【GoldLinkインタビュー】GoldLink本人と探る地元DMVエリア。彼の音楽にどのような影響を与えたか?

 

Interview & Translation: 渡邉航光(Kaz Skellington)
Photos: Kento Watanabe

 

 

地元をフィーチャーしたアルバム

というフレーズを聞くと、近年の作品で思い浮かべるのがGoldLinkのデビューアルバム「At What Cost」である。GoldLinkはワシントンDC出身のラッパーであり、ヒップホップ/R&B/ハウスなどの音楽を混ぜた独自の「Future Bounce」というジャンルを確立している。彼は2013年から2014年にかけてサウンドクラウドで話題になり、その後非常に評価の高いミックステープ「The God Complex」「After That, We Didn’t Talk」をリリースしている。

そんなGoldLinkが6/16に渋谷 Sound Museum Visionで初来日公演を行った際に、インタビューをさせて頂いた。彼のインタビューとSound Museum Visionでのライブフォトを交えながら、彼の地元である「DMVエリア」と呼ばれる場所と、そのカルチャーを掘り下げたい。

「DMVエリア」とはアメリカのワシントンDC(D)、メリーランド州(M)、ヴァージニア州(V)の集合体のことであり、それらの地域を総称して「DMV」と呼ばれる。別名ワシントン・メトロポリタン・エリアとも呼ばれており、ウェスト・ヴァージニア州の一部も含まれる場合がある。実はGoldLinkはDMVエリア初のコーチェラ出演者でもあるとも報道されている。DMV出身のラッパーと言えば、WaleやLogicがいるが、LAやNYほどの注目を浴びていないと感じる。

そんなDMVエリアとはどのような場所なのだろうか?GoldLinkにどのような影響を与えたのだろうか?そしてDMV特有の「Go-Go(ゴーゴー)」という音楽とは?彼のアルバムに込められた「痛み」とは?彼のインタビューと一緒に探っていきたい。

 

Interview: GoldLink


 

➖ DMVのカルチャーをどのように表現しますか?

GoldLink: あのエリアが再開発される前は「チョコレート・シティ」と呼ばれていたんだ。黒人ばかりのエリアという意味で、黒人の人口比率がとても高かった。ここ10年で、全体にたいして黒人の割合が80%から44%に下がったんだ。だから今はとても面白い時期だと思う。色々変換されている時代だね。

 

➖ それは興味深いですね。DMVといえばGo-Go(ゴーゴー)カルチャーを思い浮かべます。ゴーゴーを知らない方のためにどんなカルチャーかを教えて頂いてもよろしいですか?

GoldLink: うん。ゴーゴーとはワシントンDCにて作られた現地の音楽だよ。とても重いドラムとパーカッションが目立つ音楽だ。俺らはゴーゴーを聞きながら育ったし、多分俺が最も影響された音楽だよ。俺はそのカルチャーのなかに生まれたんだ。

 

ゴーゴーとはDCにて生まれた音楽だと語る。ファンクのサブジャンルとして70年代に生まれ、その後様々な音楽と融合してきたジャンルである。ゴーゴーのパイオニアと言えばChuck Brown(チャック・ブラウン)が有名である。時代が進むにつれ、ヒップホップなどのジャンルと融合をし、ラップなどの手法を取り入れるようになった。ちなみに下記のChuck Brownの曲は、Nellyファンであれば聞いたことがあるだろう。

さらにGoldLinkの音楽とゴーゴー・カルチャーの繋がりについてこのような会話になる。

 

➖ そうですね。ゴーゴーを聞いているとパーカッションが存在感があることに気が付きます。ジェームス・ブラウンのファンクとの共通点もありますが、その後の様々な音楽と融合しているのもあり、ビート感的にも違うヴァイブスを感じますよね。
ゴーゴーはテンポ的にもそこまで速いわけではないですが、あなたの音楽は結構バウンシーであったり、速い曲も多いですよね。そのアイディアはどのようにして思い浮かんだのですか?

GoldLink:まぁそうやって色々混ぜるのもゴーゴーカルチャーなんだと思う。全ての時代の良いところを取って、自分が自然と惹かれる音楽と一緒にくっつけるんだ。言葉では言い表しにくいけど。

 

➖ 一つ気がついたことがあって、「At What Cost」にフィーチャリングされているアーティストは、ほとんどDMVの人たちなんですよね。Jazmine、Steve Lacy、Kaytranada以外DMV出身者じゃないですか?どのような意図があったのですか?

GoldLink:意図的というわけではないけど、ホームで全部作ったから、必要な全部のタレントがそこにあったんだ。このアルバムには誰が必要かな?って考えたときに出てきた人たちだ。このエリアについての他の視点を伝えてほしかったからね。同じ苦悩を味わっていたり、同じ日常を送っている人たちに参加してもらうことが必要だと思っていた。「ホーム」と呼べる街に捧げるアルバムに参加してほしかったんだ。

 

➖ DMVの外で生活をしたことはありますか?

