凄腕プロデューサーAlchemistの発言がインスピレーショナル。彼の理念から見る「スランプ」の正体

 

 

素晴らしいプロデューサーたち

についてはPlayatunerでは頻繁に取り上げている。もちろんスタープロデューサーという存在は少なくはないが、プロデューサーたちが今以上に評価されてもいいのではないか?と感じている人たちも多いだろう。そんな凄腕プロデューサーのうちの1人であり、Playatunerのお気に入りのプロデューサーがAlchemist(アルケミスト)である。

AlchemistとEvidence「楽曲としてベストな状態を作ることが重要」ラッパーと作品のクオリティについて語る。

 

説明する必要はないと思うが、The Alchemistはベバリーヒルズ出身のプロデューサーであり、Dilated Peoples、Mobb Deep、Royce Da 5’9″Nas、Action Bronsonなどのアーティストを手がけている。またエミネムのツアーDJも担当していた。1997年からプロデューサーとして本格的にキャリアをスタートし、さまざまなスタイルのビートを世に出してきた。90sブームバップ的なスタイルから、2000年代のクラブヒットになるようなスタイルまで幅広くプロデュースする。そんなアルケミストであるが、彼のプロデューサーとしての理念や発言が非常に面白いので紹介をしたい。

 

作業

とりあえず自分にとって上手くいくように、自分のスタイルで解釈をした。クオンタイズとかトランスポーズとか、意味は知らないけど「このボタンを押すとこんな感じになる」ってことを理解した。

俺は基本的に朝早くに起きる。寝るのが嫌いだし、邪魔だと思っている。実際に作業をしていて、疲れてきたりすると、作業を続けられないことにムカついてくるんだ。

 

レコード屋

皆「史上最高の一枚」を探しているんだ。実際そんなレコードを見つけることはできないんだけど、それを見つけようと「狩りにいく」んだ。レコードを選ぶ際に、自分のなかのチェックリストみたいなのはある。例えば裸の女性がジャケットに写っているレコードは大体当たりだし即購入だ。

レコード屋でレコードを聞いていて、インスピレーションが湧いてくる。でも家に帰って違う環境で聞くと全然違う聞こえがするときがあるんだ。だから本当はレコード屋にドラムマシーンを持ち込みたい。レコードは自分のアイディアに火を付けてくれる原材料だ。

 

ビートメイキング

この狂気にメソッドなんてないんだ。大体ビートを作りはじめたときの雰囲気と、完成したときの雰囲気が全く違うものになる。

ビートの「完成」ってなんだろう。「このビートはこの状態が一番いいかな」って判断するのが一番難しいところだ。自分の手から離すのが難しい。必要以上に調理された料理以上に最悪のことはこの世の中に存在しない。味が多すぎるのは良くないし、実際に味が多すぎるというシチュエーションはある。全てのスパイスを鍋に入れてしまうと、料理は駄目になる。特に音楽では様々な選択肢があるから、その穴にハマってしまうことがある。

「なんの機材使ってるの?」って聞かれることはあるけど、そんなの関係ないんだ。ただ、ビートに歌わせることを考える。俺は昔はEnsoniqのASR-10を使っていたけど、とにかく持っている機材をマスターすることを考えていた。それでも今だにASR-10には知らない機能とかが詰まっている。

無難に「安全」であることはワックだよ。「まぁこれやっておけば安全だよね。これをやっておけば無難なトラックになるよね」ってのは偽りの「安心」だ。安全はダサい。

 

最後に

ビートを保存して、次にいったり、削除することを恐れてはいけない。「自分がトラックを作ったのか?それともトラックが自分をつくったのか?」自分に聞くべきいい質問だと思う。自分の素晴らしい作品にしがみつくことが、成長を脅かすこともある。まるでその一つのビートやヴァースが「自分を作った」かのように。

 

このように様々な場面での彼の脳内を見せてくれた。このなかで特に響いたのは「ビートの完成」について、「安全はワック」について、「自分がトラックを作ったのか?」ということについてである。最後の「自分がトラックを作ったのか?それともトラックが自分をつくったのか?」という質問は、一見非常にカッコつけてるフレーズに聞こえてしまうが、彼の言っている本質は非常に深いと感じる。

自分の過去の上手く行った例に囚われ、その後の自分の本領を発揮できないシチュエーションは今までに何度も見てきた。「こういうビートではこういうラップが良いはずなんだけどなぁ…」や「前に作った作品と同じメソッドを使ったけど、前作を超せない」と思いながらスランプに陥る人は私を含め多い。しかしその過去の「経験を活かす」ことと「囚われる」ことはイコールではないのである。経験を「活かす」ということは、未来に向けて進みやすくするために新しい価値をつけることであると感じる。

企業体制が良い例であろう。過去の経験を活かし、前に進む企業は常に時代を作っていくが、過去の習慣に「囚われ」前に進むことを拒んでいるメンバーが多い企業では、ズルズルと「スランプ」に陥るのだ。過去に上手くいっていた経験がある大企業に起こりやすい状態かもしれない。音楽を含め「ガラパゴス化」とされている業界にはそのような例が多いのかもしれない。

アルケミストのこのインタビューは、音楽だけではなく「創る人」全般に当てはまる精神性であったと感じる。自分の理念を持ち、道を突き進んでいく「アーティスト」に感銘を受けると同時に、彼らから受けたインスピレーションを糧に生きていく。

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