【レビュー】Public Enemyの新アルバムは「熱さ」と「愛」を感じる作品。「Nothing is Quick in the Desert」を一聴レビュー!

 

 

伝説のヒップホップグループ

Public Enemy(パブリック・エネミー)の新アルバム「Nothing is Quick in the Desert」がBandcampで公開された。このアルバムは彼らの30周年を祝うアルバムであり、本来は7月4日にリリースされると報道がされていた。しかし日本時間6月30日の早朝にリリースされた。Jay Zの4:44の話題に完全に食われてしまった感じはあるが、無料ダウンロードはこちらから

【速報】Public Enemyが新アルバムを無料DLでリリース!7月4日という報道だったがBCで公開!

 

今作「Nothing is Quick in the Desert(Except for Death)」では音楽業界に対してのメッセージが込められている。「この音楽業界は砂漠のようだ。でも正しく観察すると、音楽には命があることがわかる。」と語っていたChuck Dであるが、一回聞いてみるとなんとなく彼が言いたいことが伝わってくる。それではいつもと同じように一聴レビューを開催したい。

 

一聴して率直な感想を書く【一聴レビュー】

このアルバムを聞いた感想としてまず出てきた言葉が「やべぇ…くそ熱いわ」である。前作「Man Plans God Laughs」の「ブームバップだけど、どことなく不思議でスペーシーなサウンド」とは全く違う雰囲気でグイグイくる作品である。Prophets of Rageで培ったロック的なパフォーマンスの影響なのかもしれないが、70sハードロックを彷彿とさせるギターメインのトラックが多い。彼の近年のロックバンド的な活動と、60sや70sロックを頻繁にサンプリングしていた時代のヒップホップと、Chuck DとFlavor Flavのヒップホップを代表する「声とフロー」が融合し、最高に「熱い」アルバムが出来上がったのだと感じる。トラックは恐らく生楽器で演奏している。

まだクレジットもリリックも公開されていないので、一回聞いてわかったことを書くしかないが、熱いのは「サウンド」だけではない。Chuck Dの迫りくるような声とフローに乗ったリリックもかなり熱いと感じた。

 

① Nothing is Quick in the Desert

まずは1曲目でありタイトルトラックの「Nothing is Quick in the Desert」。最初のボソッと声が聞こえたのだが、「Stay out the desert(砂漠に足を踏み入れるな)」と言っているようだ。急にボソッと聞こえたので不意をつかれた。二週目でもう一回確認しようと思う。そこからいきなりFlavor Flavの声から入る。彼の声を聞くと「これだよこれ」と言いたくなるのは私だけではないだろう。一回の視聴では数カ所聞き取れない言葉があったのだが、下記のリリックがとても印象的であった。

・Digitize our presence, download in a minute. The future is now, because there ain’t no frontin in it. They stayin chained, in the wagon of old days.

俺たちの存在をデジタル化にして、1分でダウンロードする。未来は「今」だ、虚勢を張る(または前払い) ことなんてない。彼らは昔の方法に囚われて鎖に繋がれている。

・Yesterday’s slaves, just waiting to get hung.

「昨日」の奴隷たちが、吊られるのを待っているだけだ。

・Death comes quick in the desert, my friend. (Flavor Flav) Nothing is Quick in the desert.

友よ、砂漠では「死」は速いんだよ。(Flavor Flav) 砂漠では何も速くないんだ。

もしかしたらこの作品の「音楽業界へのメッセージ」とは、業界の現状に不満を持っているベテランたちに対してなのだろうか?「砂漠」が「音楽業界」の比喩表現だとしたら、最後のラインは納得がいく。「業界は遅いが、自分の存在が消費され、”死ぬ”スピードは速い」という意味なのかもしれない。アルバム・サブタイトルの「Except for Death(死以外は)」という意味の説明がつく。

 

② sPEak

これは私が特に気に入った曲だ。リリックの内容はまさにPE!世の中の問題に対して声を挙げろ!心を自由に表現しろ!という内容である。「おお〜PEだ!(パチパチパチ)」となったのは私だけではないだろう。黒人コミュニティ内での殺し合い、平和、知っていることを教え合うことができるか?などについてラップするChuck Dからは、若者もコミュニティも愛する気持ちが伝わってくる。

ライトなワブルベース?のようなサウンドが、重いヒップホップドラムと混ざり、Chuck Dのぶっとい声が乗る。さらに、この曲で最も気に入ったのはギターソロである。クレジットは公開されていないが、これもPublic EnemyのギタリストKhari Wynnのギターなのだろうか。メタル/ハードロックが好きな私からするとこのようなギターソロは最高である。

 

③ Yesterday Man

最初にトラックが始まったとき「これはフィラーかな?」と思ったが、全く違った。Flavorが盛り上げた後、誰かの声で

「We did it yesterday, and we’ll do it again. Tomorrow we’ll still all be yesterday man. If you’d like to be more than Yesterday boys, then sit down and listen while they bring tha noize」

私たちは「昨日」もやったし、またそれをやるだろう。明日も「Yesterday Man(昨日の男)」のままだ。「昨日」以上の者になりたいのであれば、座って彼らが「Bring tha Noize」するのを聞くんだ。

その後ギターが入った瞬間にぶち上がる。「Yesterday Man」ってなんだ?「過去にしがみつく人」や「過去の人」という意味なのだろうか?「あ〜あんな人いたね」って存在ではなく、伝説になるという意味であろうか?様々なアーティストの名前が出てくる。サビが軽いオートチューンと複数の声が重なっているので、かなり聞き取りにくいのだが、

They say you don’t know where you going when you don’t know where you’ve been. Say that I refuse to lose so Imma win. And I aint goin stop putting(?) aid (?) in the plan for the yesterday man.

