SMIF-N-WESSUNのTek来日インタビュー!ソロ新作や90sヒップホップクラシック「Dah Shinin’」について【前半】

Interviewer: 渡邉航光(Kaz Skellington)

 

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90sヒップホップクラシック

というフレーズを聞いたら何を思い浮かべるだろうか?ヒップホップヘッズの皆さんであれば、もちろんSMIF-N-WESSUNの「Dah Shinin’」はリストのどこかに入るであろう。Smif-N-Wessunはラップゲームにて25年ほど活動をしており、ブルックリン出身のヒップホップデュオのなかでは間違いなく最高峰である。

NYのスーパーグループBoot Camp Clikの一員であり、BuckshotやHeltah SkeltahやO.G.C.などと共に活動をしてきた彼らのキャリアはBlack Moonの「Enta da Stage」から始まった。それ以来彼らは2Pac、Pete Rock、Raekwon、Styles Pなどのアーティストとコラボをしてきたのだ。そんなブルックリンのベテランSmif-N-WessunのTekが、この度ソロアルバムをPLZというアプリ上でリリースしたので、リリースに伴って2時間ほどお話しを聞くことができた。

PLZは“Creative × Communication ” をテーマに、クリエイターとユーザーの双方の経験をよりクリエイティブにするアプリである。このアプリは音楽産業における新しいクリエイティビティの見せ方、提供の仕方を実現するサービスであり、日々の経験をクリエイティブにハッキングしていくものとなっている。http://parallelz.co.jp/

 

Tek of Smif-N-Wessun Part.1 (@Juice Bar Wave Tokyo)


 

“知的に対応すれば攻撃と防御のどちらもできる”

 

➖ 本日はSMIF-N-WESSUNのTekに起こしいただいております!

Tek: バックタウン(ブルックリン)をレペゼンしてきたぜ。

 

➖ 来日して頂きましてありがとうございます!日本でインタビューをすることができて光栄です。

Tek: 機会を設けてくれてありがとう。

 

➖ まずは新ソロアルバム「Skin on Trial」の話しをしましょう。今実際ここでMVがプロジェクターで再生されているのですが、日本のファンにどのような内容か説明して頂けますか?

Tek: これはアルバム「Skin on Trial」の1stシングルとなった同名の曲だ。皆がアメリカのニュースや情勢を追いかけているかわからないが、ここ近年ニューヨークでは警察による市民への暴行が激化をしていて、とてもクレイジーな状況だったんだ。彼らは若い黒人やメキシコ人に、理由もなく暴行を加えていたんだ。

このアルバムに着手しはじめたとき、かなり色々なできごとがあって、警察たちはとても汚かったし、そこには正義がなかったんだ。不義でしかなかったし、様々な家族が痛みを感じていた。だかスミフンウェッスンのTekとして何か伝えないといけないタイミングだと感じたんだ。

 

➖ここ数年で起こっている警察による不当な暴行の映像がMVにたくさん含まれていることに気が付きました。その様々な映像のなかでもとても気になったのはキング牧師のスピーチの映像です。ここは「非暴力のために自身をコントロールをし、平和でありクリエイティブなプロテストである必要がある」と語っている箇所ですね。

Tek: かの有名な「I Have a Dream」のスピーチの抜粋だね。

 

➖ 長年明らかに改善すべき状況が続いているのもあり、アーティストのなかにはアグレッシブな方法であったり、過激な表現でプロテストをする人もいると思います。そのなかでスピーチのこの部分を使用した理由やメッセージはどのようなものなのでしょうか?

Tek: まぁアーティストは自分の表現を他と差別化をしたり、表現した事象へと自身が成長したりするから他のアーティストの気持ちを代弁することはできない。それが全てのアーティストを素晴らしくする要因だし、そうやって成長をするんだ。たまにファンがそういう一つの要素しか聞きたくない場合もあるから、進化/変化するのはとても難しいときもある。アルバムをたくさん出したとしても「あの方向性はやらないほうが良かった」って言ってくる人もいるから、「箱」の外に出るのが難しかったりもする。

