SZA「アルバム完成のためにレーベルにハードディスクを奪われた」アーティストが抱えるジレンマについて考える

 

 

作品に対しての姿勢

という話題はPlayatunerでは今までに何度も取り上げている。アーティストが自身を表現する作品をどのように捉え、どれだけ時間を込めているか?このような話題は私のなかでも常にホットな内容である。様々なアーティストの事例を読み取ることにより、リスナーとしての作品との向き合い方も変わってくるのでオススメである。

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そんな「作品との向き合い方」であるが、この度SZAの面白い話が出てきたので紹介したい。既に日本のメディアでもこの話は簡単に紹介されているが、なんと彼女のハードディスクがレーベルTDEに奪われたという旨である。TDEに所属しているSZAであるが、彼女はこのように語っている。From:The Guardian

 

SZA:私は全部フリースタイルするの。それを改めて聞いて「これはクソかな…どれが駄目かな…」って考える。もしそれがクソで、手直しができない場合は「うわぁこれまじで駄目だ…」って思ってイライラする。そういう場合は大体お蔵入りする。

CTRLが6月にリリースされたのは、レーベルが私のハードディスクをどこかへやったから。私は全部お蔵入りにしそうだったし、色々変更しすぎていた。150曲〜200曲ぐらいのなかから曲を選んでいて、「もう誰も何が良いかなんてわからないよ」って思っていた。考えすぎて自分でクレイジーになりそうだった。もし一ヶ月後にリリースしていたら全く違うサウンドになっていたと思う。

 

そのループから抜け出すために、レーベルの誰かがハードディスクを隠したと彼女は語っている。200曲ものレパートリーから選んでいるため、段々何が良くて、何が良くないかわからなくなるのだ。簡単に言うとゲシュタルト崩壊ということであろう。実際に自分で作曲をし、ミックスやマスタリングをやっていると頻繁に起こる症状であると感じる。自分の表現を客観的に見ることなんて到底無理なのだが、客観的に見ないといけないというプレッシャーも込みで「クレイジー」になりそうになるのだ。自分の作品に対して完璧主義な人に多い現象であろう。

実際にアーティストには頻繁にこの現象が起こる。人間の意識はすぐに進化/変化するので、もちろん表現したいものも変わってくるのだ。現在感じており、表現したいことは、二ヶ月後には既に自分のなかで終わった感情になっているのだ。そのため、一度そのループに陥るとなかなか抜け出せなくなり、楽曲制作のペースによっては曲を公開するメンタリティではなくなってしまうのだ。「楽曲を公開して等身大の自分を人に届けたい」という想いが強すぎるため、逆にうかつに公開できない「アーティストのジレンマ」(今勝手に名付けた現象)に陥るのだ。

Jay Electronicaがいい例であろう。以前「Jay Electronicaが絶対にデビューアルバムをリリースしない理由」という記事でも書いたが彼はこのように語っている。

「何かを作って時間が過ぎると、趣向/スキルが変わっているのでそれに満足できなくなるからまた変えるんだ。それに時間制限をかけることはできない」

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まさにSZAが陥っていた「アーティストのジレンマ」である。そしてこれの最も大きな事例がDr. Dreの「Detox」であろう。自分自身の表現に対する想いが強くなりすぎたため、あれだけ煽っておきながらリリースできなかった「未リリースの話題作」である。

そんななか、逆に案外フランクな感じでリリースしていくアーティストが多いのも事実である。例えば以前書いた「Just BlazeがJay-Zとエミネムの違いについて語る」という記事では、Jay-Zの作業スタイルについて紹介した。Just Blazeは『Jayは完成してないビートにラップをのせて、「あとは自由に完成させちゃっていいよ」って投げてくるときもある』と語っており、過去の彼が全体的な表現としてのラッパーというより、仕事としてのラッパーであることがわかる。もちろんラップが好きなことには変わらないが。

これに関しては、様々な想いとスタイルがあるので、とやかく言うつもりはない。しかしこのようなスタイルを知っていると、彼らの作品を摂取したときに受ける印象が変わってくると感じる。例えばJay-Zが4:44のようなコンセプチュアルな作品を作ったとき、「過去作品に比べて、これを作っているときはどんな温度感だったのだろう?」という疑問が捗る。そのような「温度感」を理解することにより、より広くのアーティストの作品を建設的に理解できると感じる。例えばGucci Maneなどのアーティストの音楽を「全部同じじゃん」って批判することは簡単であるが、実際に彼はそれを狙って作っている部分もあるのだ。また、近年のRussやBlackbearなどの事例を見ていると、とにかく超スピードでリリースしていく戦略によって成功するアーティストは多いと感じる

SZAのような例は頻繁に見る。個人的に話になってしまうが、規模は全く違うものの、実際に私も彼女に近いことで悩んだりする。しかしPlayatunerをやっていて「全力で作り、すぐ世に出してみること」の大切さも学ぶことができた。例えば私はついつい記事に長時間をかけてしまうので、「一旦まとまったらすぐ公開し、速攻でツイートする。ツイートした後に焦って校正する。」という厳しいルールを設けている。近年の成功しているアーティストを見ていると、このルールはもしかしたら自分の音楽活動にも落とし込めるルールなのではないか?と感じてくる。

過去の自分とのバランスをとりつつ、スピードとクオリティを担保し確実にリリースするのもアーティストとしての「スキル」だと感じる。完成させ、反省点を次に活かすのも「プロ」の立派な仕事なのだろう。

ライター紹介渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Playatunerの代表。FUJI ROCK 2015に出演したumber session tribeのMCでもある。

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