ミックステープとアルバムの違い?Nipsey Hussleが今までアルバムではなくミックステープをリリースし続けた理由を語る。

 

 

自分の音楽

をどのようにしてリリースするか?インターネットの時代には多くの候補があるだろう。YouTubeのようなサイトで動画を公開しても良し、SoundCloudのようなサイトで無料でストリーミング公開しても良し、BandCampのようなサイトで投げ銭をしても良し、Tunecoreのようなサービスで全世界に配信/販売するのも良し、ざっと考えるだけでこのような選択肢が出てくる。そんななか、実は自分の作品を「なんと呼ぶか?」というのも近年は考えるべきなのかもしれない。以前は50 Centが「ミックステープ」という手法でいかにバズを作ったか?ということを紹介した。

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上記の記事を書いた後、自分の周りの人たち複数人に「ミックステープって何?」と聞かれたが、そもそも現代において「ミックステープ」というものの定義は非常に曖昧である。エッセイストでありLibrary of Americaの編集長であるGeoffrey O’Brienが2004年に、「ミックステープはアメリカの家庭で最も頻繁に行われている”アート”の一種だ」と言ったように、元々は「既存の楽曲などを録音して繋げた独自のテープ」という意味であった。現代であれば「プレイリスト」に非常に近い意味合いを持っている言葉であり、カセットやMDの時代に音楽を嗜んでいた方であれば一度は独自の「ミックステープ」を作って交換をしたりした経験があるだろう。このように「Mix Tape」という言葉自体はヒップホップと関係ない場所でも使われていた。

しかしヒップホップでは、一単語としての「Mixtape」が独自の進化を遂げている。元々「70年代に現場で行われていたヒップホップを”音源”という形で残すために録音したことから始まっている」と2005年に出版された「A Rough Guide to Hip-Hop」に記載されているが、時代と共にその意味も変わってきた。もちろんDJたちがキュレーションした楽曲を「Mixしたテープ」という意味から始まっているのだが、一時は上記の50 Centの事例のように「既存の楽曲の上にラップしたり、フリースタイルをしたプロモーション用の音源集」に近い意味合いであった。しかし、Chance the Rapper等のインターネット時代の事例によって、また公における「ミックステープ」の意味合いが少し広くなったようにも思える。米Noiseyが「アルバムとミックステープの違い」という記事をアップしているのだが、こちらでは広義の意味で「目的に違いがある」と結論付けられている。

明確な境界線が引けていないまま色々調べていたら、そんな「目的の違い」が伝わるであろう事例を見つけたので今回はそれを紹介したい。現行で非常にわかりやすい事例を体現してくれているのが、デビュー・アルバム「Victory Lap」をリリースしたLAのラッパーNipsey Hussle(ニプシー・ハッスル)だ。

彼については、そのビジネス・ムーブが素晴らしいため、Playatunerで頻繁に紹介しているが、彼のアルバム「Victory Lap」は多くのナレッジをドロップしてくれているので必聴である。そんな彼がまたまたインタビューにて私たちに「知識」を提供してくれているので紹介したい。彼は2010年にXXLのフレッシュマンに選ばれており、独自で何枚もミックステープ/シングルをリリースしているが、32歳のこのタイミングでメジャーと「パートナーシップ」を組み、デビュー・アルバムをリリースした。

この度HipHopDXのSoulful Sundaysにて「何故このタイミングでデビュー・アルバムなのか?」ということを語った。

 

俺がミックステープ「Crenshaw」をリリースした時、Todd Moscowitzが俺にこう言ったんだ。「Nipsey、お前は努力しているしまじで最高だけど、一つだけ間違いを犯した。それはこのプロジェクトをミックステープではなく、アルバムとして売らなかったことだ」ってね。

でも俺はそれに対して「いや、俺は売上枚数の履歴を残したくなかったからミックステープと呼んでるんだ」と答えた。

50 Centが何年も前にこう教えてくれた。「誰になんと言われようが、お前は良い状況にいる。何故かというと”アルバム”を一度も売ったことがないからだ。将来的にレーベルと交渉するとき、彼らはアルバムの売上枚数を見て数字を出してくる。そして他のLAのラッパーの売上枚数と比べて交渉してくるだろう。でも今だにアルバムを売ったことがなく、独自でミックステープを公開し、独自でファンを獲得した場合はその実績を元に交渉できるようになる」

だから今まで俺は「アルバム」を出さなかったんだ。

 

そう、Nipseyは正直いつでも「アルバム」をリリースできるレベルの知名度を持っていたが、彼は最善のタイミングになるまで準備していたのだ。レーベルは契約をするときに基本的に過去のアルバムの売上枚数を見て交渉をしてくる。そう、未来への期待ではなく「過去作」の数字である。アーティストは徐々にファンを獲得していくので、もちろんインディペンデントで活動をしていた頃や、駆け出しの頃のアルバムが「ほぼ売れなかった」という事例は当たり前のようにある。しかし世の中には、その駆け出しの頃のアルバム売上を引き合いに「数年前のアルバムは◯◯枚しか売れなかった」という理由でアーティストに不利な契約をしようとするレーベルも実際には存在する。

そのため、Nipseyはいざ契約をすることになったときのためにそのような「オフィシャルな数字」を残したくなかったのだ。アーティストの初期の作品が売れないのは当たり前の話だが、それがデメリットとならないように「ミックステープ」という呼び方/手法を使用し続けている。「無料配信/手売り限定」でリリースしている限り、残される数字と言ったら蓄積された再生回数や、現にライブにて何人集客できるか?といった要素である。もちろんNipseyはミックステープ「Crenshaw」を売っていたが、彼は1枚$100で、1000枚限定で販売することによって既存の「音楽を売る」の枠組みを飛び越えたのだ。

 

目的の違い

上記のNipsey Hussleの例を見ていると、現代におけるアルバムとミックステープの非常に「曖昧」な違いが少しわかるであろう。多くの場合は、アルバムは「正式に売るもの」としてとらわれることが多い。逆にミックステープは、自分のラップ等をショーケースする「プロモーション用」の音源の集まりであることがわかり、多くの場合は無料でもDLできる。もちろんDrakeの「If You’re Reading this It’s Too Late」のようにCash Moneyとの契約が原因で売らないといけなかったミックステープも存在している。

正直この違いはかなり曖昧なものなので、どう考えてもオリジナルなアルバムであるものがプロモーション用にリリースされている場合もあるので、現代においてはアーティスト自身がなんて呼ぶかが大きいのだろう。Chance the Rapperの「Coloring Book」も実際にはApple Music期間限定でリリースする契約も結んでいるので、「アルバム」と言っても過言ではないが、Chanceが「これはミックステープだ」と言ったらミックステープなのだ。誰もが正式にリリースできてしまう現代では、音楽そのものでお金を稼ぐためにリリースされたものなのか、他のビジネスモデルに誘導するためのプロモーショナルな作品なのか?というところが大きそうだ。そういう意味ではオリジナル作品でも、ビートジャックでも捉え方によっては両方ミックステープになり得る。Noiseyの「目的の違い」という結論もそういうことであろう。(正式に流通されたもの、という条件も加わってくるかもしれない)

上記のNipseyの事例も踏まえて、ラッパーたちは自分の作品をなんて呼ぶなのかを考えるべきなのかもしれない。実際にはテクノロジーが発達した現代では、オリジナル作品である限り本質的にはあまり変わりのないようにも思えるが、気軽にリリースできるという意味ではミックステープを連発するのは良い戦略かもしれない。

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ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington):カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼Playatunerの代表。umber session tribeのMCとしても活動をしている。

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