腕の動きがイカしてるラッパーたち。ラッパーの腕の動きの意味とその唯一無二のスタイル
Writer: Kaz Skellington
ラッパーというイメージ
を一般世間に聞くと、どのような答えが返ってくるだろうか?フリースタイルバトルを思い浮かべる人もいれば、もしかしたら「Yo! Yo!チェケラッチョ!」とステレオタイプ丸出しの答えを出す人もいるかもしれない。そのなかで、確実に皆の心に刻まれている「ラッパー像」には共通点があるであろう。それは「ラッパーらしい腕の動き」である。
他のジャンルのシンガーでも、全身を使用して表現をする人は珍しくない。しかしラッパーほど腕を利用して表現する人たちはいないのではないだろうか?そんなことを考えているときに、非常に興味深いインタビューを見つけた。それはSway in the Morningに出演したMethod ManとThe RootsのBlack Thoughtのインタビューであった。ラッパーとして間違いなくトップレベルの2人であるが、Black ThoughtがMethod Manのステージプレゼンスを賞賛したときに気になったことがあった。
Method Man:俺はNew Editionのおかげで動き方を学んだんだ。俺の当時の彼女はNew Editionの全てのパフォーマンスを持っていたんだ。俺らはそれらをずっと見ていて、動き方を学んだんだ。一つ一つの動きに意味があるはずだと思って、研究していた。最近どこかで「素晴らしい手の動きするラッパー」というリストを見たんだけど、俺はそのリストに入ったぜ。
Sway:他には誰がリストに入っているんだ?
Method Man:俺的にはCraig Mackがそのランキングに入っているね。彼は素晴らしいジェスチャーをするからな。
その「素晴らしい手のを動きをするラッパー」リストを探してみたが、残念ながら見つからなかった。しかしMethod Manが伝えようとしていることは理解できる。ラッパーの映像プレゼンスやパフォーマンスの大きな要素というのが「ジェスチャー」であり、個々のラッパーのスタイルを定義づける一つの要素でもある。ラップのフローと連動しているのもあり、動きのシルエットでもなんとなくどのラッパーの映像かがわかるだろう。
特にMethod Manの190cmの体格から出てくる動きは非常に特徴的であり、オーバーサイズの服を最大限活かせているような動きを披露してくれている。大体どのMVでもMethod Manの動きはかっこいいのだが、下記の動きは非常に印象的である。Redmanとの連動も面白い。
彼は実際にNew Editionの動きを研究し、それを取り入れたと語っている。そのため、腕以外の動きも非常にスムーズである。Method Manのラップフローは細かくリズムを区切り、言葉を入れるスタイルなので、リズムのとり方が大きいRedmanに比べると腕の動きも細かいことがわかる。
私が個人的に「腕の動きが独特だな」と感じたラッパーがCommonである。以前ライブを見たときにも感じたのだが、彼が盛り上がったときに見せる腕のスウィングは他のラッパーにないスタイルであろう。彼は盛り上がったときに、右腕の位置を下げ、前後に大きく揺らすのだ。私がライブを見たときは、後ろに揺らした後に、右腕で斜め後ろ周辺に小さな円を描く動きも印象的であった。これもCommonの唯一無二のスタイルであろう。
2Pacやケンドリックは上記と逆のパターンのようにも思える。2Pacのライブ映像を見ると、体の動きは激しいが、腕のジェスチャーに関してはそこまで特徴があるわけではない。どちらかと言うと、全体の出で立ちでカリスマ性を出している。ケンドリックに関しては腕も動きも、「ラップとリリックにのめり込んでいる」世界観を作っているようにも思える。派手な動きだけで客を盛り上げるのではなく、頭付近で小さく腕を動かすムーブが、ラップとリリックに脳内を潜入させるような体験を提供していると感じる。
近年のラッパーで非常に印象的な動きをしているのがLOGICである。現在はここまでではないが、当時Walk on ByのMVを見たときに、「腕が忙しいな」と思ったのを覚えている。(「音をミュートすると魔法をかけているように見える」というYouTubeコメントで少し笑ったのを覚えている)
