Staff Blog: ミュージシャンの死因を調べた大学教授の論文に見られるヒップホップへの誤解

Writer: Akashi


 

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昨年オーストラリアのシドニー大学の教授による「音楽にささげた生涯:ジャンルが与えるミュージシャンの平均余命への影響」という論文が話題になったことを覚えているだろうか。

http://theconversation.com/music-to-die-for-how-genre-affects-popular-musicians-life-expectancy-36660

 

その論文内でも話題を一際振りまいたのは、ヒップホップアーティストの死因の51%が他殺によるものである、という数値だ。論文内でのサンプル1万3千人の中で、他殺で亡くなったアーティストの割合は6%。ヒップホップというジャンルがいかに危険と隣り合わせであるかを極めて分かりやすく示した数字であると言えそうだ。

しかし果たしてこの論文での主張は正当と言えるのであろうか。

ヒップホップが誕生したのは1970年代中頃。一般に知られる流通作品である”Rapper’s Delight”のリリースは1979年と比較対象とされている音楽ジャンルの中でも一際歴史が浅い。

 

ヒップホップ黎明期より活動しているアーティストですら60前後であることから高齢により誘発される死因とはまだ縁遠いことも一つこの論文の正当性への疑いを持たれる要因となっている。

そしてまた個人的に思うのは、アーティストという括りの曖昧さにある。

知名度が高い、あるいは活動の規模が大きいアーティストが事実他殺されるケースはヒップホップに関しては少なからず目立っているが、広義にアーティストを捉えるのであれば半数近くが他殺されているという統計にはどうしても懐疑的にならざるを得ない。どうしてもヒップホップを暴力性と結びつけようとしているように思えてならないのだ。

ヒップホップ=野蛮というパブリックイメージは未だに一部で根強いようであるが、仮にそう考えるのであればもう少し厳密な根拠を基に主張してもらいたいものだ。

ロックやパンク、メタルの死因の上位に上がる「事故」やメタルの死因の20%弱を占める「自殺」など、ロック界で目立つ衝動的な死も、また看過できない問題であるはずなのに、何故ヒップホップのみが殊更にこうした論調によって非難される傾向にあるのか。

確かにヒップホップアーティストはBeef文化やフリースタイルによるラップバトルなど、好戦的に映る要素を多く擁していることは疑いようのない事実ではある。しかしかねてより、マーリー・マールが「リスペクトをお互いのアーティストに持つべきだ」と進言していたり、近年ではケンドリック・ラマーのようにギャングと関わりがないことを公言しているヒップホップアーティストもいる。ギャングスタヒップホップグループの先駆者的存在であったN.W.A.に所属していたIce Cubeもフェニックス工科大学建築学部に進学していたなど、インテリ的な要素を持ち合わせていることも広く知られている。

こうした要素を鑑みればヒップホップがただただ暴力的で、攻撃的、かつ非理知的な音楽文化であるとは言えないのではないか。具体的な統計や数字を用意されると読者はいかにも信憑性の高い論を展開しているように錯覚してしまう場合は、往々にしてある。

しかしながらそうした数字の力を恣意的に、かつ独善的に利用していることはなかなかに悪意のある行為であるように筆者には映る。

論文という公平性が求められる領域においてこそ、中立的に各音楽ジャンルの違いを検証してほしい。むしろヒップホップにおける他殺の問題を考えればこそこうした「暴力的」なヒップホップへのレッテル貼りを避け、若者のギャング信奉やゲットーイズムへの憧れなどが過度に生まれない環境作りに遠因としてでもいいから働きかけるような論文を残してほしく思う。