シングル?アルバム?どんな活動ペースが効果的か?巨大なファンベースを持つインディペンデント・ラッパーHopsinがした検証

 

 

インディペンデントに活動し

自分の表現にコミットするラッパーたちを応援するためにPlayatunerではインディペンデントな「グラインド」の事例を頻繁に紹介してきた。もちろん大きいレーベルに所属し、様々な人のサポートを受けることは素晴らしいが、そのポジションに行き着くまでに、ある程度自分で実績を作っておくことは重要である。そんななか、非常に参考になるインディペンデント・ラッパーのうちの一人がHopsinである。

インディペンデントに活動する心意気とは?巨大なファンベースを築いたHopsinから学ぶ「段階を踏む」ことの重要性

以前もHopsinのインディペンデント・グラインドから学べることを書いたが、今回は彼の音楽活動におけるペースと、彼が実際に活動していて近年気がついたことを紹介したい。インターネットの発達により活動はしやすくなったが、それは活動が楽になったわけではない。誰でもできるプラットフォームになったからこそ、さらに露出する人の数は増え、どのようにしてリスナーの耳に入るかを考える必要が出てきた。

今回の議題として考えたいのが「アルバム」と「シングル」どっちがいいの?ということだ。もちろんアーティストであれば大作を作り上げたいという気持ちを持っている人が多く、アルバムを作ることに拘っている人も多いだろう。または、YouTube、サウンドクラウドなどのプラットフォームで頻繁にコンテンツを出すことの重要性に気が付き、シングルを連発する人も多いだろう。そんななか、Hopsinが実体験を披露してくれている。

 

 

➖ あなたは毎回プロジェクトベースで動いているよね?ビデオも毎回きちんと考えられていて、ハイエンドだし。シングルを速いペースで出しまくるんじゃなくて、アルバムとして考えられているものを出している。でも今のラップゲームはどちらかと言うと、ビートの上にラップを乗っけて、すぐにリリースする人が多い。そういう速いペースでシングルをリリースしまくるコンシステンシーが、マーケティングプランとして一番有効だと思われている。

Hopsin:そうだね。俺はそういう人じゃないんだよね。まぁもしそれができたら良いんだけど、自分の満足いくクオリティを保つためには、俺は時間をかけないといけないんだ。俺は一回立ち去って、ファンたちが俺のことを欲しがる時間が与えないといけないんだ。そしてその時間で一旦「もっと良くするためには何が必要か?」って考えるんだ。

でも今の時代の「スピード感」は本当にクレイジーだ。5年前でも速いと感じていたのに、今はもっとペースが速い。アルバムをリリースして2ヶ月経った今、俺はまだ新しいという感覚があるんだけど、インターネットを見ていると既にアルバムが古いと感じる人も多いんだ。だから段々アルバムというものを作りたくなくなってくる。速すぎて嫌になるよ。

 

Hopsinは2017年の11月末にアルバム「No Shame」をリリースしたが、インターネット上と見ていると「早く新しい作品を世に出さないと…」と感じるらしい。しかし彼は今の流行りのラッパーのように、毎週楽曲をリリースすることはできない。そんななか、彼はこのように続ける。

 

➖ この時代には一つの気合いが入った映像のほうが、アルバムをリリースするより効果的だと思う?多くの人はMVなどの映像を突破して、アルバムまでたどり着かないと思うんだけど。

Hopsin:まぁ俺の場合は、アルバムは映像ほど話題になったり上手くいかないね。恐らく多くのインディペンデントのアーティストにとってはそうなんじゃないかな?例えば俺は超ホットな曲とMVを明日リリースして、一ヶ月の間「俺が一番ホットだ」という状態は作れる。でもアルバムをリリースすると、結局シングル以外の曲はあまり聞かれない。でもそうなるのも理解できる。大ファンとかじゃなくて、曲が与えられる状態とかだと、別に「次の良い曲をこの大量の曲のなかから探そう」という気持ちにはならないんだ。

➖ まぁスナップチャットとかソーシャルメディアでも短いコンテンツを消費する意識が定着しているし、むしろ今では4分のビデオとかは「長い」部類に入るしね。そこに比べれば1時間のアルバムは超ハードコアなコンシューマーのためのものになってしまうよね。

 

音楽などのコンテンツの消費のされ方が変わってきたのもあり、アルバムの立ち位置がさらにコアな「グッズ化」していると2人は語った。MVやシングルをリリースした後は、かなり話題になり、「ホット」な存在になれるが、アルバムだとそこまで話題にならない。本人曰く、ケンドリック、J. Cole、LOGICなどのレベルのトップアーティストであればアルバムがプッシュされ、大きな話題になるが、インディペンデントで活動している人ほど「アルバム」への期待値が低いと語る。もちろんRun the Jewelsのようにアルバムが大きなプロジェクトとして話題になるアーティストもいるので、多くの例外も多いのだろう。しかしファンベースの年齢層などによっては、アルバムよりシングルのほうが有効だということがわかる。

しかしHopsinはその環境を言い訳にし、諦める男ではない。彼はとある検証をしてみたのだ。

 

Hopsin:だから俺はとあるトリックをしてみたんだ。俺はアルバムをリリースして、収録された多くの曲が聞かれていないことに気がついた。全ての曲をYouTubeにアップしていて、全部同じアルバムジャケットを使用していた。俺のチャンネルから見ることができるんだけど、恐らく多くの人は「あぁアルバムに含まれる曲だから」って感じで聞かなかったんだろう。俺はそれに憤りを感じて、全く違うアートワークを使って既にリリースされていた曲を再度動画をアップしたんだ。それでインスタにて「新しい動画アップしたからチェックしてくれ」って投稿したら、皆新曲だと思ってチェックしてくれたんだ。既にリリースされたアルバムに収録された曲だったのに、皆がいかに「シングル」としてリリースされた曲しか聞いていないかということを思い知った。

 

この彼の「検証」は非常に面白いと感じた。彼の「ファン」である人たちでも、アルバムに収録されている曲を聞くという習慣がないと語った。そんななか、シングルリリースではない曲を、いかにもシングルとしてリリースされた風にアップしなおして再度告知したら、再生回数が伸びたと言う。これは近年の「シングル」という定義が曖昧になっていることのアドバンテージを逆にとった施策であろう。彼はアルバムカットの曲があまり聞かれないという悩みについて、現代の消費ペースの速い音楽リスナーに合わせた手法で改善策を見つけた。それでも彼は「もうアルバム作りたくなくなちゃった」と語っているが、確実にアルバムとしての大作を作りつつも、現代のリスナーのペースについていく方法はあるはずだ。彼の「時間差+アルバムカットをシングルっぽいリリースの仕方で公開する」という手法はそれに対しての第一歩なのかもしれない。

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