プロデューサーたちの地位向上を訴えるアーティストたち。プロデューサーやトラックメーカーたちは過小評価されてる?
様々な音楽アワード
が業界には存在している。グラミー、MTVアワード、BETアワード、Billboard Musicアワードなど、メインストリームで活躍しているアーティストが輝ける場はたくさんある。そのようなアワードの受賞歴が、後に功績として語られることは少なくはない。しかしそんなアワードのジャンルの公平性などに対して否定的な意見をもっているアーティストが多いのも確かである。
そのようなアワードでは、様々なアーティストが「スター」となる。一躍世間に知られ、「ホット」な存在となるのだ。そんななか、このようなヒップホップアワードとはまた別のところで、違うベクトルの議論が行われている。それは「プロデューサーの地位向上」である。
「スター・プロデューサー」と言えば誰を思い浮かべるだろうか?Dr. Dre、Swizz Beats、Timabaland、Just Blaze、J Dilla、DJ Premier、近年だとMetro Boomin、Zaytovenなどの名前を思い浮かべるだろう。確かにそのように前に出るラッパーと同じレベル、もしくはそれ以上のスター性/知名度があるプロデューサーは多い。しかし、その一方でプロデューサーがビジネス的な観点を含めて不利な状況に立たされていると語る人は多い。
例えばその一人として発言しているのがSonny Digital(ソニー・デジタル)である。彼は今までFuture、ILoveMakonnen、Drake、Tory Lanezなどのアーティストにビートを提供しているプロデューサーであり、実際には自分でラップしている曲もある。彼はこの度Twitterにてこのように発言した。
Every person on XXL cover should OF had the producer of whatever song that got them on the XXL COVER with them on the cover.
— Sonny Digital (@SonnyDigital) 2017年6月26日
XXLのカバーを飾ったやつらは、そのきっかけとなった曲をプロデュースした人と一緒に載るべきだ。
Take the beats off these "HIT" and what do we have ?
— Sonny Digital (@SonnyDigital) 2017年6月26日
これらの「ヒット曲」からビートを取り除くと何が残る?
Producers union coming soon to dead all these problems. pic.twitter.com/65vd5UTL73
— Sonny Digital (@SonnyDigital) 2017年6月26日
なんでプロデューサーたちはノミネートされたりしないんだ?俺らがほとんどの土台を作っているのにな。アワードももらえないし、知名度もない。クレイジーだよ。だから俺は今では自分でラップをするんだ。ビートだけ作ってても皆が俺にクレジットをくれないからな。ヒット曲からビートを取り除いたら大体はクソになるから。ビッグなプロデューサーでも、そうでない人でも、もっとリスペクトされる必要がある。
彼はツイッターにてこのようなことを語った。この発言は、Flying Lotus、Ayo the Producerなどのプロデューサーを含め、音楽業界内外から賛同を得ている。特に独自でプロデューサーとして大きな功績を残しているFlying Lotusのようなアーティストが賛同しているということは、これは業界内の多くの人が同感だということが予想ができる。
近年頻繁に見るのは、YouTubeにアップされているビートを勝手に使用し、バイラルになってしまうラッパーたちである。SahBabiiのヒット曲「Pull Up Wit Ah Stick」をプロデュースしたLil Voeの例がわかりやすいだろう。DJBoothによると、彼はアップしていたビートを勝手に使用された挙句、SahBabiiのレーベルと悪条件の契約を交わされ、気がついたらパブリッシングの権利などを手放していたと語っている。新人であることをいい事に、あからさまにプロデューサーに対してアドバンテージを取ろうとしているレーベルは多いのではないだろうか?
Desiignerの「Panda」をプロデュースしたMenaceに関しても同じようなことが言える。彼はいまだにカニエ・ウェストからの支払いが済んでいないらしく、なかなか連絡も取り扱ってくれないと語っている。
関連記事:業界の闇?常識?Desiignerが$200で買った「Panda」のビートとプロデューサーとの金銭トラブル
ラッパーたちは自分の声を使うので、特徴的な人であれば聞いた瞬間に誰かがわかる。そのため、一瞬で「これは俺の仕事だ!」と主張することができるのである。しかしプロデューサーたちは「言葉ではないサウンド」で勝負するため、聞いた瞬間にはわからない人も多いだろう。もちろんDJ Premierのように聞いた瞬間に「あ、これ多分プレミアだ」となるプロデューサーもいる。
そのため、近年では「自分の作品だ」と明らかにするために、自分の名前などをビートに含める「DJ Drop」や「タグ」という手法を使用するプロデューサーも多い。DJ Khaled!!!などが最もわかりやすい例かもしれない。このようにプロデューサーでも、自分が「スター」になる方法があるが、大半のプロデューサーは表舞台で活躍することなく「ミュージシャン」として活躍をしている。
それを踏まえた上で、記事冒頭のアワードの話題に戻ると、実際にグラミーでは「Producer of the Year」はクラシック部門でしか存在しない。BET AwardsやBillboard Music Awardに関しても、「プロデューサー枠」というものは存在しない。もちろんヒップホップで言う「プロデューサー」と他のジャンルのプロデューサーでは全く性質が違うのでなんとも言えないが、「Track Maker of the Year」的なのはあってもいいのではないかとは思う。実際にはヒップホップ雑誌のSource Awardsでは「Producer of the Year」が存在していた。
楽曲がグラミー賞を受賞したときは、名義のアーティストだけではなく、作曲者/プロデューサーなども一応受賞しているのだが、世間の関心がアーティストに向かうことは否めないだろう。プロデューサーの功績をさらに讃えるべきものとして、改善していくべきだという意見が多いのも確かである。そもそも地位って?それを向上するためには何が必要?という疑問が浮かんでくる。地位向上を手伝うために、何が必要なのかを論理的に考える必要が出てきた。Playatunerでは今後もプロデューサーのモチベーションになるような記事も投稿をしていきたい。何にせよ、プロデューサーたちへのリスペクトは必須であり、彼らの功績なしでは業界として前に進むことは難しいだろう。
ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington):カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼Playatunerの代表。umber session tribeのMCとしても活動をしている。
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