10年前、Commonはラッパーを目指す同郷の少年に留守電を残した。その少年を偉大なアーティストへと成長させた「ポジティビティのサイクル」

 

 

インスピレーションのサイクル

とはこの世の中で活動するにおいて非常に重要なものである。人やシチュエーションによって何にインスピレーションを受けるかは違うと思うが、自分が憧れている人からのアドバイスはアップカミングなアーティストにとってインスピレーションになるだろう。Mobb DeepもQTipとの出会いによって人生が変わったと言っても過言ではない。

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そんな憧れているアーティストからのインスピレーショナルな話であるが、今回また興味深いエピソードを紹介したい。これは数日前に米国のメディア多数で話題になっていたのでご存知の方も多いかも知れないが、Commonがとある人物に10年前にボイスメッセージを残したのだ。USA Todayによると、彼はこのように語る。

 

Common:私は祖母に「友人の息子がラップをしているから、話してあげてほしい」と言われたんだ。だから電話してみたんだけど、彼は応答しなかった。だから留守電でメッセージを入れといたんだ。その時に何を伝えたかは覚えていないんだけど、「自分がやっていることを信じて、全力でやろう」みたいなことを言った。

そしてその10年後、私がそのとき電話したのが14歳のChance the Rapperだったということを知った。

 

そう、Commonがこれから人生にて多くの選択をしていくであろう少年にたいして伝えたメッセージは、その少年の心に住み着いたのだ。同じシカゴ出身のスーパースターからの伝言をもらったChance the Rapperは、その数年後からラッパーとしての頭角を表しはじめ、10年後には米国の音楽業界における革命児としてハウスホールド・アーティストとなった。

 

サイクルのお話

これは単に「良い話」としても見ることができるが、若い世代に「全力でやるインスピレーション」を与え続けることにより「良いサイクル」を作る重要性を表しているようにも思える。「大人」が10代の子供の夢にたいしてアドバイスをするとき、恐らくネガティブな意見を言う人も多いだろう。進路に悩んでいる若者であれば、「そんなに甘くないぞ?」や「それになれなかったらどうするの?」という発言は日常的に聞くことができる。

かくいう私も高校時代に、音楽業界で働いている人に「今はもう音楽売れないし、音楽で色々目指してもあんま良いことないよ(笑)」と言われたのを覚えている。しかし人の進路に対してそのようなネガティブな発言しかしない人は、恐らく自分の仕事に誇りを持てていなかったり、自分でそのネガティブな状況を変える気力がなかったり、単に「真面目に話すのがめんどくさい」と思っているのかもしれない。

もちろんそのような「厳しい現実」を見せつつ、「でもそれを乗り越えたいのであれば全力でやってみよう!」というポジティビティを出せるのが理想である。以前キーヨン・ハロルドという数々のヒップホップアーティストのトランペッターをやってきた方にインタビューをしたときに、彼が「種を植える」ということについて語っていたのが印象的であった。それを今回の件に当てはめてみると、「全力で色々な種を植えていれば、例え上手くいかなかったとしても別の道が開ける」ということにもなるだろう。そしてそれを体感的に理解できているのは、Commonのように自分が信じたことを全力でやった経験がある人だけなのかもしれない。

CommonがChanceの心に植えた「種」は開花し、Chanceを経由して再び世界中の子供たちに植えられる。これがポジティビティのサイクルと私は考えている。逆に「世間の風潮」という「ネガティブなサイクル」というのも存在するなか、若い世代にどちらを受け渡したいかは明確であろう。

サイクルについて下記がオススメである。

Flying LotusはStones Throwでインターンをしていた。全ては「サイクル」になっていると感じる話

ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington) カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Playatunerの代表。New Kaz Skellington!

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