9th Wonderが語るカニエ・ウェストのエピソードから学べること。「観客からは拍手もなかった」

New Kaz Skellington!

 

 

アーティストのカムアップエピソード

アーティストはいつどんな時に爆発的に知名度があがるかわからない。むしろ今まで全く評価されなかったものが、とあることをきっかけに評価されるようになったりもする。アーティスト自身は「同じ表現」をしていたとしても、シチュエーションによってその世間的「価値」が変わってきたりする。その変動する不確定なもののなかで、世間的な価値に「寄せる」のではなく、自身の表現を作り続けることの重要性は度々紹介してきた。

ScHoolboy Qのアドバイスから考える「アーティスト」であること

今回は9th Wonderが投稿した一連のツイートからカニエ・ウェストのエピソードを紹介したい。カニエ・ウェストは元々「世間に認められない自信家」というキャラであったが、その彼のパーソナリティがよく現れているエピソードであり、そんなパーソナリティが彼の成功にどのように影響したかが見えてくる。

こちらは9th Wonderがカニエ・ウェストとの思い出を語っているものだが、まずは彼との出会いについて語る。

 

9th:はじめてカニエに会ったのは2003年だ。ホテルのロビーでPhonteがカニエを見つけたから、俺らは彼らの元に行って自己紹介をした。そしたら彼は「お前らが誰かは知ってるよ。一緒に曲を作りたいんだけど」って言った。ツイート

だから俺らはその後スタジオに入って、「I See Now」となるものを作った。彼は俺らに「いやーシャシャレないわ。お前らはホットなビートを持ってるな」って言った。楽曲を完成させて、彼は後に「Workout Plan」「Jesus Walks」「Spaceships」となるビートを聞かせてくれた。これらのビートは複数のレーベルが「いらない」と拒否したものだった。ツイート

彼はこれらの曲を流しながら「世間の奴らは俺が何をやろうとしているのか理解してないんだ。こういう人生や生活についての音楽だ。」って繰り返してていた。その時俺らはLittle Brotherに関してもそう思っていた。人生についての音楽だ。ツイート

 

カニエと出会ったときのこと、そして彼と一緒に楽曲制作をしたときのことをツイートとした。2003年といえばまだ「The College Dropout」がリリースされる前で、彼はプロデューサーとしては評価されていたが「アーティスト」としてはなかなかレーベル契約を勝ち取れずにいたのだ。そんな彼の口癖は「皆は俺がやろうとしていることを理解していない」であった。この彼の自分の表現を疑わない信念が彼の一番の強みとなった。

 

9th:その後彼はライブで使う素材を編集するために俺が住んでいたアパートに来た。彼は「お前らにビデオを見せていいか?」と言ってVHSを取り出した。そのVHSには「Through the Wire」と書かれていた。俺は凄くドープなビデオだと思った。そして彼はまたこのように言った。「BETはこのビデオの良さを理解してないから、なかなかオンエアしてくれないんだ。」 ツイート

その夏、Little Brotherとカニエはどっちもビルボードのヒップホップ/R&Bアワードで演奏することになったんだ。出演順はカニエが3番目で、Little Brotherが4番目だった。カニエは「Through the Wire」の1曲だけ演奏して、会場では拍手も起こらなかった。アワードの音楽を担当していた人が曲が終わる前にビデオと音楽を切ったんだ。カニエは非常に怒っていた。ツイート

その一ヶ月後、俺はJay-Zの「Threat」となる曲を提供すべく、NYで彼とスタジオに入ったんだ。そのスタジオセッションが終わった直後に俺はカニエに電話をした。彼は「お前はもうここからは大丈夫だ。このまま上に行ける。」って言った。その時は彼はLudacrisやTwistaとJamie Foxxと一緒に曲を作っていると教えてくれた。ツイート

 

「Through The Wire」のMVも、最初はなかなかBETでオンエアされずに悔しい想いをしたと語った。さらに、彼はビルボードのライブでも誰からも拍手されずに、挙句に音楽を短く切られてしまったらしい。しかし少しづつ彼と9th Wonderのキャリアは前に進んでいたのである。そしてカニエは名デビューアルバム「The College Dropout」をリリースし、一躍大スターとなった。しかしその後のエピソードでも、同じようなことが「サイクル」として起こった。

 

9th:リリースした春、彼はDuke Universityにてライブをやった。彼のOAはピアノを弾くシンガーであった。彼はセットの最後に「Ordinary Peopleという曲をもう一曲やっていいかい?」と観客に聞いた。観客は「駄目だ!俺らはカニエを見に来たんだ!!」と怒ってブーイングをした。それでもその男は演奏をした。彼の名前はジョン・レジェンドだ。ツイート

カニエ・ウェストとジョン・レジェンドの件で学んだのは、彼らが今でも感じている業界に対する不満は本物だと言うことだ。テイストメーカー以外の多くの人達は、音楽そのものを「聴こうとしない」で「見る」んだ。多くの人は(音楽を好きになるのに)発信側となる「インフルエンサー」的な人の影響が必要なんだ。俺は目の前でカニエ、ジョン・レジェンド、そしてケンドリックまでもが観客にブーイングされたのを見たんだ。同じヒット曲だけど、ヒットした時と違うシチュエーションだ。ツイート

 

なんとカニエが人気アーティストになった後は、ジョン・レジェンドが同じような経験をしたのだ。今ではジョン・レジェンドは一流アーティストであるが、当時カニエのライブに来ていた人たちは彼にブーイングした。9th Wonderはその光景を目の当たりにし、多くの人たちが音楽を聴こうとしていないと語った。そんな彼は世の中のアーティストに対してこのようなアドバイスをツイートした。

 

9th:だから、アーティストたちは何があっても音楽を作り続けよう。人々はあなたの音楽を「聴く」時間をとった上でチェックしていないんじゃない。単純に「知らない」からチェックしていないんだ。いずれかは、そのなかから「グレイテスト」が出てくる。ツイート

 

彼はカニエとジョン・レジェンドの件から学んだことを、アーティストたちへのレッスンとしてツイートした。これは非常に重要なレッスンであると感じる。今までも多くこのようなアーティストからのメッセージを発信してきたが、実際にカニエ・ウェストやジョン・レジェンドの事例があると、なおさら響くであろう。彼らのような「グレイテスト」でも上記のような「認められない」経験をしているのだ。しかし彼らは決して認められるために自分の表現を変えて「寄せた」わけではない。同じ表現でも、単にシチュエーションと「作品が世に紹介された方法」が違うだけでここまで世間の反応が違うのだ。実際にカニエはソロ・アーティストとして世に出るのに苦労しており、そのような経験が自身のG.O.O.D. Musicの理念にも反映されているのだろう。

カニエ・ウェストのデビューアルバム「The College Dropout」6つの制作秘話を紹介

いいね!して、ちょっと「濃い」
ヒップホップ記事をチェック!