Chris Brownから見る「栄光と苦悩を経験するスーパースター」自分が人に与えることができる価値に情熱を注ぐこと

 

Writer: Kaz Skellington, Lindsay

 

近年のシンガー/ダンサー/エンターテイナー

のなかで最も才能があり、インパクトが大きかったのは誰だろうか?マイケル・ジャクソンやプリンスが築いた「スーパースター」というキャリアレベルに達するアーティストはなかなかいないが、そのポテンシャルがある人物が2005年にデビューした。それはChris Brown(クリス・ブラウン)である。彼はマイケルから非常に影響を受けているのはもちろん、2010年のBET Awardsでの追悼パフォーマンスを見ても、次世代のマイケル・ジャクソンと言っても過言ではないポテンシャルを持っていたのではないだろうか?

彼の名前を聞くと、とあることを思い出す。それはアーティストと私生活のスキャンダルについてだ。彼はリアーナの暴行事件であったり、その他多くの暴行/脅迫事件の渦中にいた人物であり、バラエティ番組が飛びつきそうな「海外セレブ」な波乱万丈な人生を送っている。今まで実はPlayatunerではChris Brownについては「あまりにも恥ずかしいスタートをきった2017年のヒップホップ」という記事でしか書いたことがなく、そのときは彼とSoulja Boyの喧嘩をネタに、「やっぱ音楽にフォーカスするって大事だよね」という記事を書いた。しかしこれは彼のアーティストとしての功績/作品を無視したものであり、「それはそれで申し訳ないな」という気持ちもあったので、今回は新作「Heartbreak on a Full Moon」の発売を記念して、逆に簡単に彼の功績について書き、そこから「アーティストとしての苦悩」について考えたいと思う。

 

功績

13歳で父親が働くガソリンスタンドにスカウトマンが訪れたことがきっかけで業界に入ったクリスは、ボビー・ブラウンやマライア・キャリーの凄腕プロデューサーであるLAリードに注目され、一般的にアーティストが経験する下積み時代をほぼ経験しないままデビューを飾った。16歳でリリースしたファーストアルバム「Chris Brown」は全世界で220万枚を売り上げ、ダブル・プラチナに認定されている。もちろんデビュー作で220枚以上売っているアーティストは多くいるが、今やグラミー賞を含む計40もの受賞歴を持っているアーティストは業界でも一握りだ。アルバムのリードシングル「Run it!」はビルボードHot100いきなりの1位を獲得し、彼はモンテル・ジョーダン以来初のビルボードHot100にて1位デビューした男性アーティストとなった。

もちろんシンガー/ダンサーとしても一流であり、数々の大物アーティストが彼のスキルを絶賛している。彼のドキュメンタリー「Welcome to My Life」では、メアリー・J・ブライジが「彼は天才。マイケル・ジャクソン並みのね。ステップや動きは見たことがあるのに、クリスがやるとまるで別物になる。」と断言している。さらにはレーベルと契約する以前から相談役として兄のような存在であったUsherからは「マイケル・ジャクソンの再来だ。」言われている。マイケル・ジャクソンと誰かを比べるという時点で、既に熱狂的なファンに怒られそうであるが、Usherにそこまで言わせるとは類稀な才能を持っていることがわかる。

甘い歌声もさることながら、そのダンススキルも彼が高く評価される大きな要因である。選び抜かれた実力派バックダンサー達に引けを取らない表現力もさながらも、彼が新曲のPVを配信する度に、世界中のダンサーが彼のダンスを完全コピーし、SNSにアップしているという現象が起こっている。そのように考えると、「アーティスト」としての影響、そして世界へのインパクトはかなり大きく、ここ10年で最もアイコニックであったアーティストのうちの一人だと言っても過言ではない。クリス・ブラウンはデビューしてからひとときも話題が欠けることなく「激動の」アーティスト活動を続けてきた。

 

アーティストとプレッシャー

物事には光と闇があると言われることがあるが、彼の人生もまさにそのように形容することができる。Playatunerでも紹介したScott Storchのように成功の手にした者がその後転落人生を送ることは音楽業界ではよくある話だ。それが「よくある話」となってしまうのは、何故なのだろうか?数々の暴行/脅迫事件の裏には、やはり「有名税」的なものがあるのだろうか?

