音楽と動画コンテンツにおける「場所」の重要性。音楽映像コンテンツに学ぶ「プラットフォームの役割」

 

 

動画コンテンツ

は常に進化し続けている。以前は映像コンテンツというとテレビや映画という「ゲートキーパー」的な役割に限られており、そこから発信されるものがマスに影響を与えていた。しかし技術が進歩し、そんな映像コンテンツも今では誰もが作れ、世の中に発信できるようになった。「誰でもできる」ように一般化されるような「イノベーション」の先には何があるのだろうか?それは多くのコンテンツクリエイターたちの台頭である。しかしそれは数多くのコンペティターのなかで、多くの人の心を掴めるような「独自性」を全面的に出さないと、埋もれてしまうということでもある。

以前少し「地下室」のシグニフィカンスについてPlayatunerにて書いたが、今回はその話題と共通するような記事を書きたい。

カムアップするラッパーにとっての「地下室スタジオ」の役割。音楽にコミットできる環境づくり

 

「独自性」というと、非常にハードルが高いようにも思えてしまう。しかし案外「これ面白いコンセプトだな」と感じる動画コンテンツの要素を書き出してみると、そこまで変なことをやっているわけではないことがわかる。奇をてらうわけでもなく、自然に「面白いな」と感じることができる要素の一つが「場所」であると感じる。この「場所」という要素を付け足すだけで、演奏系の動画コンテンツの希少価値は大幅にアップするのだ。

NPRのTiny Deskやを見ている方であれば、その「場所」の重要さに気がつくかもしれない。もしこれが普通にスタジオで演奏しているものであったら、スタジオ・ライブ動画として他のものとの差別化ができなくなる。しかしこの「オフィス」という環境で演奏することにより、音楽的にもいつもとは違うテイストの演奏をすることになる。また、今まで見たことがない環境であるため、視聴者はサウンドだけではなく、「場所」として記憶に残すことができる。シリーズの名前を忘れたとしても「あー、あの本棚みたいな場所で演奏してる動画だ」と一瞬で記憶に残るのだ。

 

Rap City

そんな場所のシグニフィカンスを最大限に発揮している映像シリーズは、ヒップホップ界ではYouTube以前に既に存在していた。元々ラップやDJ系の映像は、クオリティに拘らなければバンドほどの施設が必要ない場合が多いため、恐らく制作しやすかったのだろう。そんななか、場所の重要性と面白さを発揮したのが「Rap City」というテレビ番組の「Tha Basement」というシリーズである。「Rap City」はBETにて1989年から長い間放送されていたが、恐らく2000年弱から「Tha Basement」という映像/音楽専用の場所を用意したのだろう。

こちらは撮影スタジオの隣にある地下室トイレを改装し、ドープな空間にし、そこでゲストラッパーたちにフリースタイルさせるシリーズであった。一見ドープな空間に見えるが、実はよく見てみると便器が後ろにあるのが面白い。この狭い空間のなかで、ホストのBig Tiggerとゲストがヴァースをスピットしていくのだ。

毎日Rap Cityを見るために放課後に急いで帰宅していたのを思い出す。もし普通にスタジオやラジオ収録所でフリースタイルをしていたら、ここまで全シリーズチェックしたくなるものにはならなかったと感じる。どことなく香ってくるストリート感、そして素人感が「シリーズ」としての統一感を与えていたのだろう。

 

家のメリット

「場所」を最大限に活かした動画において、最も重要なのはそれを「シリーズ化」することにあるように感じる。実際に面白い場所は個人だと作るのは難しいかもしれないが、単純に「家」という環境であったとしても「シリーズ化」することにより、価値を倍増できるのではないだろうか。個人的にはKNOWERというLAをベースに活動しているバンドの「廊下でセッション」シリーズ(まだ2回しかないが)が今後最高のシリーズとなるのではないだろうかと感じている。

 

こちらは彼らが昨日アップした動画なのだが、こちらの第一弾であった「Overtime」はFacebookでシェアされまくり、FB上の動画にて一週間で200万回再生されている。こちらの動画も、「場所がない」というデメリットを完全にプラスに変えた内容である。動画内に散らばっているN64のゲーム並にあるイースターエッグを探すのも非常に面白く、何度も再生してしまう。KNOWERについてはThundercatに楽曲提供したりレッド・ホット・チリ・ペッパーズの世界ツアーのOAをやったり、近年かなり活躍しているので絶対にチェックすべきである。Playatunerでは以前インタビューをしているので、そちらも要チェックである

さらに近年ファンク好きの間で話題となっているVulfpeckも同じく「場所がない」というデメリットをプラスに変えている。「いや、家じゃん」というツッコみは出てくるが、そのツッコみを持たせることが最も重要なのだろう。また、違うの国や文化の家はなんとなく見ていて面白いというのもある。

 

そう考えると、その「ツッコミの多さ」がもしかしたら「癖になる」要素なのかもしれない。KNOWERのビデオでも、「なんでやねん」と言いたくなる箇所が多く、「Tha Basement」も「え、これトイレじゃん」と言いたくなるのが重要なのかもしれない。人間は一度ツッコむと、「他にツッコむような面白い箇所はないかな」と動画内のボケを探し出す。その結果が「何度も見たくなる」ものになっているのかもしれない。

