超ベテランMCのKRS-ONE新アルバム「The World is Mind」リリックからアルバムのメッセージを読み解く

 

超ベテラン & スキルフルMC

と言ったら誰を思い浮かべるだろうか?ほとんどの人はRakimなどを思い浮かべると思うが、やはりKRS-Oneの存在は絶対に忘れてはならないであろう。1980年代中盤からBoogie Down ProductionsのMCとして活動し、さらにはソロアーティストとしてもトップMCとして君臨してきた。今年で52歳になるベテランKRS-Oneであるが、なんとBandcampにて新アルバム「The World is Mind」をリリースしたのである。

彼の図太い声とアグレッシブなラップは今でも健在で、素晴らしいMCスキルを聞かせてくれる。KRS-Oneのラップが期待はずれだったことはなく、今作ももちろんダイナミックなブームバップスタイルのトラックの上で無双スピットをしている。価格も15曲で$10となっているので、ストリーミングで気に入ったら購入することもできる。

個人的には「My Dreams」が一番好みなのであるが、このアルバムにてKRS-Oneが伝えたかったことはラストトラックの「The World is Mind」にて垣間見ることができる。「The World is Mind」ではKRS-Oneは、かの有名な「2人の患者と窓」のストーリーを伝えているのだ。彼のリリックはこのようなストーリーを伝える。

 

KRS-One:The World is Mind

病室に2人の患者AとBがいた。彼らは同じ病室で、お互いが病気と戦っていた。Aは窓際のベッドにおり、Bは窓が全く見えない箇所にあるベッドに寝たきりであった。Bは暗いところで治療をされるだけの毎日を送っていた。窓の外を見ることができるAに嫉妬をしたBは、毎日窓から何が見えるかをAに聞いていた。Aは外を歩いている人々、遊ぶ子供たち、道行く車たちについて、Bに毎日お話をしたのだ。その描写を想像することしかできないBは、いずれ「自分が窓際に移りたい」と考えるようになった。




そして病気が悪化したのか、亡くなったのか、Aが病室からいなくなったのだ。そのすきを狙ってBは窓際に移れないかを頼んだところ、移ることができた。寝たきりの体をどうにか起こし、窓の外を見ると、彼は驚いた。そこには壁しかなかったのだ。Aが説明していた人も、車も、光も、花も、何もなかった。不思議に思ったAは看護師に「騙された!」と言ったが、看護師の返答がさらに彼を驚かせる。「騙されたですって?Aは盲目だったのです。」と看護師は言った。Aは寝たきりで退屈しているBのために「脳内の世界」を「想像/創造」をして話していたのである。Bはそこで「The World is Mind(世界は自分の心の中に)」と気がついたのだ。

 

このストーリーは実際日本の道徳の授業などでも学ぶようで、かなり有名なので知っている人もいるかも知れないが、様々なアレンジがされている。例えば「Aの体に異常が起きたとき、「Aがいなくなれば窓際に自分が移れる」と考えたBがナースコールをあえて押さなかった」というバージョンであったり、Bが盲目のバージョンであったり、色々なメッセージが込められている。

そこでKRS-Oneは自分の「The World is Mind」バージョンとして「想像/創造力」や、自分が考えたことが「リアリティ」であり、実現できるというメッセージを追加しているように考えることができる。ケンドリック・ラマーの「DUCKWORTH.」でもそうであるが、近年はアルバムの最後にオチを用意する作品が増えてきていると感じる。「DUCKWORTH.」のストーリーも素晴らしいので是非チェックしてほしい。

ケンドリック「DAMN.」のラスト「DUCKWORTH.」に込められたストーリーを解説/考察

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