【第一弾】グレイテストラッパーは誰だ!?ラッパーたちの偉大なポイントを解説!Rakim、Lil Wayne、Andre 3000、ケンドリック・ラマー

 

New Kaz Skellington!

 

2018年10月から2019年3月末まで放送される、Playatuner代表Kaz Skellington(渡邉航光)がナビゲーターを務める番組J-Wave「Booze House」。毎週木曜日26:00〜の30分間となっており、ブラックミュージックをはじめとする洋楽を掘り下げる番組だ。その放送の内容のリキャップを記事化し、実際にどのような内容を話していたのかを紹介したい。今回は2019年2月7日に放送された人気回「グレイテストラッパーは誰だ?偉大なラッパーが評価されるポイントを解説!」の内容を紹介する。

 

グレイテスト・ラッパー第一弾

この回では、第一弾ということで、4人のラッパーを紹介。ラップを評価するときに指標として使われる5つの要素「リリシズム、フロー、ストーリーテリング、ライムスキーム、デリバリー」という観点で、Rakim、Lil Wayne、Andre 3000、Kendrick Lamarという偉大なラッパーの「偉大な理由」を解説した。もちろんこちらは、私Kaz Skellingtonの個人的な観点であり、紹介したラッパーは全要素100点と言っても過言ではない。そのなかでも、「このポイントは120点ぐらいいってるでしょ」という点を、愛を込めて紹介させて頂いた。

 

① Rakim(ラキム)

【フロー、ライムスキーム】

ラキムが水のように流れているのか、水がラキムのように流れているのか

これは私がラキムのフローを説明するときに頻繁に使うフレーズだ。Eric B. & Rakimとして1986年から活動しているベテランMCであるが、彼を「ゴッドMC」と呼ぶ人も多い。そんな彼の「フロー」は、まさしく水のように流れている。もちろんリリシズムもウィットに富んでいるが、哲学を投げかけるような内容のリリックを、まるで水が流れるがごとくラップをするのがラキムである。

彼はラップの「フロー」という概念をまるごと変えて、多様性のあるものにした第一人者と言っても過言ではないだろう。80年代後半に彼が出てくる前は、四分でアクセントつけるラップが多く、4/4ビートの「①…②…③…④」の④の部分だけで韻を踏むラップが多かった。そのなかで彼は、さらに言葉を詰めてみたり、発音を伸ばしてみたり、リズムに多様性をもたせ、ラップのフローという概念に革新をもたらせた。

彼がそれを実現した方法は、まさに「ジャズ」から学んだことであった。ラキムは小さい頃サックスを演奏していたのだが、言葉を使い、ジョン・コルトレーンのようなリズムをつくることができないか?という発想でラップを書くことによってフローを作り出したと語っている

放送で紹介した1曲目は、そんなラキムのソロ曲で最もとっつきやすいと感じている楽曲「Guess Who’s Back」を紹介。

 

もちろんリズムだけでは、その流れるような感覚は作れない。そんな彼のフローを作る一つの大きな要因は彼のライムスキームである。この楽曲「Guess Who’s Back」の冒頭でも、その流れるライムスキームをチェックすることができる。こちらの4小節では、母音を全体的に伸ばし、「a~」という発音で連続で韻を踏みつつも、その伸ばしている感覚で流れるフローを演出している。

It’s the return of the Wild Stylfashionist
Smashin‘ hits, make it hard to adapt to this
Put pizzazz and jazz in this, and cash in this
Mastered this, flash this and make ‘em clap to this

このように複雑なライムスキームによって、ラップにおけるフローという概念を変えたラキムは確実にグレイテストラッパーの一人であろう。

 

② Lil Wayne(リル・ウェイン)

【リリシズム】

流行りのシングル曲だけを聞き、Lil Wayneのラッパーとしてのスキルに気が付かない人は多いだろう。Wayneは実際にはパンチライン・マシーンであり、言葉が二重でかかっている「ダブル・アンタンドラ」という言葉遊びの手法に秀でているクレバーなラッパーである。彼はあまり難しいボキャブラリーを使わないが、かかっている箇所がわかると「うおお!」となるものが多い。

 

この楽曲「6 Foot 7 Foot」では多くのパンチラインが披露されているが、そのなかで最も多くの人の驚かせたラインがこちらだろう。

Real Gs move in silence like lasagna

本物のGたちはラザニアのように音を立てずに動く

直訳すると一見「?」という感じのリリックであるが、これは巧妙な言葉遊びとなっている。「ラザニアのように」とあるが、英語表現だとラザニアは「Lasagna」であり、このLasagna(ラザニア)の文字列のなかには、発音しないサイレントな「G」があるのだ。本物のGは「Lasagna」の「G」のように、音を立てずに動くという、非常にクレバーなパンチラインとなっている。

また楽曲「Put Some Keys On That」ではこのようなパンチラインを披露している。

I am a vegetarian man I only eat beets / wear a lot of carats and I smoke the best green

俺はベジタリアンで、ビーツしか食わない。多くのカラットを身に着け、最高のグリーンを吸う。

これも一見意味がわからない文章となっているが、このパンチラインも二重にかかっており、非常に興味深いものとなっている。まずは「beets/ビーツ」という箇所であるが、まずは音楽の「ビート」と野菜の「ビーツ(かぶ)」が二重でかかっている。さらに、宝石の「カラット」は英語の発音だと、人参の「キャロット」と同じ発音になり、「カラット/キャロット」がかかっている。そして「最高の緑を吸う」というのは、野菜の緑と、ウィードを吸うということがかかっている。この二行だけでヒップホップの要素である「俺はラッパーとしてビートを食う。多くの宝石を身に着け、最高のウィードを吸う」という意味と、野菜関連の文章を「ベジタリアンだ」という言い回しで伝え、巧妙な「ダブル・アンタンドラ」を見せている。

