Sean Priceは王者の風格で言葉を確実にボディーブローのように届ける。彼の死後1stアルバム「Imperius Rex」一聴レビュー

 

 

2015年に

Sean Price(ショーン・プライス)が亡くなったとき、ヒップホップ業界は悲しみにくれていたのを覚えている。Boot Camp Clikに所属するデュオHeltah Skeltahの一員の「Ruck」として活躍してきた彼は、睡眠中に他界してしまったが、彼が他ラッパーたちに及ぼした影響は計り知れないだろう。そんな彼は亡くなる前に、かなり楽曲を貯めていたようだ。

Sean Priceの死後1stアルバム「Imperius Rex」が8月8日にリリースされた。このアルバムは彼の妻であり、ラッパーのBernadette PriceとDuck Down Recordsが彼の残した材料とラップを集めたものである。死後2年間をかけ、彼が構想をしていた「Imperius Rex」というアルバムを彼の「家族」たちが完成させたのだ。DOOM、Prodigy、Styles P、Smif N Wessun、Rock、Method Man、Raekwon、Inspectah Deck、Junior Reid、Buckshot、Ruste Juxx、Bernadette Priceなどと言った素晴らしい面々が集まっているアルバムであるが、このアルバムを一回聞いた率直な感想を【一聴レビュー】として紹介したい。

 

【一聴レビュー】

Sean Priceというと、どのようなラップを思い浮かべるだろうか?私はラフであり、タフであり、まるで砂利をすり潰すかのようなゴリゴリなラップを思い浮かべる。アグレッシブであるが、彼のアグレッシブさには静けさもある。DMXなどのラッパーとは別方向のアグレッシブであり、言葉を叫ぶのではない。王者の風格を持ち、ドッシリ構え、一つ一つの言葉を確実にボディーブローのように届けるのだ。そう、彼のマイクを握った拳が確実に相手を仕留める。そのような意味でも、数ある彼のあだ名のうちの一つが「Mic Tyson(マイク・タイソン)」なのを納得するラップである。まるで野生のゴリラの群れを束ねるシルバーバックのように、ドッシリ構えている。

アルバム「Imperius Rex」はまさに彼の王者の風格を表している。傲慢(Imperious)な王者(Rex)という名前のアルバムであるが、彼の風格がいち早く理解できる曲が1曲目と2曲目であり、2曲目の「Dead or Alive」はSean Pを今まで聞いたことがない人でもオススメである。

 

MVではSmif-N-Wessunを含めるBoot Campの面々が登場する。「ラップのどういうところが好きかって?俺だ。俺がゲームに入ったときは何か伝えることがないとやっていけなかった。でも今ではみんな何でも言いやがるし、このガキどもは教育されていないことがわかる。みんな馬鹿みたいだぜ。」というまさに「傲慢」とも言える自信満々なフレーズからはじまる。そしてヴァースが始まった瞬間に、彼は「自分のスキルはこいつらとは違う」ということを証明するのだ。いきなり「Better rapper、Beretta clapper、The clever bastard、Metal masher、Devil laughter、Cheddar after」という連続で韻を踏む彼のスキルを聞くと「これが聞きたかったSean Pだぜ…!」と感じさせてくれる。

このアルバムは「リリカルの塊」である。「The 3 Lyrical P’s」ではSean P、Prodigy、Styles Pと言った「P」のついたリリシストたちがBarを交換し合う。正直あまりビートが好みではないのだが、前半2人のPが亡くなり、この3人が同じトラックにのっているという事実が貴重であることからも何度も聞いてしまう。

正直全曲通して聞けるヒップホップアルバムであり、好きなトラックを選ぶのが難しいのだが、やはり印象的である曲は「Clans & Cliks」であろう。Smif-N-Wessun、Heltah SkeltahのRock、Method Man、Raekwon、Inspectah Deck、Foul Mondayが参加しており、まさにWu-Tang “Clan”とBoot Camp “Clik”がごちゃ混ぜになった曲である。ビートはNottzがプロデュースしており、Method Manの楽曲「The Motto」と同じくChairmen of the Boardの「So Glad You’re Mine」のイントロをサンプリングしている。

 

このアルバムを通して気がついたのは、Sean Priceのラフ/アグレッシブさだけではなく、彼の「家族」に対する愛である。家族に対しても、Boot Camp Clikのような「ファミリー」に対しても、彼が深い愛を持っていることが伝わってきた。「傲慢な王」は、身内への愛が深いのである。彼が亡くなった後も、2年もの時間をかけてアルバムを完成まで持っていってくれる仲間がたくさんいることが、Sean Priceが持っていた「愛」を証明している。猿の惑星の台詞であり、彼がこのアルバムにて使用しているフレーズで締めくくると「Ape Don’t Kill Ape」ということなのかもしれない。ドッシリ構えているという意味でのシルバーバックだけではなく、人を惹きつける「シルバーバック/カリスマ」としての彼の人物像が少し見えた作品であった。Rest in Peace Sean Price.

Boot Camp Clikに関しては、下記のインタビューがオススメである。

SMIF-N-WESSUNのTek来日インタビュー!ソロ新作や90sヒップホップクラシック「Dah Shinin’」について【前半】

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