【ネタバレ】Tidal限定のJay-Zの新アルバム「4:44」を一回聞いて感じたことの全て【一聴レビュー】

 

 

 

音楽業界の話題をかっさらった

アルバムはJay-ZのTidal限定新アルバム「4:44」である。海外メディアは本当に「4:44」一色であり、恐らくこの話題はケンドリック・ラマーの「DAMN.」以上に長続きをするだろう。ほぼ前情報がない状態でリリースされ、ヒップホップファンの意識を奪ったこの作品は、海外メディアによって現在解体されまくっている。

日本からはTidalに登録ができないため、聞けていない方が多いだろう。「トニカクキキタイ!!!!」と思っていた私は、機会があり一度だけ聞くことができたので、その時に取ったノートを元にいつものように【一聴レビュー】をしたいと思う。日本では登録ができない状況でこのレビューを書くか少し迷ったが、良すぎて伝えたい気持ちでいっぱいになったので、書かざるを得なかった。実はこのアルバムを解体している海外メディアの記事は、ほぼまだ読んでいない。Jay-Zが各曲についての紹介をした記事や、Geniusにアップされたリリックがかなり話題になっているが、聞いた時の感情を率直に伝えるために我慢してきた。ネタバレになってしまうので、聞くまで他人の感想は聞きたくないという方は、ここで閉じていただきたい。

 

Jay-Z「4:44」【一聴レビュー】


「4:44」って一体なんだろう?どんなサウンドのアルバムになるのだろう?Beyonceの「Lemonade」のレファレンスとかあるのだろうか?自分の子供たちへのメッセージとかあるのだろうか?なんで日本でTidal登録できないんだ…?

様々な疑問を頭に思い浮かべながらこのアルバムを聞いた。聞いた率直な感想としてはツイッターのTLでみたHipHopDX元編集長Justin Hunteの「#grownmanbars」というツイートと同じであった。とても大人なリリックであり、彼の心情/プライベートがエモーショナル、かつ落ち着いた様子で語られている。印象に残った曲と聞いて感じたことを紹介したい。

 

アルバムはとても印象深いタイトルの「Kill Jay Z」というトラックからはじまる。「Jay Zを殺せ」という意味のタイトルであるが、「Fuck Jay-Z」「Kill Jay-Z」などのラインが印象的だ。自分に対して言っているのだろうか?これはケンドリックやエミネムなどの音楽にも言えることなのだが、誰もが「外から見える自分」と「自分にしかわからない、自信のない自分」を抱えていると感じる。その2人の「自分」の会話のようにも思える。正解はまだわからない。しかし彼が「小さい頃に兄弟を撃ったこと」や「QTipのリスニングパーティーでUNを刺したこと」がメンションされている。彼がこの話題に触れるのは珍しいのではないだろうか?この「1999年にUNを刺した理由」として「お前は”彼の態度が悪かった”という言い訳をしていた」と自分に言った後に、「Let go your ego(エゴを手放せ)」と言っている。それはまさに彼のキャリアが終わっていてもおかしくない事件であった。「Jay-Zとしてのエゴを手放す」というテーマなのだろうか?最後に「さよならJay-Z」というのもとても印象的だ。Jay-Zとのお別れ?引退?Jay-Zではなく、違う者として生きていく?正解はわからない。

 

2曲目の「Story of O.J.」はビデオにもなっている。これはNina Simoneのサンプルだろうか?以前「ヒップホップとカラリズムと類似性」で紹介した「I’m not black, I’m O.J.」という台詞が印象的だ。これは殺人罪で起訴されたが、無罪になったアメフト選手OJシンプソンの「俺は黒人じゃない…O.J.だ」という台詞であり、その後Jayは「…あっそ」と言う。

you know what’s more important than throwing money at the strip club? … Credit

ストリップクラブでお金を投げること以上に大切なことはなんだと思う?クレジットだ(預金/ローン/貸付/信用)

という台詞がとても印象的だ。さらに彼は以前買った絵の値段が何倍にも跳ね上がったと語る。「ストリップクラブで金を捨てるんじゃなくて、何かに投資をしてお金を増やそう」という提案なのかもしれない。「ユダヤ人がなんであんな不動産を持っているか知ってるか?」という質問から、金の増やし方を教えているように思える。さらにそれを子供に残す、ということを言っている。なるほど。お金についてこのような視点でラップするラッパーは今まであまりいなかったのではないだろうか?黒人全体として、そのようなお金の増やし方をしよう、というテーマなのだろうか?トラックは非常にメローであり、ソウルフルである。ラップも淡々としており、言葉も詰まっている感じではない。

 

「Smile」では彼の母が同性愛者であることを告白している。「笑顔」と名付けられた曲であるが、色々あっても「笑顔」、自分がいなくなっても「笑顔」とサビでは語っている。トラップ×ソウルなトラックで、「やっぱJay-Zラップ上手い…」となる。最後に「Welcome back Carter(カーターおかえり!)」でヴァースが終わる。やはりラッパーのJay-Zと、人としてのSean Carterの対立的なコンセプトがあるのだろうか?1曲目の「さよならJay-Z」を考えると、そのように思えてくる。ヴァースが終わった後では、彼の母親が「影」に生きることについて語っている。「幸せで自由」であること「幸せであるが、自由がない」こと…ヴァースが終わって油断をしていたので全部をキャッチできなかった。また再度リリックを調べたい。

 

