グランドマスター・フラッシュがどのようにドン底から復活したかを語る。自分の「ブランド」を作り直すこととパイオニアとしての責任

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ヒップホップ・パイオニア

のうち、今でも一番アクティブに活動しているのはGrandmaster Flashであろう。DJ Kool Hercとアフリカ・バンバータとの3人がヒップホップ・パイオニアの「Big 3」と呼ばれているが、そのなかでもグランドマスター・フラッシュは「自分自身が後世に伝える」という意識で、多くのインタビューなどに登場している。

ヒップホップのはじまり〜グランドマスター・フラッシュとターンテーブルの奇跡の出会い

 

ヒップホップ・パイオニアがこのようにメディアに頻繁に登場することは非常に重要である。実際に彼は自分が語ることの重要性を理解しているが、「Kool Hercと長年会っていないし、彼のストーリーは俺は語れないから、はじまりの1/3の情報しか世に出ない」と語っている。AllHipHopにて「死ぬまでにKool Hercとお茶をして、再会し、彼側のストーリーを知りたい」と語っており、この知識と想いと研究が積み重なった文化を後世に伝えていくことに努めている。

そんな「ヒップホップ・パイオニア」と呼べる存在は、恐らく多くいると思うのだが、フラッシュはある意味別格であると感じる。それは何故かというと、他のパイオニアに比べて今でも「ブランディング」という意味で第一線で活動することができているからである。もちろん「パイオニア」という存在はいつの時代でも「需要」があるべきだと思っているが、興味の移り変わりが素早い世間的にはなかなかそうもいかなかったりする。そのなかで、フラッシュはどのパイオニアよりも、自身のブランドを保てているように感じる。そんな彼がこちらのインタビューで語った「ブランディング」にまつわるストーリーが興味深いので紹介ひたい。

まず彼は自分が前に出ていく重要性について語った。

 

Flash:自分が世界中周って、オリジンを伝えていくのは非常に重要だ。今それをしているのは私だけだから、もちろん一度に一箇所にしかいけない。そのため私と会えないという人もいるが、でもイベント情報などが入ってきたとき、そういう場所に顔をだすようにしているんだ。そういう場所で旧友に会ったりすると、非常に大きな愛を感じる。

 

多くの場所に顔に出すことを意識していると語ったフラッシュ。他のOGたちから見たら、彼は頻繁に仕事も入ってきており、順風満帆に見えるかも知れないが、彼も多くの苦悩を乗り越えてきた人だった。

 

Flash:俺も騙されたことが何度もある。自分に近い人だったり、自分が育てた人に騙されたりもした。地面に叩きつけられたときもあった。コカインをやって酒を飲んで、ターンテーブルから去った時期もあった。コカインのオーバードーズで自分の命を失う寸前でもあった。母親、父親、そして祖母が同じ時に亡くなっていくのも見た。

コカインで意識不明になっているとき、「もう一度起き上がれたら、コカインも完全に辞めて、今まで騙してきた人たちも全員許す」って願ったんだ。そして自分のキャリアを作り直すことも誓った。復活して、最初に一緒に仕事をしてくれたのが、Blueという奴だ。彼はブッキングをやってくれた。

 

彼はコカインで命も失いそうになったとき、「自分のキャリアを作り直す」ことに集中すると誓ったのだ。過去に騙してきた人たちを憎み続け、だから自分は認められないと言い続ける人生もあったが、彼らにエネルギー注ぐのではなく、自分が世界に伝えないといけない「ポジティブ」にエネルギーを注いだ。そして彼にとっての最大の「ブランディング」となるきっかけについて語った。

 

Flash:もう一人Greg Cannonという人がいた。Gregは白人で、面白いことを仕事でやっている人だった。彼は私にこのように言った。

 「フラッシュ、世間では「誰がグランドマスターで、誰がそうじゃないか?」という混乱が起こっているが、あなたに新しいものを紹介したい。でもそれは、自分の考えを人々に伝えることが重要になってくる。朝ごはんに何のシリアルを食べたかを伝えることになるかもしれない。足の指をぶつけたときに、報告することなるかもしれない。」