よくよく考えてみると、彼が1stアルバムをリリースして、いきなりNo.1アーティストになったのは、16歳のときである。16歳と言うと、世間的には反抗期だったり、「あー学校いきたくねー」とか言っている時期である(もちろんそうではない人もいるが)。そんな「人生のヴィジョンが見えていない時期」に、世界中の注目/期待/批判/富をゲットしてしまったのである。バージニア州の家庭で育った彼は瞬く間にスターになり、使い方もわからないまま10代で巨額の富を手にした。彼は一時期は世間からのマイナスイメージやファンからのプレッシャーによって、やる気や情熱を全て失ってしまったのだ。自殺も考えたとインタビューで語っており、精神安定剤を飲んで家からは一歩も外に出ないという生活を送っていたそうだ。

彼のドキュメンタリーにてインタビューされたジェニファー・ロペスは「音楽で彼ほど成功してしまうと、ファンや世間が過度に期待をする。その重圧は計り知れない」と語っている。人気の絶頂だったクリスには、その成功と同じくらいのトラブルが常につきまとっていたのだ。これはPlayatunerにて頻繁に書いている「アーティストと鬱症状」というテーマでもあり、最近だとLinkin Parkのチェスターについて書いた記事が自分の考えを書きなぐったものだった。また以前Zeebra氏にインタビューをしたときにも彼は「アメリカのエンタメ業界は、巨大になればなるほどイカれてるんだろうな」と語っており、恐らく私たちリスナーからしたら想像もつかないプレッシャーのなか、毎日を送っているのだろう。

しかしこれらの事実は彼が犯した過ちを正当化できるものではない。正当化できるものではなく消えることがない過去ではあるが、彼はリアーナとも仲直りしており、その精神的どん底から音楽の世界に復活している。その後、2012年にアルバム「F.A.M.E.」でグラミー最優秀R&Bアルバム賞を受賞しており、苦悩や失敗を乗り越え、彼は本物の「スター」になったと言っても過言ではないだろう。

ここ数年のクリスの楽曲には大きな変化が見られた。愛娘ロイヤリティちゃんが生まれた事が大きく影響しているように思う。そんなロイヤリティちゃんは3歳でクリスと同じくアパレルブランドのオーナーを務めており、SNSでクリスは愛娘と一緒に遊ぶ姿を披露し、世間からは以前のイメージからは想像もつかない「良いパパ」として評価されるようになった。守るべきものができたクリスの表情から曇りは無くなったように感じる。それは16歳なレックレスな少年が大人になった瞬間だったのかもしれない。

今後

そんな公私ともに持ち直してきている彼は201711月15日、コラボレーションアルバムを含めると通算9枚目のアルバム、「ハートブレイク・オン・ア・フル・ムーン」をリリースする。45曲収録という今までにないボリューム満点の内容であるが、既にゴールドディスクに認定されている「Privacy」、そしてUsherGucci Maneをフィーチャリングしたシングル「Party」は、過去にクリスのツアーに参加した経験もある日本人ダンサーRIEHATAのクルーがPVに出演している。キレのあるダンスと日本語を披露し、国内でも話題になっている。

彼の人生を見ていると、過去を振り返って自分自身に問うことで、理想の自分になる為に軌道修正することの重要性を感じる。自分が誰で何をするべきかなんて、他人は教えてくれないのだ。彼は道を踏み外したかもしれないが、ステージに立つべきスターであることを選んだ。そして今後もその「自分が人に与えることができる価値」に情熱を注いでほしいと感じる。個人的には「クリス・ブラウンにしか出せない音」という観点も今後は見てみたく、今もまだ20代という若さの彼が今後どのようにアーティストとして成長するのかが楽しみである。

いいね!して、ちょっと「濃い」
ヒップホップ記事をチェック!