質問を答えると、ただ自分にとって心から来ている「リアル」な感情を入れれば、リスナーにも届くはずなんだ。それが時には「怒り」としてアウトプットされるだろう。一人ひとりが日常で感じていることをアウトプットするタイミングなんだ。それで言うと「そんなに悪態を付かなくてもいいんじゃないか」と思うときもあるんだ。知的な方法で相手と話していれば「あ、こいつだたの動物じゃないんだ」って理解してくれる場合もある。そうすれば彼らの計画を無効にすることもできるし、知的に対応すれば攻撃と防御のどちらもできるんだ。自分のアートをどうやって発信するかの違いなだけだよ。

 

“Dah Shinin’を作ったときはまだ、子供だった”

 

➖94年とか95年らへんに戻ってお話しを聞いてもいいですか?

Tek: 戻ろう。

 

➖ 1stアルバム「Dah Shinin’」は90sヒップホップのクラシックとして評価されています。当時から今回のアルバムを比べて、リリックのコンテンツはどのように変わった/成長したと感じますか?

Tek: もちろんかなり変わったよ。「Dah Shinin’」を作ったときはまだ、子供だったし、高校生だったからね。当時は小節の数え方も知らないレベルだったし、サビの作り方もなんもわからなかったんだ。当時はただ音楽をやりたいという気持ちがあるだけだった。

俺のフッドだと残酷なこととか、ネガティブなことばかりが目立つから、当時はそれについてラップするのがイケてると思ってたんだ。フッドにいると女をゲットして、金を稼いで、世界を周ってってそれだけで終わってしまうんだ。でも成長すると心ができあがってくる。本を読んだり、今まで交流がなかったような人たちと出会ったりすると会話の全てが変わってくる。例えると子供のときは子供用のおもちゃで遊ぶけど、大人になるとそれを置いて大人として生きていく。自分の時代と一緒に進化をしないと置いてけぼりになる。

➖業界の変化

Tek: また、俺らのリリックが変わっただけではなくて、業界やビジネスもかなり変わったんだ。様々なレーベルが大手のレーベルに吸収されて、インディペンデントではいれなくなったんだ。原盤権も自分で所有することができなくなった。だからその「力」に立ち向かって戦うか、今までと違う契約を結んでアルバムが完成しているのにリリースの許可がおりないような状態になるか。そんな障害物を乗り越えないと基本的にアーティスト人生が終わったようなものだった。

あと今では毎日新しいアーティストが表に出てくる。昔はコンピュータとかテクノロジーがなかったから、アーティストとしては、ファンから見たら全員違う存在に見えたんだ。全員が違うスタイルを持っていた。皆競争をしていたけど、それはお互いが違うスタイルをやっているというリスペクトがあった上での競争だった。どっかのクルー同士が仲良くないとかはあったけど、皆お互いをアーティスト/人としてリスペクトをしていた。

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“次の世代にインスピレーションを受け渡す”

 

➖ 「Dah Shinin’」はNYのストリートを感じさせるヴァイブスがあったと思います。なんとなく当時のブルックリンのイメージができそうなぐらいビビッドな描写だと感じました。

Tek: いややっぱり行ったことない人には想像できないと思うよ。Naughty By NatureのTreachも「もしゲットーにきたことがないなら、一生ゲットーにくるな。ゲットーに足を踏み入れるな」って言ってたしな。

まぁそれは置いといて、もしラップに限らず「アーティスト」であったら自分が居心地が良いと感じる場所から遠く離れた場所に旅をすることをオススメするよ。色々なことを見れば見るほど、色々なことを学ぶことができるし、リリックもその分深くなる。リスナーが自分の経験と同じことを感じ取れるように、もっと鮮やかな「絵」を描くことができるんだ。

色んな場所でライブをしていると、自分が音楽で描いた「絵」を見て、自分と同じことを感じた人たちに出会うんだ。例えば俺らにたいして「あなたたちの音楽が励みとなって、大変な時期を乗り越えて弁護士になることができました」とか「Smifのおかげで25年の懲役を乗り越えることができた」とか言ってくれる人たちと出会うんだ。今でもそういうことを聞くと鳥肌が立つ。自分はいい仕事をしたなと感じるし、そうやって「生きたい人生」を生きるための励みに自分たちがなったと考えると「まじか」ってなるよ。アーティストとしてはそれ以上に良いフィードバックはないと思う。

