「メジャーレーベルから呼び出されたと思ったら◯◯だった」Freddie Gibbsとマネージャーのインスピレーショナルなお話

 

 

インディペンデント・ハッスル

についてはPlayatunerにて多く取り上げている。一昔前までは「業界」に見出されたり、大物アーティストのコーサインとともに世に出てくるアーティストが一般的であったが、現代はカムアップの仕方/ストーリーも多様化している。現代では逆にメジャーレーベルがバックについていながらも、戦略としてインディペンデントのフリをするアーティストも多いらしく、そのようなアーティストは「Industry Plant」と呼ばれている。

水面下で帝国を築き上げるアーティストたち。「自分で全部やる」というパワーと美学

 

そんなインディペンデント・ハッスルであるが、今回はインディペンデントで長年「グラインド」しつつ、ロイヤルなファンベースを作り上げたギャングスターラッパーFreddie Gibbsについて紹介したい。

今では彼はインディペンデント・ラッパーとしての立ち位置を確立しているが、実はキャリアの初期にはインタースコープ・レコードと契約していたのだ。彼のマネージャーとなるBen Lambert(通称:Lambo)が、インターンの課題として発掘したラッパーであった。インタースコープの50 Centが業界で最も大きなラッパーであった2006年に、半年間だけ契約していたのだが、その間にエミネムのShady Recordsが彼とレーベル契約をすることを検討していたのだ。しかしエミネムは彼の音源を聞いて、Freddieと契約すること拒否したとComplexにて語っている

そして彼の担当者であった人物(3H)がワーナー・ブラザースに転職したことがきっかけで、彼もレーベルからドロップされた。レーベルからドロップされ、その後ほぼ全てのメジャーレーベルとミーティングをしたが、全てのレーベルから拒否されたのだ。しばらくして、アドバンスとしてもらった契約金もすぐに使い果たし、彼は様々な都市でディーラーとしての生活するようになった。そんななか、彼の寄り添ったのが彼を元々発掘したインタースコープのインターン”Lambo”であった。Lamboも大学卒業後、インタースコープでのA&Rの仕事を期待していたが、彼もFreddieと同じように、そのポジションに就任することができずに人生に迷っていたのだ。それでもLamboはFreddieの才能を信じており、完全にインディペンデントになった彼のマネージャーを探すために活動していた。しかし適任が見つからずに困っていたところFreddieに「お前のことを信じているから、俺のマネージャーをやってくれないか?」と頼まれ、二人三脚で活動していくことを決心した。

そんな彼らは地道に自分達のネームを売っていったわけであるが、そのなかでも大きな要素となったのはツアーである。10年の間、世界中呼ばれたところにはどこでもツアーをし、それを繰り返すことにより、地域に密着した「バズ」を作ることができたのだ。もちろんMadlibとの「Piñata」や数々のミックステープと連動したものであったが、彼はロシア、イスラエル、カナダ、中国、ヨーロッパなどの国々にて頻繁にツアーをした。面と向かって音楽を届けることに注力していたため、非常に「ロイヤル」なファンが増えたのだ。彼のマネージャーのBen “Lambo” LambertはDJBoothにて語る。

このように独自でバズと作ったアーティストはもちろんメジャーレーベルから声がかかる。しかしメジャーレーベルに呼び出されたとき、彼らは予想外な質問をされたのだ。

 

Lambo:一度メジャーレーベルからお呼びがかかって、彼らが何かしらのオファーを提案してくれるんだと思ってたんだ。レーベルの偉い人達が15人ぐらいが座った会議室に案内された。ミーティングがはじまったら、「どうやってツアーをしているか、どのようにしてマーチャンダイズを売っているか、どのようにしてライブをソールドアウトしているか等のノウハウを教えてほしい」という旨だった。俺らがどうやってその状況を長続きさせているかを教えてくれと聞かれたのだ。彼らは驚いていた。

 

そう、以前はFreddieのことを拒否していたメジャーレーベルが、彼に活動の方法を教えてほしいと頼んできたのである。以前はFreddieの才能を信じていなかった人たちが、契約オファーをするのではなく、逆に参考にしようと連絡をしてきたと考えると、彼の10年以上の「グラインド」は正しかったということなのだろう。しかしFreddieとLamboは今でも、オファーを受け付けているらしく、ミーティングにも前向きであると語っている。また、この一件を受け、Lamboはこのように語った。

 

Lambo:彼らは、業界や有名アーティストとの繋がりがないアーティストを下に見る。実際に「実行」された後じゃないと彼らは理解しようとしない。例えば新しいクレヨンの色を開発したくて、クレヨンメーカーに行くとする。新しい色を作るには、既存の色を混ぜたりして試行錯誤する必要があるが、彼らはそれを理解していない。だからずっと緑や黄色などの既存の色を作り続けているようなものなんだ。

 

これは以前「TDEから学ぶアーティストと一緒に成長するリスクと愛」という記事にて書いたことにも共通するのであるが、既に「エスタブリッシュ」されているアーティストを見つけて契約しようとするレーベルが世の中には多い。しかし「0から一緒に作っていく」リスクを負う覚悟と「愛」があるレーベルが「ブランディング」として頭一つ抜けるような世の中になっているようにも思える。「素早い成功」ではないかもしれないが、これが「じわじわとくる長い成功」となるのだろう。「過去の実績ではなく未来への希望にお互い投資した」結果、長く成功しているアーティストは少なくはない。

Wiz KhalifaやMac Millerを発掘したID Labsが若手プロデューサーたちにアドバイス。音楽業界と未来のワクワクへ投資する力。

 

いいね!して、ちょっと「濃い」
ヒップホップ記事をチェック!