So Migos to ??? to Rakim to Drake. ???

後半が篭っているオートチューンに加え、滑舌悪く一回では聞き取れなかったが、MigosとRakimとDrakeの名前が出ている。このような箇所があるとムズムズしてくるが、リリックも公開されていないのでしょうがない。この曲では、ヒップホップ史上で起こった出来事を伝えた後に「どうした!?」とFlavor Flavが問いかけるのだが、興味深かったものを紹介したい。

Kanye marrying Kim “What Happened!?”
(カニエがキムと結婚「どうした!?」)
Bruce Jenner turned to Fem “What Happened!?”
(ブルース・ジェンナーが女性になった「どうした!?」)
Is rap still black CNN? “What Happened”
(ラップはまだ黒人のCNNか?「どうした!?」)
Brooklyn lookin like it’s LA “What Happened!?”
(ブルックリンがLAみたいになってる「どうした!?」)
Sway moving out the Bay “What Happened!?”
(Swayがベイエリアから出ていった「どうした!?」)
Eazy singin Boyz n the Hood “What Happened!?”
(Eazy-EがBoyz n the Hoodを歌ってる「どうした!?」)
2Pac riding shotgun with Suge “What Happened!?”
(2Pacがシュグ・ナイトの助手席に乗ってる「どうした!?」)
Common used to love H.E.R. Did he leave H.E.R.? “What Happened!?”
(コモンはH.E.R.を愛してたけど、彼女の元を去ったのか?「どうした!?」)
Imma just stay in my lane
(俺は自分のレーンをそのまま続けるだけだ)
3Stacks aint making song!? “What Happened”
(Andre 3000がもう曲を作ってない!?「どうした!?」)

ヒップホップにて起こった印象的な出来事や、気になったことを伝えつつ、「色々なことが起こったが、自分は自分のレーンを続けるだけだ」と語っているようにも思える。個人的には「コモンはH.E.R.を愛してたけど、彼女の元を去ったのか?」と「Andre 3000がもう曲を作ってない!?」が気に入っている。コモンの「I Used to Love H.E.R.」の解説はこちら

 

⑫ Smells Like Teens Hear It

Nirvanaの「Smells like Teen Spirit」を文字ったタイトルだが、面白い。Flavor Flavがモダンなサウンドのトラックでラップをするパートからはじまる。思わずティーンに人気な、近年のヒップホップをネタにしているのだと思ったが、どうやら違うようだ。「俺はなんでも否定するオールドヘッドじゃないけど、俺の世代は皆マンブルと呼んでいる。近くで聞いてたら、どうやらティーンには聞こえるらしいし売れるようだ。」のようなサビとなっている。「マンブルラップはちゃんと言葉発していない」と批判されている近年のラップであるが、どうやらティーンは聞き取れているようだ。「ティーンにはそれを聞こえるが、ベビーブーマーはそれを恐れる」というフレーズが印象的である。

 

⑬ Rest in Beats

これは泣ける曲だ。今までヒップホップ史で亡くなった人たちをリスペクトし、懐かしんでいる。Heavy D、Eazy-E、ビギー、Jam Master Jay、2Pacと母Afeni、Scott La Rock、Mac Dre、MC Breed、Sean P、J Dilla、Pimp Cなどの名前を挙げている。

さらにレコード屋、スタジオに皆で集まって作業する習慣、ストリートチーム、ラップのフロー、韻を踏まないといけない風習、解散してソロになったグループたちなどにRIPと伝え、懐かしんでいる。最後にはギターソロの上で今まで亡くなった数々のラッパーたちの名前を呼ぶ。この曲を聞いたときに、とある曲を思い出した。それはDr. Dreの最後のアルバム「Compton」の最後を飾る曲「Talking to My Diary」である。彼がキャリアを懐かしみながらも次の世代に希望を託す曲である。同じようなヴァイブスを感じることができる。

Chuck Dは今の音楽業界の流れを完全に気に入っているわけではない。「あの頃はよかったなぁ」と思い出しながらも、「今後もヒップホップのレガシーは受け継がれていく」と語っている。

For all that we lost, still the essence is preserved
Through beats, sound stages, dope energy and words
“Everybody listen to this!”
失ったものもあるが、エッセンスは保存されている。
ビート、ステージのサウンド、ドープなエネルギーと言葉によって
「皆これを聞こう!」

 

このアルバムを聞いて感じたことは「熱さ」と「愛」である。このアルバムで彼らから感じたことをまとめるとしたら、

若者のゲームや業界で気に入らないこともあるかもしれないが、自分の役割をやるだけだ。そうすれば我々が愛すカルチャーのレガシーは受け継がれていく。

である。たまにマンブルラップをネタにしつつも、自分たちの「愛」を大切にする意思表明のようにも感じる。目頭が熱くなるような、とても美しい作品だと私は受け取った。彼らの長年のキャリア、伝説の「重み」を感じることができた。サウンドの歴史を作ってきた「数々の音楽再生機器」が描かれているアルバムカバーも、そのような「レガシーが受け継がれていく様子」を表しているのかもしれない。

このアルバムを聞いて思い出したのが、Playatunerでも紹介をした「ビースティ・ボーイズのアドロックのインタビュー」である。深い位置で繋がる内容だと感じるので、是非読んで頂きたい。

ビースティ・ボーイズのAD Rockが近年の音楽を全く聞かない理由を語る。若者に対しての意外なメッセージとは?

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