『一晩でブレイクするなんて嘘だ』Rapsodyが「弱みを強みに変える力」とプロセスの大切さについて語る
ヒップホップの地域性
というテーマについては以前PlayatunerでもIce Cubeの言葉を借りて取り上げた。そんななかでも、メッカとしてNY、LA、ATLほどは注目されていないものの、数多くのリリシストが出て来る土地として徐々に信頼性を高めているのがノースカロライナ州である。
ノースカロライナ出身のリリシストと言えばPhonte、Big Pooh、J. Coleなどが挙げられるが、そのなかでも新世代の希望としてラップ界で期待されているのがRapsody(ラプソディー)である。彼女はロックネイションからリリースする初のアルバムとして「Laila’s Wisdon」をリリースしたのだが、こちらが素晴らしいプロジェクトとなっている。フィーチャリングにはケンドリック・ラマー、Anderson .Paak、バスタ・ライムス、Black Thought、Lance Skiiiwalker、BJ the Chicago Kid、Musiq Soulchildなどの実力派が参加している。
そんな彼女は現在29歳であり、このリリシストとしてのポジションに行き着くまでに「グラインド」をしてきた人である。下記のインタビューにて音楽活動についてこのように語っている。
Charlamagne:アルバムに出てくる「People enjoy the car more than the drive(人々はドライブより、車そのものをエンジョイする)」というリリックが印象的だったんだけど、これはどういう意味?
Rapsody:「車」はその完成されたプロダクトだったり、結果のことへの比喩だったりする。例えば知名度とか賞賛だったり。皆その結果だけを見たがるんだけど、その結果に行きつく人は見えないところで、10年とか歳月を費やしてるんだ。「ドライブ」はそこにたどり着くためのものだ。例えばこないだ話題になってたJay-Zのインタビューのような話だ。「本当にそのプロセスをやり続ける覚悟があるのか?」ってね。皆プロセスについてはあまり考えないんだよね。
例えば皆ケンドリックが世の中に与えているインパクトを欲しがるけど、彼だって10年以上「グラインド」していたんだ。私も最初にラップゲームに入ったとき、「1枚ドープなミックステープを出して有名になる!」って思っていたけど、そんな上手くいくわけがないんだ。
「車」は外からでも見える「結果」であり、「ドライブ」はそこにたどり着くための力だと語った。人々はその結果や「車」そのものに憧れるが、ドライブをする覚悟がない人が多いと比喩で表現した。以前Playatunerでも紹介したJay-Zの「人々はプロセスを見ないで、結果だけを真似る」というフレーズをレファレンスした。
しかしRapsodyも以前はそのように「簡単に成功できる」と思っていたらしい。もちろん1stミックステープで一気に知名度が上る人もいるが、大体は作品を頻繁にリリースし、諦めずに少しずつ少しずつファンベースを増やすのが重要だ。そんな彼女はどのようにして、その「グラインド」を知ったのだろうか?彼女は9th Wonderとの関係についてこう語った。
Rapsody:若い頃は私にそういうことを教えてくれる人がいなかった。だから9th Wonderと出会ったとき、「7年から10年ぐらいは何も起こらないよ」と教えてくれた。そして実際に今計算してみると、7年前に彼と色々やりはじめたんだ。他のアーティストを見てても、「才能」よりも「何回転んでも起き上がれるか」という忍耐が重要なんだって感じた。
テレビとかでオーバーナイト・サクセスする人もいるけど、それは滅多に起こらない。このソーシャル時代ではなんでも速攻結果が見えたりするから、プロセスをリスペクトしていない人が多いと感じる。
7年から10年は何も起こらないと語ったRapsody。9th Wonderのメンタリングによってこのようなメンタリティを身に着けた彼女は、単なる流行りではなく、「アーティスト」として今後も活躍するだろう。ときには「七転び八起き」的な精神が才能より重要だと語った。
ネットによるオーバーナイト・サクセスを夢見る人は多く、少なからずソーシャル時代の影響があるという意見も私は同感である。私はこれを「インスタント・サティスファクション(即席の満足)」と呼んでおり、ソーシャルメディアによって速攻で承認欲求を解消できることが当たり前とされている世の中では、「長い道」を歩ける人の数が少しずつ減っているのではないだろうか?とも個人的には感じる。
最後にケンドリックとLance Skiiiwalkerが参加しているRapsodyの楽曲「Power」の意味を紹介してこの記事を終えたい。
Rapsody:自分にとってPowerとは「自分のことを知る」ことだ。自分の「力」をどのように活用できるかを知る前に、自分のことを知らないといけない。自分のことを愛さないといけないんだ。Powerには様々な形がある。例えば、よく「女性は男性に比べて感情的」と言われるけど、それは非常にパワフルなことだ。男性が共感できない様々なことにも、違うレベルで共鳴できる能力があるかもしれない。そういう「自分の力」を認識して、認めることがPowerだ。
非常にパワフルな回答であった。Rapsodyは自分のことを大きく見せる必要もなく、素の自分を愛して表現をしているのが伝わってくる。だからこそ彼女のリリックは言葉遊びも巧みながらも、人々に刺さるものとなっているのだろう。自分の弱さを補うためのからくりを必死に考えるのではなく、その弱みが強みになるように捉え、自分を愛すことができているのだ。
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