「Caught their Eyes」で印象に残ったラインは「マスターを持ってないのにマスターぶっている」というラインである。これは自分の曲の原盤権(マスター)を持っていないのに、自分がマスターだと思っているアーティストへのメッセージだ。誰のことだろうか?Drakeや、レーベルに搾取されているアーティストたちか?さらにその直後に「Pure admiration turn to Rivals. I’ve been to Paris 2 times(純粋な尊敬が、ライバルになった。俺はパリに2回言った)」と語る。これはカニエ・ウェストに宛てたリリックだと感じる。

 

「4:44」は「I’m letting you down everyday(私はあなたを毎日失望させている)」というフレーズからはじまる。そしてソウルサンプルのビートが入るのだが、トラックめっちゃかっこいい!そしてJayが女性に謝り倒す!ビヨンセに謝り倒す!!「あなたは私より、大人になる速度がはやい」「電話をとってくれ」「誤った判断をしたこと」「双子の存在でやっとあなたのミラクルに気がつけた」「あなたは俺にはもったいないほどの人だ」「今まで感情で遊んだ女性たちに謝りたい」

おお、彼のプライベート、感情がむき出しになっている。ここまでJay-Zがエモーショナルになった曲などあっただろうか?エモーショナルすぎて、何故か自分もとても申し訳ない気持ちになってくる…感情移入が素晴らしい。

「子供が知ったら、俺はどうするかわからない。もし子供たちが知ったら、恥じながら死ぬだろう。誰と何をやったって?Blueがいながらそんなリスクをとったのか」

うわぁ。パーソナルすぎて「Jay-Zも俺と同じ人間なんだな..」と感じた。しかしこの曲が一番好きかもしれない。

 

「Bam」ではDamien Marleyをフィーチャリングしており。このフレーズからラップがはじまる。

「Fuck all this pretty Sean Carter shit. Sean was on some gospel shit. I was on some total fuckin opposite(こんな綺麗なSean CarterのやつなんてFuckだ。Seanはゴスペルでやってた。でも俺はそれの正反対だ)」

ん!?Sean Carter目線であったのが、Jay-Z目線になった!?なるほど。Jay-Zになるとアグレッシブな、今まで通りの自信満々のラップになるということなのか。「大人なラップ=Sean Carter」「イケイケなラップ=Jay-Z」ということなのだろうか?レゲェ風味が聞いたトラックと、入った瞬間にクラブがぶち上がりそうなベース、たしかに今までの曲と少しカラーが違う。

 

「Moonlight」ではFugeesの「Fu-Gee-La」のサンプルを使用している。「お前らは幻想に生きてる。皆同じフローでラップしている。誰が誰だかわからない。」というフレーズからはじまる。現代のラッパーたちに物を申しているのだ。まさにSnoop Doggが言っていたことと同じである。「Yall Walkin around like you made Thriller huh!?(お前らはまるでThrillerを作ったかのような態度だな)」というパンチライン!「若手アーティストをいっちょ締めておくか」といったスーパーベテランの貫禄!「Please dont talk about guns that you aint never gonna use.(使いもしない銃についてラップするのは止めてくれないか?)」いいパンチラインである。彼の伝説的ステータスがここでも出てしまう。

 

「Marcy Me」は「やばい、超いい曲」以外の感想が思い浮かばなかった曲である。「Hold a Uzi verticle let that thing smoke, yall playing with death, I’m winking through the scope  ウージー(銃)をバーチカル(縦)に持って、そこから煙を出す。お前らは死と遊んでるけど、俺はスコープの後ろでウィンクしている」これぞ”Bar”である。これぞラップ!と思わせてくれるヴァースである。なんてかっこいい言い回しだろう。いつまでもNo.1であるJay-Z、誰でも撃ち落とせる。

 

「Legacy」は「パパ、遺書ってなに?」という娘の言葉ではじまる。自分の財産/ロックネイションは子供たちに残す、世代を超えて「富」を残す、次世代に伝説を残す、という曲だ。「Hovaオジさんになったなぁ」と感じる曲である。まるで彼が残した伝説とともに、私たちの耳に凱旋しているようだ。漫画でキャラが亡くなったときの定番演出として存在する、「雲がキャラの顔になり、見守りながら去っていく」というのは伝わるだろうか?この曲はまさにそれである。「カーターマネーは家族に…」というフレーズが耳に入る。「いやだ!死なないで!」という気持ちと「家族を大切にする彼の気持ち」が入り混じる。

 

このアルバムは素晴らしいものだ。何度も聞きたくなるアルバムであり、恐らく聞く度に新しく感じることがあるだろう。一通り聞いて感じたのは「Jay-Z vs. Sean Carter」であり、恐らく彼のなかでSean Carterが勝ったのだ。家族を大切にし、そのレガシーをカーター家の後世に残す。「人間」としてのJay-Z、否!Sean Carterを感じることができた。彼の人間味のあるフィーリング、今までのアルバムでは感じることができなかった感情… 帝国を築いた47歳の彼からでる「重み」が、自分の人生を考えるきっかけを与えてくれる。

さらに素晴らしいと感じたのが、全トラックをプロデュースしているNo I.D.である。とにかく、こんなに暖かく、ストーリー性のあるトラックをプロデュースした彼にスタンディングオベーションである。ヒップホップの血に流れている「ソウル」を私たちに思い出させ、耳からその長年受け継がれてきた「魂」を流し込まれている感覚である。

とにかく、もう一度聞きたい!もっとちゃんと聞きたい!Tidalさん日本でもお願いします!と叫びたくなる作品であった。今週はPublic Enemyの素晴らしい新アルバムとMC Eihtの新アルバムもあったが、まさかここまで心にグッとくる作品になるとは思わなかった。

もう一回聞きたい…!

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