GoldLink:ないね。

 

➖ ではかなりその場所に根が張られている感じですね。やはり他の場所に住むのは落ち着かないのでしょうか?

GoldLink:そうだね。DMVはかなりユニークな場所だからね。実際にはユニークだからなのか、単にそこに慣れてるからなのかはわからない。適応するのに24年間かけたから、他の土地に移動するのは色々大変だと思う。

 

 

自分の音楽がいかにゴーゴーカルチャーの精神と土地に影響されているのかを語ったGoldLink。ちなみに話の流れで「俺はオレンジカウンティで育ったけど生まれは日本だから、アメリカ国籍がなくて永住ができないんだ」と彼に言ったら「まじか、それはかなりクレイジーだな…」と深刻そうにしていたので、やはり「地元」を離れることの温度感が日本人とは全然違うと感じた。さらに彼の新アルバム「At What Cost」の内容と、DMVとの繋がりについて、会話が進む。

 

 

➖ 「At What Cost」を聞いていたときに感じたのは「DMVへのラブレター」ということでした。それは正しい解釈ですか?

GoldLink:見方によっては正しいよ。

 

➖ それと同時にあなたは女性との関係についてラップすることが多いですよね?それはDMVとの関係性を比喩的にとらえたものなのですか?「女性との関係」と「DMVとの関係」の2つを鏡写しにしているのでしょうか?

GoldLink:そういう場合もある。比喩表現のときもあれば、実際に女性との関係を示しているときもある。例えば「Herside Story」は実在する女性についてだし、「Parables of a Rich Man」は比喩的だよ。半々だね。

 

➖ Myaとコラボをした「Roll Call」では、その2つの要素の繋がりがとても強いと感じました。「何があっても絶対に戻ってくる」というフレーズはどちらにも繋がってくるのかな、と。真っ直ぐな表現だけでリリックを書くのではなく、そのように2つの要素をリンクさせて多面的にした感じが、素晴らしいと感じました。

GoldLink:そうだね。そう言ってくれて嬉しいよ。

 

➖ GoldLinkの曲は楽しいバウンシーな曲調が多いですが、それと同時にリアルで暗いフィーリングが込められていますよね。そういう意味でもこのアルバム「At What Cost」はこれまでの作品に比べて、少しプロダクションが落ち着いてるのかなと感じました。それは今まで以上にダークな要素を込めたからですか?

GoldLink:そうだね。今まで以上に言葉を使用することを意識したかな。説明が難しいんだけど、ビートにバウンスを残しつつもシンプルにして、リリックにストーリーテリングの要素をさら持ち込んだ。

 

➖ 例えば「Meditation」では、曲自体は楽しいしバウンシーですが、最後には銃声という悲劇が起こります。あれは実際にDMVやあなたの人生にて起こることですか?

GoldLink:あれは実際に起こることだ。あの曲の女性像は実際に知り合いからインスピレーション得ている。その人とは今でも話すような関係だ。そしてあのような悲劇は、実際にDMVエリアでは頻繁に起こることだ。パーティーでは何が起こってもおかしくはない。パーティーで死ぬことだってありえる。めちゃくちゃだ。

 

➖ 「Hands On Your Knees」はかなり気に入っている曲です。まさにオールドスクールのゴーゴー音楽を感じることができますよね。Kokayiが観客をハイプして楽しい感じですが、彼が急に「おいそこ!喧嘩をはじめるな!」と言うところがありますよね。それもまさにその「パーティーは楽しいが、何が起こってもおかしくはない」が表現されてるな、と。この曲はあなたがリリックを書いたのですか?

GoldLink:いや、この曲はKokayi本人が書いた。

 

➖ Kokayiに関してのバックグランド知識がないのですが、素晴らしい声の持ち主ですよね。彼はあなたのクルーの一員ですか?

Goldlink:彼はあのエリアのOGだね。

 

➖ あ、まじっすか。ではあのエリアで起こったことを長年見てきた人なのですね。だからこの曲を聞くと、なんとなく当時のヴァイブスが伝わってくるのですね。

GoldLink:彼はそのエリアで起こったことを見てきたね。まさにそうだよ!

 

 

アルバムがDMVのラブレターであること、さらに女性との比喩表現について語ってくれたGoldLink。彼の音楽は多面的であり、バウンシーなサウンドと裏腹にダークな要素も強いのだ。さらにDMVにて起こる出来事がいかに彼の音楽に多面的な感情を与えたかが伝わってくる。彼の音楽はDMVの明るい部分と暗い部分全部を包み込む「ラブレター」のようなものなのだ。さらに「罪悪感」や「死」についての会話となる。

Stage with the homies. Photo: Kento Watanabe

 

 

➖ アルバムのなかで「Survivor’s Guilt(生存者の罪悪感)」というフレーズが出てきますよね。実際にそのような罪悪感は感じますか?前に進むためにポジティブに変換できる感情なのでしょうか?