そんなことを言う彼に対して、私は「Fuck You。私はプライバシーを重要視しているからそんなことはやらん。人々に日常を伝えるなんてやりたくない」と言ったんだ。

しかし彼は「フラッシュ、もしこれをやれば人々はグランドマスター・フラッシュと人間ジョーセフの違いを知ることができる。そして他のパイオニアたちとの違いも伝えることができるんだ」としつこく言ってきた。

私は何度も「Fuck You」と拒否してきたが、最終的に彼の話を聞くことにした。彼はこのように言った。「これはインターネットというものだ。ここにはあなたが発言する場所がある。そしてそこにウェブサイトというバーチャルの”家”を作る。」私は理解ができずに「は?何いってんの?」という感じだった。

彼はこのように続けた。「その家には、あなたの写真やストーリーや発言が飾られる。そしてその家をメンテしつつ、餌を与えたら、多くの人がジョーセフという人間とグランドマスター・フラッシュを知ることになる」

そして今では彼が歩いた地面をキスしたくなるほど感謝している。

 

彼は最初に「インターネット」という概念を理解できずに、その「家」となるウェブサイトが自分にとってどのようなプラスをもたらすのかを疑問に思っていた。しかしGregはどん底にいた彼に協力し、彼の想いとストーリーを発言するプラットフォームを整えたのだ。そのおかげもあり、私たちは今でも活躍するフラッシュをインターネットで見ることができているのだ。そして彼はこのよように語る。

 

Flash:このように協力してくれた人たちは、私が立ちあがる方法を試行錯誤してくれたんだ。自分がそう思っていなかったとしても、自分を認めてくれる人はいる。その「マシーン」に餌を与え続ける必要があるんだ。自分がやったことを言語化して、アウトプットするんだ。

今では私はチームを持っている。Grandmaster Flashという名前の会社もある。10人を雇っていて、私のトレードマークを守る2人の弁護士もいる。オンラインのスペシャリストもいるし、PR担当もいる。レコーディング・スタジオにエンジニアもいるし、ビデオを編集するスタジオもある。どん底にいたときに「お前がやっていることは、もう必要とされていない」と言ってきた人たちもいたが、今は自分の考えに協力してくれる人たちがいる。彼らのおかげで、自分のやりたいことが実現できている。マディソン・スクエア・ガーデンでDJをしたり、ブラジルで20,000人の前でDJもする。

(何かを伝える場合)時代についていき、人々の視界に入る責任があるんだ。それは あなたが音楽業界にいたとしても、エンジニアリングであったとしても、製薬業界にいたとしても、何をやっていたとしてもそうだ。この世界は人と人のビジネスだからね。

 

マシーンとは、もちろんインターネットやウェブサイトのことでもあるが、本質的には「人々や社会」という意味ともとることができるだろう。情報を与え続け、アピールし続けないと徐々にフェードアウトしてしまう。しかし何かを伝えたいのではあれば、人々の視界に自分から入る必要があると、フラッシュは教えてくれている。これはOGなどに対してのメッセージに聞こえるかもしれないが、実際には何かを伝えたい人全員が学べることであろう。自分が「必要のない人」だと思ってしまうこともあるかもしれないが、少しづつでも発信していくことにより、協力してくれる人たちが徐々に増えてくるのだ。9th Wonderが語ったカニエのエピソードからも学ぶことができるが、多くの人は、作品や考えを聞いた上で「必要ない」と判断しているのではなく、単純に目の前にどデカく何度も表示されないとチェックしないということだろう。

そしてチームを作ることの重要性も学ぶことができる。最初はもちろん1人や少数人ではじまるが、自分が持っていないスキルを補いあう「チーム」がいるからこそ、ヴィジョンが広がる範囲が広がるのだろう。そのような意味でも、私としてはチームづくりが今後の課題になってくる。

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