自分の「脆弱性」を表現し、人生に大きな影響を与えるリリシストPhonte。リスナーとリリックの共鳴から考える彼の「仕事」
「共鳴」
は世の中でもっとも影響力が強い感情の一つであろう。自分が心のなかで感じていたものが、他人のものと共に「鳴った」とき、それは行動に移す原動力にもなりえる。特にヒップホップやロックにはそのように「共鳴」させる力がある。以前はケンドリック・ラマーとエミネムの表現の仕方がいかに共感され、共鳴を促しているか?ということを彼らの手法にフォーカスを当てて自分なりに分析してみた。
しかしこのような手法やスタイルを実行していなくても、共鳴を促すリリックを書くラッパーは多い。以前はEvidenceの例を紹介したが、「Vulnerability」がキーワードとなってくる。近年この言葉体現し、世界中の人々の生活に影響を与えるラッパーは多いのだが、この言葉はなかなか直訳するのが難しい。そんな「Vulnerability」において、多くのラッパーたちを影響してきたノースカロライナ出身のベテラン・リリシストがPhonteである。最近ソロアルバム「No News is Good News」をリリースした彼であるが、9th WonderとBig Poohとともに、Little Brotherの一員としてデビューし「The Minstrel Show」などのアルバムで高評価を受け続けた「リアル」なリリシストである。そんな彼はBeats1にてEbro Dardenにこのように語る。
Ebro:Phonte、あなたのスタイルは現在のヒップホップに大きな影響を与えていると思う。Little Brotherや他の作品でもそうだけど、あなたは他のラッパーが元々あまりやらなかったことを表現していた。あなたは自分の弱みであったり、暗い部分も包み隠さずにさらけ出し、メロディアスでリリカルな表現をしている。現代のヒップホップにおけるスーパースターたちがあなたのそのスタイルに影響されていると感じますか?
Phonte:まぁもちろん影響になったとは思っている。Drakeとかケンドリックも俺に影響されたと言ってくれているし、Drakeの活動初期に一緒に何曲かやったこともあるよ。自分の場合は、単に自分が生きていない人生をラップすることができない、というだけなんだ。もしそう生きていないのであれば、そのライムはしない。
自分が知っていることや、感じたことを詳細にラップする必要があると思っていて、もし俺のアルバムを聞いてそのなかに「あなた自身」を少しでも見つけることができたなら、俺はアーティストとしての仕事を達成できたことになる。俺の音楽に「自分自身」を見つけたファンから少しでも「孤独」を取り除くのが俺の仕事だ。
上記のPhonteとEbroと会話を聞けば「Vulnerability」のイメージが湧いてくるだろう。「Vulnerable」というのは自分の弱みであったり、暗い部分があり、傷つきやすい状態のことを言う。ITなどでは「脆弱性」と訳されるが、その状態を隠さずに表現することがPhonteなどのラッパーに人々が「共鳴」する理由である。弱みだと思い、その状態に悩んでいる多くの人々が、それをさらけ出している作品を聞く。そんな作品に「自分自身」を見つけたとき、共鳴し救われる人も多いのだろう。そうやって「私だけではないんだ」と思わせるのがPhonteの仕事なのだ。
Phonte:前に国語の先生が教えてくれたことなんだけど、かなり「具体的」に物事を書くとより多くの人々を深く影響することができるんだ。そして「あなたと同じようなこと感じていたんだ。ありがとう。」という人が多く自分の元にくるようになる。でも全員を意図的に満足させようとして、誰でも書けるジェネラルなものを書くと、クソみたいなものが出来上がる。
自分の人生で実際に感じている「Vulnerability」だからこそ鮮明に描くことができるのだ。そしてそれを表現した瞬間に作品として「強み」になる。そんな「強み」になった脆弱性に共鳴した人々は、弱みだと感じていた「Vulnerability」を擁することができるようになる。しかし全員を満足させようと形式的な「クリシェ」のようなジェネルなものを書くと、人生に深く刺さるものからは程遠くなってしまう。以前紹介したEvidenceの「I Still Love You」という楽曲に「家族が亡くなってからずっとこの曲を聞いていた。ありがとう」というコメントが多く残されているのは、上記と同じ「共鳴」であろう。
今まで多くのアーティストが声に出してきた「クリシェ」をそのままラップするのは簡単である。しかし◯◯ってこういう表現するよね、というものより、自分の体験を鮮明に表現したもののほうが「共鳴」を促すことができ、実際に人々を「エンパワー」できるのだろう。
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