エミネムへ向けられた最もハードなディス?エミネムとEvidenceのビーフとその後のキャリアから見る「成功」の違い

 

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先日エミネムがサプライズでリリースしたアルバム「KAMIKAZE」では、多くのラッパーの名前がメンションされていた。今活躍している若手から、Joe Buddenのようにエミネムの作品にネガティブな意見を言った人物まで名指しでディスられており、ネガティブな感情をエネルギー源として書かれているような作品であった。

そのなかでは、以前エミネムによってラジオ番組を出入り禁止にされたMachine Gun Kellyも含まれていた。その件については上記のリンクを参照していただきたいが、エミネムは「KAMIKAZE」にてそんなMGKを名指しでディスしたのだ。そしてMGKは、エミネムへのリスペクトさえも感じることができるディストラックを公開した。

 

既に他媒体にて、この楽曲の強力パンチラインを解説した記事を書いたので、今回は解説しないが、エミネムの楽曲を多くレファレンスしつつ、エミネムの膨張するエゴと、彼の若手に対する陰湿な感情を批判した。MGKがエミネムに向けたハードなディストラックを公開した今、多くの人が忘れているであろう「最もハードなエミネムディス曲」を紹介しつつ、「ロンジェヴィティ」について考えたい。

エミネムがレジェンドというステータスを獲得して以降、MGKはエミネムとビーフ状態になった数少ないラッパーのうちの一人となったが、昔は多くのラッパーがエミネムとビーフをしていた。Canibus、Ja Rule、Everlast、Benzinoなど、エミネムとビーフ状態にあったアーティストは、エミネムの人気とハードなディストラックの前には勝てず、表舞台から消えていった。

 

Evidence

2000年代前半にそんなエミネムとビーフ状態でありながらも、彼がレスポンスしなかったラッパーがDilated PeoplesのEvidenceである。EvidenceはPlayatunerでも取り上げている、個人的にも大好きなMCであるが、エミネムとビーフしていたという事実はあまり広くは知られていない。エミネムのファンでもあり、Evidenceのファンでもある私としては、このビーフとその後の二人のキャリアは非常に興味深い。

当時エミネムは、自分からEvidenceの名前をラップでメンションしながらも、Evidenceの反撃にはレスポンスしなかった。その事実もあり、2001年にリリースされたEvidenceの「Searching for Bobby Fischer」は知る人ぞ知るハードなディストラックとなったのだ。映画「Searching for Bobby Fischer」から名付けられたこの楽曲と、Evidenceとエミネムの「成功」について考えたいと思う。

ことの発端

このビーフは、「エミネム V.S. Everlast」のビーフから発展したものであった。当時EverlastがDilated Peoplesの「Ear Drum Pop」のリミックスにて、エミネムをサブリミナル的にディスをしたことから始まったのだ。そこからエミネムはEverlastに向けた「I Remember」を公開し、Everlastは「Whitey’s Revenge」にて反撃する。エミネムからEverlastに向けた最後の曲となった「Quitter」にて、リミックスの元曲となるDilated PeoplesとEvidenceをディスったのである。

エミネムは「Quitter」内で、「Dilated、お前らの3枚のCDはリリースされたとき誰も見向きもしなかっただろ。Evidence、本物のMCとやり合おうと思うなよ。お前らクソギークはアンダーグラウンドのビーフをする準備はできてないだろ。」とラップし、これがEvidenceが反撃するきっかけとなったのだ。

 

Evidenceは、リミックスに参加していたEverlastが、サブリミナル的にエミネムをディスっただけなのに、自分の名前までメンションされたことに納得がいかなかったのであろう。自分の名前を出されたからには、反撃しないといけないと楽曲で語る彼は、恐らくエミネムに対するディスのなかでも、最もハードなリリックを投下したのだ。そんな「Searching For Bobby Fischer」の彼のパンチラインをいくつか紹介をしたい。

 

俺の優しさを弱さと勘違いした金髪野郎が、ハードなラップではなく、弱いディスを投げてきた。12人(D12のこと)の友人とやってきたけど、全員同じようで思わず言葉が出なかった。それは女をゲットできていないからか?それともお前らにはユニークさがないからか?

