Black Eyed Peasが「ヒップホップ」に帰ってきた。新曲「Street Livin’」は社会が抱える数々の問題を訴える

 

 

ポップスターになったヒップホップグループ

と言うと誰を思い浮かべるだろうか?深く考えてみたら、複数のグループが思い浮かびそうではあるが、そのなかでも真っ先にBlack Eyed Peasが思い浮かぶ。彼らのスタイルは元々、ジャズから影響されたヒップホップ音楽であり、楽曲にメッセージが込められているものが多かったが、徐々に「ポピュラー音楽」へと音楽性も変わっていった。以前「Black Eyed Peasを考察」という記事を書き、いかに彼らのスタイルが変わり、「Yesterday」でヒップホップに戻ってきたかを書いた。

【長編考察記事】The Black Eyed Peas初期はガチなヒップホップだった

 

現在はファーギーがソロアルバムに集中するため休止中とのことであるが、will.i.am、apl.de.ap、Tabooの3人は2015年の「Yesterday」から3年ぶりとなるシングル「Street Livin’」をリリースした。こちらの曲はKeith Harrisプロデュースであり、2000年代中盤以降のBEPとは違い、初期に戻ったかのようなトラックとなっている。内容としては、社会が抱える刑務所ビジネス、フッドでの教育問題、移民、システマティックなトラップなどが語られており、Will.i.amが2017年に公開したコミック「Masters of the Sun: The Zombie Chroniclez」がモチーフとなっている。

この曲はまさに「ヒップホップ」である。身の回りで起こっている問題を、ポエティックな表現で伝えているのだ。サウンドだけではなく、シンプルなライムスキームから伝わってくるリリックの重みを感じることができる。印象に残ったリリックを少し紹介したい。

 

➖ Street livin’, caught in the trap
Guns or books, sell crack or rap
Be like kings or be like pawns
They called us coons, now they call us cons
ストリートでの生活、罠にはまった
必要なのは「銃」か「本」か?クラックを売るかラップをするか?
王様のようにいるか、「歩兵」のように他人に利用されるか?
「Coon(蔑称)」と呼ばれていたが、今では「Con(受刑者)」と呼ばれる

➖ The teachers in my neighborhood can hardly spell
And compare to them, prison guards get paid well
俺のフッドの先生たちは文字の綴りがほぼわかっていない
それに比べて刑務官は非常に給料が良い

➖ N*ggas killing n+ggas like they Ku Klux Klan
I understand what’s a n*gga to choose?
Be the killer or be the dead dude in the news
I get it, what’s a n*gga to do?
No education in the hood got a n*gga confused
黒人たちはまるでKKKのようにお互いを殺し合っている
そんななかでどのような道を歩めばいいんだ?と思うのはわかる
殺す側になるか、ニュースで報道される死体になるか
このように教育が行き渡っていないフッドでは皆が混乱している

➖ Born and bred but you’re still an immigrant
And if you ain’t dead, you can see imprisonment
ここで生まれて成長してもまだ「移民」扱い
もし死ななければ刑務所いきが見えてくる

➖ There’s more niggas that’s rotting in the prisons than there ever was slaves cotton picking
So, how we gon’ get up out the trap?
Guns or books, sell crack or rap
昔の綿を拾っていた奴隷の数より、今の刑務所で腐っていく黒人たちの数のほうが多い
どうやってこのトラップから抜け出すか?
「銃」か「本」か?クラックを売るか?ラップをするか?

➖ Street livin’, ain’t no rules
Break the law, make the breakin’ news
The life you choose could be the life you lose
Niggas getting stuck for the Nike shoes
ストリートリビング、そこにルールはない
法律を破り、ブレイキングニュースに載る
「選んだ」人生が、失う人生になる可能性もある
ナイキの靴が欲しいがために、ループにハマってしまう。

➖ Street livin’, no economics
No way out of the Reaganomics
Infected by the black plague, new bubonic
No comprende, we speak ebonics
ストリートリビング、経済なんて存在しない
レーガノミックスから抜け出す方法はない
「黒死病」に侵され、これが新しい肺ペストだ。
でも「俺らはエボニックしか喋らないから理解できない」となる

 

このように人種差別とポリティクスだけではなく、フッドにかけられたシステマティックな「罠」について語っている。私有の刑務所を「奴隷所有者」と例えており、問題の本質である「教育」に投資するのではなく、刑務所システムが儲かっている状況をメッセージとして伝えている。そして教育が行き渡っていないことにより、生きる選択肢が非常に少なくなるのだ。フッドの問題を改善していく教育をしていく先生たちも育たなければ、そこに投資していないから誰もなりたがらないということも示している。この作られたシステマティックな「罠」から抜け出すために、手にとるべきは「銃か?」「本か?」という質問が非常に心に残る。

社会全体として、「フッドが掛かっているシステマティックな罠」という問題を伝えつつ、個人個人に「抜け出すために、あなたはどうする?」と訴えかけるこの曲はケンドリックがメタルヘッズに伝えたように、ヒップホップ音楽の重要な役割を担っている。Lil WayneSnoop Doggが子供たちに「銃」以外の選択肢を与えたように、BEPが「ヒップホップ」に帰ってきたと言える楽曲だ。彼らのようなメインストリームで大きく成功した者たちが、このような楽曲をリリースすることには非常に大きな意味がある。

Lil Wayneが地元ニューオーリンズの子供たちのためにやっていることが素晴らしい

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