 

➖ とてもインスパイアリングですね。ここにいる全員がヒップホップがとても好きで、自分の人生の糧にしている人たちだと思うんですよね。私も音楽やアーティストが自分の人生において大幅に影響を与えていて、今Tekのような人と話しているだけでも不思議な気持ちになります。

Tek: ほらここで鳥肌だ立つんだよ(笑)こういう経験はドープだよな。音楽業界で例えるとしても、若いアーティストのなかには、金、女、音楽のファッション的な部分にフォーカスに行っている人が多いと思うんだ。マインドセットが次の世代にインスピレーションやモチベーションを受け渡すことにフォーカスしていない人が多い。アーバンやフッドから来ていると、メンタリティが「バケツの中の蟹」と同じような感じなんだ。バケツから出ようとしている蟹を、他の蟹が引きずり下ろすから最終的にどの蟹も外に出ることができない。「俺がシーンに出て、次の奴の手助けはしないで、俺が一番」みたいな人は多いけど、俺らは一度もそんな感じになったことはなかった。

Boot CampがBoot Campを作ったのもそのためなんだ。Black Moonが最初にシーンに出て、そこからSmif-N-Wessunに手を差し伸べてくれた。俺らがシーンに出たら、俺らはHeltah Skeltahがシーンに出れるように手を差し伸べた。Heltah Skeltahが出たら彼らはO.G.C.に手を差し伸べた。そうやって「一人ひとりが教え合う」という精神を持っていて、どうやって夢や志にフォーカスすればいいかを見せていたんだ。

例えるとShyneのアルバム製作の話しみたいな感じで。DiddyがShyneを部屋に閉じ込め、2Pacとかビギーのレコードを永遠に聞かせてたらしいんだ。そうやてShyneがインスピレーションを得つつ、独自のスタイルを作っていった。マイク・タイソンのような偉大なボクサーでさえも、自分より先にいたレジェンドから学んだんだ。

 

➖Smifは最初はBlack Moonの「Enta da Stage」にてフィーチャリングされて出てきましたよね。その後Bucktownがアンダーグランドヒットになって、まさに毎日の努力と共にカムアップした感じですよね。Tekにとってアングラから「カムアップ」したり、「グラインド(毎日努力して這い上がろうとすること)」するのはどういう意味を持っていますか?

Tek: 俺らの「グラインド」はとてもクレイジーだったよ。前の質問にも少し戻る内容になるかも知れないけど、今ではSNSはヒップホップの大きな一部分なんだ。でも俺らの時代には何もなかったし、誰も何も与えてくれなかった。だから俺は「グラインド」をしている人をリスペクトしているんだ。若くてアップカミングなアーティストとか、起業家とかがインスタとかTwitterで俺に相談をしてくることがあるんだけど、そういう「グラインド」している人たちに応えて、一緒に何かをやるってのはとてもクールだと感じるね。何もないところから何かをゲットしようとしている人たちはリスペクトするよ。

さっきも言ったように誰も助けてくれなかったからこそ、Boot Campはお互いを助け合うんだ。だからグラインドは毎日だよ。契約をゲットして金を使えるようになった瞬間に「成功」したと思う人は結構多いと思うんだけど、実際の血と涙と汗はそこからはじまるんだ。1曲で契約をゲットしても、その後2、3、4曲立て続けにそれ以上のクオリティのものを出し続けないといけない。

俺は残酷なバックグランド/環境から来ているから、結構ボクシングの例えを使用することが多い。音楽はボクシングのジャブ1、2、3とボディのコンビネーションと同じようなものなんだ。契約をゲットした曲を出して、次の曲も出して、その後も自分のキャリアをフォローしてもらえるような渾身の一撃を出さないと、リスナーをノックアウトすることはできない。だからグラインドは毎日だよ。だって60歳になって腰痛と膝痛を持った状態で毎日ライブはしたくない。でも若い人たちが輝くチャンスを与えることで、ゲームには参加できるんだ。

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SMIF-N-WESSUNのTek来日インタビュー!ソロ新作や90sヒップホップクラシック「Dah Shinin’」について【後半】

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