GoldLink:そうだね。完全にネガティブではないよ。ネガティブだけど、ポジティブに変換するものだ。まぁもし生きていることに罪悪感を感じるのであれば、過剰に考えずにその感情を有効活用するべきだ。自分ができる活動を、もうできない人たちのために、自分が正しいと思ったことをやる。

 

➖ このアルバムでは「死」についてのレファレンスが多いと感じます。アルバムの1曲目では「全員が死ぬまで止まらない。このDCが砲煙に包み込まれるまで。」というフレーズがありますよね?これは何かのレファレンスですか?

GoldLink:そうなんだよ。かなりクレイジーだ。これはHBOにて放映されたドキュメンタリー「Thug Life in D.C.(DCのサグライフ)」からきているフレーズだ。クラック・コカインが蔓延していた時代の名残が酷かった時代だ。

 

➖ それは80年代後半のクラック・エピデミックですか?

GoldLink:そうだね。でもその波及があったのが90年代だ。ピークが80年代で、その名残が凄かったのが90年代で、再開発している今に至る感じだ。だから多分ドキュメンタリーの90年代はその名残が凄かった時代だ。当時の死亡率と受刑率は非常に高かったんだ。多分そのドキュメンタリーを見ないと伝わらないかもだけど、その登場人物の「俺らはどうせ死ぬんだから」というメンタリティが凄かったんだ。とても共感ができる。

 

➖ 以前Smif-N-WessunのTekをインタビューしたときに彼も同じことを言っていました。ブルックリンのクラック・エピデミックはクレイジーだって。彼は「その痛みから美しさは生まれる」と言っていました。

GoldLink:Smif-N-Wessunインタビューしたのはクールだね。そうだね。俺もまさにそう感じる。

 

 

個人的にも非常に印象が強かった「生存者の罪悪感」という言葉について聞く事ができた。周りの友人などが亡くなったり、収監されたりするなかで、自分はこのような活動をできている。そんな感情に罪悪感を感じつつも、その現状を受け止めて、自分ができることをやり続ける。彼のモチベーションにもなっており、彼の音楽がただ盛り上がるだけではない理由が見えてくる。最後はこのような会話で締めた。

 

 

➖ あなたの音楽は「Generic(後発的)」ではないですよね。やはり流行りのサウンドとかはかなり後発的なものが多いですが、伝説になりたいなら、後発的なサウンドをやってたら駄目な気がします。そういう意味でもあなたはいつも新しい音楽をやっている。

GoldLink:そうだね。そう言ってくれてありがたいよ。近年は同じようなサウンドが増えているからね。

 

➖ どんなラッパーに影響されたのですか?少しLil Wayneの影響は聞こえますが。

GoldLink:実際に俺はLil Wayneが大好きだよ。彼は最も偉大なラッパーだと思うよ。

 

➖ 今24歳ですよね?私が25なので同世代なのですが、私たちの世代からするとLil Wayneの存在は外せないですよね。私たちが子供の時に最高のラップをスピットしていましたしね。

GoldLink:まさにそうだよ。でもLil Wayneは今でも最高だよ。まじで上手いと思う。

 

➖ 最後の質問です。これからカムアップしようとしている日本のアーティストたちにアドバイスはありますか?

GoldLink:そうだね。恐らく楽なんじゃないかな。それはリスペクトフルな意味で。日本の環境は平均的なアメリカ人が味わったことがない世界だ。何かしっくりくる感じの人が出てきたら面白いと思うよ。アメリカ人は自己中心的だから、理解できないとディスするんだ。日本でも共感を促すために「皆が入りたがっているカルチャー」と「そのカルチャーへの入り方がわからない人」を繋げるミドル的なプラットフォーム/存在があれば、かなりのスマッシュヒットになるんじゃないかな。

まぁそれは置いといて、やっぱ「自分が幸せになれること」をやるべきだよ。なんか胡散臭く聞こえちゃうけど、俺はそうした。ワシントンDCのカルチャーなんてどうでも良いと思っている人も多いと思うけど、俺は自分がそれについて発信したかったからそうした。

 

➖ 自分が幸せになれる音楽を実行したことによって、世界中の人々がその想いに「共鳴」するようになった。

GoldLink:まさにそう!

 

➖ ありがとうございました!

 

後発的ではなく、新しい音楽をやり続けること。そして自分が幸せになれるような音楽をやること。アーティストだけではなく、参考になった方も多いのではないだろうか?このようにGoldLinkの音楽は「DMVエリア」に根付いており、そこにて起こるプラスとマイナスを音楽として多面的な表現をしている。彼のサウンドからは「楽しい」だけではなく、彼の「痛み」も伝わってくる。彼がクラブカルチャーだけではなく、様々なアーティストに支持されている理由もここにあるのだろう。「人々は俺の痛みで踊っている」と語っていたGoldLinkの音楽、そして彼に影響を与えたカルチャーについての理解が深まった。

様々な感情の狭間で揺れ、それらを表現をすることを人生としている彼は、今後もアーティストとして成長し続けるだろう。

Photo: Kento Watanabe

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