このような場所のシグニフィカンスは、屋内に限ったことではない。実際に東京の路上ライブが去年ぐらいまで頻出していたのにも、そのような意図があるのかもしれない。最近は「バンド」こそあまり見なくなったが、少し前までは特に渋谷は「路上バンド」の激戦区であった。そんななか、屋外を上手く使用しているケースが「屋上」である。

こちらはBig Boiが出演していたBillboardの「ループトップセッション」である。バンドの場合、騒音問題になってしまうが、ラップの場合はヘッドフォンなどを駆使すればできなくはないだろう。このラフさ、DJがライムを忘れて「フー!忘れた!」というのもラフな雰囲気が出ていてよろしい。

 

プラットフォームの役割

このようにして考えてみると、動画コンテンツの「プラットフォームごとの役割」が存在することに気がつく。何かを世の中に広めるとき、「グロースハック」という概念が重要になる。こちらはWEB業界であったり、WEBマーケターにはおなじみの言葉であると思うが、「数値を分析し、ユーザー数の増加やユーザーの質を向上させる仕組みをプロダクト内に組み込むこと」という意味である。そして「AARRR:Acquisition(ユーザー獲得)、Activation(利用開始)、Retention(継続)、Referral(紹介)、Revenue(収益)」からなるフレームワークが頻繁に使用される。この「プロダクト」という部分を「音楽コンテンツ」に置き換えたとき、AARRRと「場所」の関連性がさらに鮮明に見えてくるのだ。

この5つの要素を準に追うと、最終的には「ファン」になるとして、最初の「ユーザー獲得」はどちらかと言うと「認知」に近いかもしれない。ネット上に多くの音楽が散乱している現代では「認知」されるのが非常に難しい。この「認知」がどこでされるかと言ったら、現代では基本的にツイッターやFacebookのようなSNSが多いだろう。そして「利用開始→継続」は、その音楽/映像がどれぐらいの時間見られたか、に置き換えることができる。SNS時代には一瞬で物事を判断されてしまうが、一瞬で閉じられてしまっては意味がないのだ。非常に簡単に述べると、これは「気になるから見てしまった」と思わせる重要性である。

そんななか、先程の「ツッコみ」という観点を考えると、「場所」という要素は最初に人間が認識する要素である。もちろん「音楽をちゃんと聞いて欲しい」という想いはアーティストであれば誰もが持っているだろう。しかしSNS時代の大半の人たちは、音楽を判断する辛抱がないようにも思える。案外「作品」というものは「好き!」と思えるまで時間がかかるものだ。バズるものは、ほとんど一瞬で「面白い」と感じることができるものだ。そのなかで「場所」という要素を全面的に押し出すことにより「認知→気になる」のハードルを一気下げることができる。そこでAARRRモデルの最初の3つが完了する。ツッコミどころがあると、人はそれを探すようになるので、「気になる」を突破するハードルが下がる。

そもそもSNSで拡散されているので、「紹介」の部分は「気になる/面白い」を突破できれば比較的に楽かもしれない。しかし音楽などのコンテンツの場合、「継続」の部分にはまた別の役割がある。それは「またあの動画/音楽を見たい!」と思ったときに、検索して見ることができる環境の重要性を表している。「認知」の場所となっていたSNSと、「継続」としてまた戻ってくるプラットフォームが別のサイトになるのだ。SNSで「認知」したものは、時間が経つと埋もれていく。そんなコンテンツを再度探すときに行くのは、現代ではあったらYouTubeであろう。

「継続」をするためにYouTubeに飛ぶとき、ここで再度「場所」の重要性が見えてくる。一度SNSで見たものは、実際にはバンドの名前などは覚えていないかもしれない(ファボ欄を遡れば見つかるかもしれないが)。しかし人間は「どのような映像だったか」は覚えているのだ。SNSで「面白い場所でやってんな」と認知させた後、その詳細を覚えていなくても「場所」という要素で検索をすることができるのだ。実際にYouTubeで「図書館みたいな場所でやってたライブもう一回見たい!」と思って「Library Live」と検索すると、最初にAnderson .PaakのTiny Deskがヒットする。「Basement Rap」で検索してもRap Cityがヒットする。「Hallway Live(廊下ライブ)」でもKNOWERがヒットする。SNSが街頭広告だとすると、YouTubeが貯蔵庫的な役割を担っている。しかし気をつけないといけないのは「MV」だと、どこで撮っていてもあまり違和感がないため場所のシグニフィカンスが出にくい。そのため、ライブ動画/セッション/フリースタイルなどが理想であろう。

実際にこのような事象については、明確なデータが取れているわけではないので私の「仮説」でしかないが、場所には「なんとなく面白い」以外の重要性があるのは確かである。しばらく前にこの仮説に気が付き、自分が「場所」の有利性を活かしたコンテンツを作るために、心に留めておこうと思った。しかし発信したほうが世の中のアンダーグラウンドアーティストのためになると思ったので、自分の考えを紹介をした次第だ。Playatunerでも近々この「場所」を活かしたコンテンツを作っていく予定だ。

【代表Blog】なぜPlayatuner Tシャツを作ったのか?今までのPlayatunerと今後の方針に込められた想い

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