父親にトレイラーのゴミ溜めみたいな街に捨てられたやつだ。それを止めなかったから母親を恨んでるんだろ?20年後の今でもお前の運は尽きている。お前がツアーに連れていった女と話したけど、お前は勃たなかったって言ってたぞ。お前らインターネットのギークどもはエミネムと同じようにベッドのなかでは弱いみたいだな。

 

エミネムは「Quitter」の後半でD12をフィーチャリングしていたが、全員が同じようなラップをしており、ユニークさがないことをEvidenceは批判し、エミネムと関係性を持った女性が暴露したことをハードなパンチラインで披露している。さらにエミネムが「プロデュース」をしはじめたことについて、痛い点をついている。

 

今はプロダクションもやって、ビートを作ってるらしいな。でも自分でドラムをプログラムしない、キーボードも自分でプログラムしない、ベースも自分でプログラムしない。とんだ嘘つきだぜ!それはラッパーとしてゴーストライターを雇ってるのと同じだ。

ナイフをもっと深く刺してやる。お前の☓☓☓を虐殺して、妻もそこに投げ捨てる。今俺がお前を殺害してる方法をみたら、こいつらは俺に復讐しにくるだろう。

 

ハードなパンチラインをラップしつつも、楽曲のなかに優しさを持っているのがEvidenceの特徴であるが、若い頃はディスする内容もハードであった。エミネムが「プロデュース」している作品は、実際に彼が手を動かして作ったものではないという点をついた。さらにメジャーレーベルにて、大きな数字を出しているエミネムに、Evidenceはインデペンデント・アーティストなりの意見を言う。

 

 

金髪のビッチにさらに言ってやるよ。お前は何百万枚も売っても、自分で出版権/楽曲の権利を持っていない。お前はヒップホップじゃない、ポップだ。特に小さい女の子にポピュラーなだけだ。子供、そしてトレンチコート・マフィア(コロンバイン高校銃乱射事件の犯人が自称していたギャング)の間でポピュラーなだけだ。

 

彼はいくらエミネムが枚数を売っても、楽曲の権利はエミネムにあらずと語った。今でもインディーズでファンベースを広げている彼が言うと説得力が増す。さらに、エミネムはヒップホップではなく、子供と若い女性に「ポピュラー」なポップアーティストだと批判した。このようにEvidenceは淡々とラップをしつつも、ハードなパンチラインを投げかけたのだ。

この楽曲がリリースされた後、エミネムは一度もEvidenceに反撃しておらず、ビーフは宙ぶらりんとなった。しかしEvidenceの親友でもあり、頻繁にコラボをしているプロデューサーAlchemistが、エミネムのツアーDJを担当しているのもあり、2014年には「あれは昔のことだし、あれから人生で色々あって俺は変わった。俺らがデトロイトにいたとき、Proofがツアーバスに遊びに来て、仲違いを解消したんだ。Mr. Porterも素晴らしいやつだし、エミネムのマネージャーも知ってる。エミネムとは話してないけど、もしその機会があったら彼にはちゃんとリスペクトを見せるよ。RIP Proof」とも語っている。エミネム、Alchemist、Mr. Porterが組んでいるように、アーティストたちが過去のクルー同士のいがみ合いを忘れて助け合っているのは素晴らしいことだ。

 

対照的な成功

エミネムとEvidenceはどちらも違うベクトルで「成功」しているが、対照的な部分が多い。エミネムはポピュラー音楽として、最も売れたラッパーの一人となり、Evidenceは「心を赤裸々に語るラップ」でヒップホップファンの心を鷲掴みにし、メインストリームではないがコアなファンベースを築いている。エミネムのラップ・フローは年を重ねるごとに速くなり、Evidenceのラップは年を重ねるごとにドッシリと遅くなる。エミネムは45歳にて、多くの人をディスる作品をリリースし、自分自身のラップとエゴが自分のストレスにもなっているようにも聞こえる。Evidenceはエゴを捨て、自分の心の弱みをセラピーとして語ることにより、自分の問題を乗り越えている

 

もちろんエミネムのほうが枚数や人気では「成功」しているが、現代を生きるアーティストとして、Evidenceのキャリアは「ロンジェヴィティ」としてはかなりいい事例であろう。41歳にて、アルバムをリリースする度にファンベースが増えている。ファンと共に成長しているのが伝わってくる。

アーティストの音楽やキャリアは比べるべきものではないが、どちらのラッパーもキャリアは長く、上記の「ロンジェヴィティ」の事例としても、かなり対照的であることがわかるであろう。アーティストとして、「成功」を目指す際、どちらの「ロンジェヴィティ」を目指すのか?というヴィジョンは重要になってくるのかもしれない。

「心を打ち明けることによって救われる」亡くなった母親とパートナーの癌についてラップしたEvidenceに返ってきたもの。

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