デビュー前のエミネムから見る「キャリアを前に進めるドライブ力」Dr. DreやLL Cool Jと出会ったときのエピソード

 

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こうなったらいいな

と近い将来の夢を語ることは誰にでもあるだろう。Playatunerでは、そんな頭のなかで願っていた夢が、徐々に現実になる瞬間を目の当たりにしたアーティストのエピソードを【ヒップホップ・ドリーム】という形で頻繁に紹介している。以前はMobb DeepがQTipに発掘されたエピソードや、Big Seanがカニエ・ウェストにアピールしたことや、A-Trakがどのようにしてアイコン的な存在になったかを紹介したが、彼らに共通する点がある。それが良い循環を作る「ドライブ力」だと感じる。今回はその「ドライブ力/勢い」がきっかけでキャリアが前に進んだ例をまた紹介したい。

自分が憧れていた人に発見され、成功したという例を考えると、エミネムのエピソードが印象的であろう。以前彼が初めてDr. Dreのオフィスを訪れたときのことを紹介した。

Dr. Dreとエミネムが出会ったときのことを語る。HBO新ドキュメンタリーから有名なエピソードを紹介

 

このエピソードを見ていると、たまたま彼の作品がInterscope Recordsのインターンの手に渡り、偶然Dr. Dreに発掘されたように思えるが、実際にはエミネムは少しずつ兆しが見えていたようだ。彼はLL Cool JのRock the Bells Radioに出演した際に、当時のことを詳細に語っている。

 

 

エミネムといえば、Dr. Dreに発見されるまでは、経済的に困っており、娘もいる状態でラッパーとしてどのように成功するかを試行錯誤していたことで知られている。彼のインディーズ1stアルバム「Infinite」はほぼ売れず、彼はローカルのラジオ局からもサポートされない現実に怒った結果、Slim Shadyという人格を作り、アグレッシブなラップスタイルを確立していった。そこで1998年にリリースしたEP、「Slim Shady EP」が徐々にアンダーグラウンドで評価されたのである。

 

 

彼はDr. Dreと出会う直前の自分の行動について、このように語る。

 

エミネム車で二人の女の子と一緒にいて、彼女らが「Phone Tap」(Dr. DreがプロデュースするThe Firmの曲)を流してたんだ。それを聞きながら俺は「もし俺がDr. Dreと一緒に音楽を作れたら…!どんなにいいだろうか…」って思ってたんだ

 

 

車のなかで、女の子たちが流したDr. Dreのビートを聞いて「もし俺がDr. Dreと一緒になれたら!」と思っていたらしい。その直後に、彼はラスベガスに行くことになる。

 

エミネム:実はプレスした「Slim Shady EP」は実際には結構良い感じに売れてたんだ。1000から2000とか売れ始めて、そしたらラスベガスに5000枚も買いたいって人も出てきた。だからラスベガスに行って、色んな店に委託したりしてたんだ。

それが終わってホテルに戻ると、Marky Bass(プロデューサー)が「おい。とある”ドクター”から電話があったぞ。お前に会いたいって」って言われたんだ。俺は「は?嘘だろ?ふざけるなよ」って思ってたんだ。その一週間後、俺はDreとミーティングをしていた。

 

そのときに電話をかけてきた「ドクター」がDr. Dreであったのだ。Dreと出会う前のエミネムは全くの無名と言われてきたが、実際にはキャリアが前に動き出している最中であったことがわかる。「Slim Shady EP」をリリースした1997年にも、彼は地元から遠く離れたLAにて行われたフリースタイルバトル大会「Rap Olympics」にて準優勝を果たしており、徐々に状況が良くなっている兆しを感じていたであろう。キャリアが前に動き出したときの「ドライブ力」をそのまま持って行動したとも言える。当たり前のことのようだが、実際に長い期間をかけてその勢いを保つのは非常に難しい。

彼は続けて番組のホストでもあるレジェンドLL Cool Jと初めて会ったときについてこのように語る。

 

エミネム:その後、俺はFoot Locker(スニーカーショップ)にて、Kirdis Tuckerと「Just Don’t Give a Fuck」のビデオのために買い物してたんだ。そしたらあなた(LL Cool J)がいたんだ。「うわLLが一人でいる」って思ったね。それであたふたしてたら、あなたが俺のリリックを俺の前で披露したんだ。「Yo, how can I be white? I don’t even exist(俺が白いわけないだろ。そもそも存在すらしていないんだから)」ってね。まじで糞を漏らすかと思ったよ。

 

このエピソードの面白さは、エミネムはこのリリックが出てくる曲「Role Model」の冒頭にて、LL Cool Jともビーフ状態であったラッパーCannibusをディスっているところだろう。それがきっかけでLL Cool Jはこの曲を気に入ったのか、LL Cool Jのほうからエミネムのリリックを披露したのである。自分がまさか届くとも思っていなく、リリックで関係性を持った人が実際に自分の人生に入ってきた瞬間である。

 

 

この「ドライブ力」や「サイクル」という概念は、今まで複数回Playatunerにて書いている。人気レーベル「Stones Throw」のPeanuts Butter Wolfが、売れる前にビースティ・ボーイズのステージにデモテープを投げ入れ、そのときは何もなかったが、数年後に実際に共演することになった「サイクル」もその一例だ。

個人的には、「ドライブ力/勢い」という点では、「Will Smithがどのようにしてテレビスターになったか?」という例が気に入っている。このエピソードにて、レジェンドQuincy Jonesが見せる「ドライブ力/勢い」は非常にインスパイリングだ。彼は85歳になった今でも、そのドライブ力を失っていない。一度良い兆しが見えたときに、その勢いを持ったまま次のステップに行くことができるのか?これはPlayatunerでも課題であり、個人的にも見習っていきたいことだ。

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