これもよくよく考えてみると、彼の言葉を多く詰めるフローを自然に体現した動きなのだろう。ラッパーのこのような腕の動きが目立つようになったきっかけはなんなのだろうか?これに関してはまだ自分のなかで仮説ができていないのだが、Melle MelやRun DMCがこのような動きをしていないところを見ると、恐らくヒップホップのテンポ感が遅くなり、フローのスタイルが多様化したことにより起こった現象なのかもしれない。
落ち着いた動き
上記では激しめの動きを紹介したが、落ち着いた動きでもかっこいラッパーはたくさんいる。Snoop DoggやFabolousはその例であろう。彼らはフロー的にも言葉を詰めまくるスタイルではないので、腕の動きもそれに合わせたスタイルとなっている。
Snoop Doggはレイド・バックなフローなため、大きく左右に揺れるような動きが多い。もちろん客を煽っているときは、腕を大きく動かすが、基本的にはかなり落ち着いてドンと構えるスタイルだ。
Fabolousは言葉を伸ばすフローをしているので、腕のジェスチャーも横に動かすものが多いように思える。彼はLOGICやMethod Manとは違い、ラップがリズム的に跳ねていないので激しい動きが似合わないラッパーとなっており、自分自身の動きのスタイルを見つけたラッパーである。
近年のムーヴ
近年の動きとして頻繁に見るのがMilly Rockというムーヴである。2 Millyというラッパーが発案した動きなのだが、どちらかと言うと、ラップのフローというよりはビートを基軸として行われる動きである。
そのように考えると、ラッパーの動きというものは元々フローと連動していたものであったが、徐々にラップのフローの差別化が行われなくなったとともに、普遍的な動きが様々なラッパーに使用されるようになったと言っても過言ではない。これは恐らく、「誰でも簡単にできる踊り」が、バイラルヒットするにおいて重要な役割を果たしていることにも深く関わっているのではないだろうか。Soulja BoyからWhip & Nae Nae、そしてMilly Rockまで、毎年のように流行りのムーブが生まれては去っていく。そしてラッパーたちはMilly Rockのような動きに影響され、ビートにあった同じようなムーブをし始めているのかも知れない。
これは以前The Internetがオートチューンについて語っていた記事にも書いたことなのだが、一人ひとりの個性ではなく、ある程度の用意されたテンプレートの上で話題になることが簡単に「有名」になる方法なのだろう。そのようにして得た「知名度」が何年保たれるのかはわからないが、なんとなく数年後には消えているイメージもある。実際に消えていくのか、動きのテンプレートとして次の世代のブループリントとして残るのか、これは時が証明してくれるだろう。Chance the Rapperなどはそのような動きのテンプレートを上手く自分流にアレンジし、独自のシグネチャームーブを編み出しているようにも思える。そのような独自のムーブは非常に印象的であり、長年人々の心に残るのだ。
腕を動かす意味
そもそも「腕をフローに合わせて動かす」ということがその動きのテンプレの一部だったのかもしれないが、この腕の動きには意味があるようにも思える。ラップというものは、リズムの隙間を縫って自分が意図している箇所に言葉を入れていくスポーツのようなものだ。リズム通りに言葉を入れるということだけではなく、少しレイド・バックさせたり、あえて「前のめり」に言葉を入れたりすることによって、聞き手が受ける印象を変えることもできる。オーケストラの演奏のように、同じ曲を演奏したとしても、オーケストラや指揮者によって曲の聞こえ方が違ってくるということにも、ある意味似ている。そのように考えると、オーケストラにおける「演奏者が自分の声」であり、「腕が指揮者」の役割を果たしているとも言える。腕を動かすのには「かっこいい」以外にも、自分のラップをさらに精密にコントロールする「指揮者」としての意味があるのだろう。自分のフローにあったイケてる腕の動きを研究してみたら面白いかもしれない。
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