ケンドリック・ラマーにとって成功とは?若者の命を救うミッションにコミットする彼の理念

 

 

Writer: 渡邉航光(Kaz Skellington)


kendrick-lamar

http://www.kendricklamar.com/ から引用

 

メッセージ性の強いアーティスト

ブラックミュージックは常にメッセージ性の強い音楽であった。問題解決のためにメッセージを叫ぶアーティストとともに成長してきたジャンルである。現代のラッパーのなかで、メッセージ性が強いアーティストの一人といったらKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)であろう。

ヒップホップ内外からも評価され、プラチナ認定もあり、グラミーを取るほど知名度もあるケンドリックであるが、彼にとって成功とは何なのだろうか? 上記の功績は彼にとって成功の定義からは外れているらしい。

彼のForbesのインタビューを読むことにより、彼の「成功」にはさらに深い意味があると知ることができる。

 

➖ 俺にとって成功とは、人々が人生をさらに歩み続けたくなるようなレベルまで、その人たちの心と繋がることだ。いつも「もう生きたくない」と言って自分を傷つけるような子供たちと出会う。でも俺の音楽を聞くと前進する勇気がでると言ってくれるんだ。それが俺にとっての成功であり、もっとも重要なことなんだ。一人ずつでもいい、そのような子供たちが人生にて前に進む糧となれるなら、俺は音楽をやり続けるよ。

 

子供たちが人生にて前進できるメンタリティを音楽を通して伝えることが「成功」の定義だと語る。「金、名声、女性」などが「サクセス」だとラップするのがメインストリームなヒップホップイメージのなか、彼のこのような行動がリスペクトを集めているのであろう。

 

To Pimp A Butterfly


アルバム「To Pimp A Butterfly」はリリックの内容的にも名作であるが、そのなかでも注目すべきは「u」と「i」の2曲のコントラストである。アルバム6曲目「u」では1stシングル「i」に比べ、自分に対するマイナスな感情や自己嫌悪、そして自分を愛することができない鬱な感情が渦巻いている。自分がいかに最低な人間で自分がリーダーになれるはずなんてない、と語っている。

しかしアルバムの終盤に収録された1stシングル「i」では、最終的に自分自身を愛することを伝えている。ここで重要なのは「ポジティブさを振りまくだけでは誰も信じてくれない」ということだ。彼自身が感じたリアルな鬱症状と自己嫌悪を語り、リスナーと共感をした上で、自分を愛することを伝える。スピーチの手法としてはオバマ大統領が得意とする「共感をはじめとした主張」と似ている。ケンドリックはごく自然にこのようなメッセージの伝え方ができているから、多感な若者に刺さるのであろう。

 

 

 

ケンドリックが若者の人生を変えたエピソード


今年の3月に行われたケンドリックのライブにて彼は、一人の青年をステージに上げた。その青年はケンドリックの「u」を熱心に歌っていた。それを見たケンドリックは彼にも「u」を熱心に歌うほどの理由があるのかと思い、ステージにあげたのだ。

そこでケンドリックは大勢の客に向かって「皆がどのような問題を抱えているのかは俺にはわからないし、それでみんなのことを判断することはできない。ただ自殺や鬱症状というのはジョークじゃないんだ。この曲は問題を抱えてそういう思いをしているやつらに捧げる、俺はその痛みをわかる」と伝えたのだ。

このできごとを受け、ステージにあがった青年の兄はアメリカの掲示板Redditにてこう語っている。

 

俺の弟は学校でもイジメられてるようなやつなんだけど、自分の気持を他人に打ち解けることができないようなやつなんだ。そんな彼はこのフェスにて最前線でケンドリックを見るということを目標にしていた。9時間もステージの最前列で待機をして、やっと彼のライブを見れたと思ったら、このような機会をケンドリックがくれたんだ。しかも彼は大学で「u」についてのレポートを書くぐらい共感していたようだった。

元々家から出ないようなやつだったんだけど、彼はあれ以来、痩せることにコミットをしはじめて(元々130kgほどあったらしい)自分自身を愛そうと努力をしはじめた。ケンドリックに感謝しているよ。

 

このようなできごとを調べてみると、ケンドリックの「一人ずつでもいい」という言葉がしみてくる。彼のように大人数にインパクトを与えるのはとても難しいことかも知れない。しかし「一人ずつ」地道に人生にポジティブな影響を及ぼすことは、意識をすれば私たち誰もができることかも知れないと感じさせられた。彼が2Pacの後継者と呼ばれる理由がこのような思想からも伝わってくる。このようなアーティストをリアルタイムで観察することができている私たちは恵まれているのかも知れない。

ケンドリック「DAMN.」のラスト「DUCKWORTH.」に込められたストーリーを解説/考察

ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Playatunerの代表。FUJI ROCK 2015に出演したumber session tribeのMCとしても活動をしている。

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