が内容と素晴らしくマッチしている。トラックもかなり好みだ。

 

「Rage」などは彼の痛みの隙間を縫って漏れてきた叫びのようにも感じる。多くの人が自殺するなか、自分の問題と向き合い、「怒り」を放ちながらも希望を見出していくのだ。「おもちゃのピストルを口に入れて、撃つ。もし本物だったら死んでいた。でもなんて馬鹿なんだろう。多くの子供たちは俺と人生を交換したがっているのに。でも俺が人生をかけて”時間”をゲットしたことを彼らは知らない」というラインが非常に印象的である。

ファレルをフィーチャリングしている「Wings」では「日々を無駄にしすぎたか?死んだら俺を愛してくれるだろうか?いつか飛べるようになるのか?」と語っており、この曲でも自分が抱えていた鬱症状についてラップしている。

個人的に好きなリリシズムの一つは「Heaven on Earth」であった。1stヴァースでは、強盗をされ亡くなってしまった彼の友人Killa Camへの手紙の内容をラップしている。そして次のヴァースではKilla Camの返事をラップする。そして3rdヴァースはVicのファンの視点からのラップとなる。そしてそのファンの「あなたのインスタに載っていたKilla Camの写真を見て、気が付いた。以前俺が強盗をして、過って殺害してしまった人がKilla Camだったんだ」という発言がオチとなり、曲が終わる。この曲のオチへの持っていきかたはエミネムのStanを彷彿とさせる。

他にはChief KeefやJoey Purpのようなシカゴネイティブとコラボをしてり、シカゴのバイオレンスについて歌っている。その環境がメンタルに及ぼす影響などをアグレッシブに歌う彼の姿からは、マルコムXに影響されている感じが伝わってくる。

このアルバムを通して感じたことの一つとして、モダンなサウンドやトラックを使っているにも関わらず、音自体はかなり柔らかいということである。なんとなく昔の写真やフイルムを見ているかのような感覚に陥るミックスとなっており、アグレッシブのなかの「落ち着き」、「人間の内面的な弱さ」が伝わってくる。そのような意味でも全曲通して聴ける作品となっており、曲間の繋がりなども相当こだわっているにも違いない。彼の人生にて感じてきたことが率直に描かれており、物凄く考え込むような作品ではないが、「Vic Mensaという人物」、そして彼の理念が伝わる作品となっている。デビューアルバムとしては素晴らしい出来になっており、「ロックネイションの新時代の幕開け」を感じた。

以前彼がシカゴから引っ越し、LAべバリー・ヒルズに引っ越したと報道があったが、今後彼がどのようなコンテクストの作品を出していくのかが非常に楽しみである。彼の鬱症状と向き合ったこの作品は、世の中の同じような問題を抱えている人たちの心へと響くだろう。その問題と向き合い、認めた自分自身を抱擁する人が増えることに貢献する作品となるかもしれない。このアルバムは、とある理由により全然売れていなく、その問題を定義した記事が下記となるので、是非チェックしていただきたい。

アーティストとメディアとリスナーの関係について考える。Vic MensaとユーチューバーDJ Akademiksの確執からわかる「恐ろしさ」

ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington):カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼Playatunerの代表。umber session tribeのMCとしても活動をしている。

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