彼の最新アルバムである「Tha Carter V」でも、多くのパンチラインを披露しているので、こちらも好きなアルバムとなっている。

 

③ Andre 3000(OutKast)

【リリシズム/ストーリーテリング】

OutKastはBig Boiも、もちろん素晴らしいMCであるが、ストーリーテリングに長けているのはAndre 3000であろう。彼のフローは淡々としているが、その詩的表現は素晴らしく、彼が見ている情景がそのまま脳内に映し出されるかのような感情を抱く。そんな彼のストーリーテリングを見ることができる曲のうちの一つが、OutKastの「Da Art of Storytellin’」だ。

 

1stヴァースのBig Boiに続き、Andre 3000は小さい頃に仲良かった女の子との記憶を語っている。そのなかで印象的なラインが頭から離れない。Andreがその女の子に「将来何になりたい?」と聞いたら「Alive(生きていたい)」と答えた。そこから人生について考え、ラッパーとして成功していくAndreと、貧民街の生活から抜け出せずに、結果的に亡くなってしまったその女の子とのストーリーを彼は短いヴァースで詳細に語っている。このヴァースについては、以前こちらの記事も紹介したのでチェックしていただきたい。

【第2弾】ストーリーとオチのあるヒップホップ曲5選。各ストーリーの解説/考察

Rick Rossとの楽曲「16」のAndreのヴァースも素晴らしく、彼はフィーチャリングで参加している多くの楽曲でも最高のヴァースを披露しているので、チェックしてみてほしい。

 

④ Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)

【ストーリーテリング & デリバリー】

現代にて「グレイテスト」は誰か?と聞いたらケンドリックと答える人も多いだろう。彼は多くの魅力を持っているラッパーであるが、そのなかでも自分がグッとくるポイントを紹介した。

① 声とラップの仕方の多様性(デリバリー)

彼はどのラッパーよりも声のレパートリーが多く、本人はプリンスからの影響だと語っている。ラッパーとして活動する上で、声のオリジナリティというのは非常に重要なので、「これが自分の声だ!」という声が決まったら、その声でラップし続ける人が多いなか、彼は多くの声を使い分け、様々なシチュエーションに対応することができている。例えば、最近だとLil Wayneの「Tha Carter V」に収録された「Mona Lisa」がわかりやすいであろう。

 

ケンドリック・ラマーは、Lil Wayneの後に2ndヴァースを担当しているが、この声で女性に騙されて自殺する全てをキャラクターを「演技」している。実際に彼のデリバリーは時代によって変化しており、「Section 80」から「Control」から「DAMN.」まで、聴き比べると非常に面白いだろう。

 

② 自分の恐れを原動力としてリリックとして起こす。

不安を抱える人が多い世の中で、彼のリリックに共鳴する人は非常に多い。彼の影響力の大きさにも起因しており、「ラジオフレンドリーで親しみやすいが、潜ってみると深く考えさせられる」という作品をリリースし続けていたため、少しづつ人々の「音楽を聞く意識」というものを変えることができている。

誰もが心のなかで暗い意識と共存する世の中で、彼はその多面的な感情/サウンドを「作品」として落とし込み、人々の命を救うヒップホップを作っているのだ。例えば「DAMN.」では、自分の心に存在する「謙虚さを失う恐れ」「プライドによってロイヤリティを失う恐れ」「欲望」「自分が神のような存在になったと勘違いする傲慢さ」との戦いが表現されている。

放送でお送りした楽曲は名盤「To Pimp a Butterfly」の最後の曲として収録されている楽曲「Mortal Man」。

 

自分が社会的なリーダーとして、コンプトンや世界を変える大きな責任感を負っているケンドリック。しかし、そのようなリーダー的な存在として崇められた人は、逆に社会とか世間から一つの疑惑やミスで責められるようになる。「そのような情報が出たときに、あなたはまだ俺のことを信じてくれますか?」とファンに問いかける楽曲。その自分が負う責任感とプレッシャー、社会への恐れを赤裸々に語った楽曲は聞くたびに涙が出てくる。

ケンドリック・ラマーの「グレイトネス」に関しては、私が担当させて頂いた「DAMN. 」のコレクターズ・エディションのライナー・ノーツや、playatunerでも頻繁に記事を書いているので、そちらもチェックしていただきたい。

ケンドリック・ラマー「過去の自分に挑戦し続ける」前に進み続けるモチベーションとは?

エミネムとケンドリック・ラマーが共感される理由を考える。ストーリーテリングと多重視点

 

放送の感想

Kaz今回は4人、自分が偉大だと思うラッパーを紹介しました。彼らはどの要素をとっても100点!みたいなラッパーたちですが、その中でも「このポイントは150点とかいってるかなー」ってポイントを紹介させて頂きました。もちろん音楽的にもそうですが、自分の人生を生きる上でのインスピレーションになっているラッパーたちが多い中で、「この人ってなんで凄いの?わからない」と言われることが多いんですよね。こういう形で、少しでも偉大なMCたちの凄さが伝わったらいいな、と思います。

次回は「モダンファンク」について紹介した回のリキャップ記事を 公開する予定だ。

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