ライブではラッパーの生の声を聞きたい?「ライブで曲を流すだけでラップをしなくてもいい風潮」についてDenzel Curryの発言から考える

 

 

好きなアーティストのライブ

というものは貴重な体験だ。音源では聞けなかった生の声、今まで積み上げてきたであろう努力と汗、音源では聞けないアーティストの細かいニュアンス…ライブの素晴らしいところを挙げたらキリがない。個人的にはバックトラックより、生バンド編成のほうがテンションが上がるが、どのような形であれトップアーティスト/ラッパーたちのライブは「さすがだわぁ…」と言いたくなるクオリティとなっている。Playatunerがレポートをした公式ライブレポはこちら⬇

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そんな「ライブ」であるが、ヒップホップファンの間でも賛否両論なライブがバックトラックの使用の仕方である。バックトラックでも、ラッパーが実際にラップをしているライブがやはり好ましい。そういう意味でも先日行ったGoldLinkのライブも素晴らしかった。しかし近年目立つのは「音源と同じ状態の曲をそのまま流し、自分ではほとんどラップをしない」、いわゆるハイプだけのパフォーマンスである。なんとなく「ライブでラップをしなくてもいい風潮」ができていると感じる。そのようなスタイルで「ライブ」をするアーティストは近年増えているのではないだろうか?

この件について若手MCとしてファンベースを徐々に広げているDenzel Curry(デンゼル・カリー)がこのように語っている。DJBoothなどの米ヒップホップメディアでもこのインタビューは取り上げられているが、独自の観点で考えてみたいと感じる。

 

Denzel:The Underachieversは熱いライブをするけど、ちゃんとリリックもスピットをするんだ。それから学んだ。俺は自分にリリックもちゃんと知っているし、ちゃんとラップの仕方も知っているからね。他の若手みたいにサウンドクラウド載ってるそのままの、ボーカルトラックが全部入ってる音源を流す必要なんてないんだ。

(ここで共感の拍手が起こる)

結構そういうのはよく見るんだよな。ライブなのに、そのままサンクラの音源を流してるだけのやつらが多いんだ。せめてインスト音源の上でラップしてくれよって思う。お前らの生の声が聞きたくてライブに来てるんだし、もし音源が聞きたいなら車で聞くわ!まじでそういうのやめてくれよな。リリックをちゃんとパフォームしてくれよ。皆お前の「ライブ」のために来てるだから。

 

ライブで音源をそのまま流し、自分ではラップをしないアーティストたちに物を申したDenzel。特に彼のライブはステージ上で暴れながらも、ちゃんとリリックを「演奏」している。彼のライブは若手ラッパーのなかでもかなりクオリティが高いと感じる。さらに彼は尊敬するアーティストについて語る。

 

Denzel:そういう意味でも「アーティスト」は尊敬するよ。そういう意味でもこないだSwayと一緒に見たローリン・ヒルのライブは素晴らしかった。

Sway:あれは素晴らしかったな。俺が嬉しいと感じるのは、Denzelのような若いアーティストが、ああいうレジェンドから学ぶ意欲を持っているということだ。一気に有名になりすぎて、他のアーティストから学ぶ気すら起きないという若いアーティストがたくさんいるなかで、このように様々なアーティストから学んでいるのを見ると「音楽に本気だ」というのが伝わってくる。ローリン・ヒルのライブバンドは、James Brownのバンドのようにタイトで本当に素晴らしいよ。

Denzel:俺はあのライブの全部を見た。DJプレイ、バンドの演奏、彼女が出てくる様子、彼女がコーラス隊と絡んで踊る様子、踊ったあとにめっちゃハードなラップをスピットしたところ、全部を見た。曲のアレンジも音源と違くて、本当の意味でステージを「破壊」しているようなクオリティだった。

 

会話はローリン・ヒルのライブの内容になり、そのような素晴らしいクオリティのライブをしているバンドから様々なことを学んだと彼は語った。確かに私も2年前にローリン・ヒルのライブを見たのだが、バンドの演奏も含め、ローリン・ヒルの「伝説的ステータス」を目の当たりにした。思わず「やべぇ…こういうライブをやりたい…」と感じるものであった。

しかし音源をそのまま流し、メインラッパーが盛り上げる「ハイプマン」と化しているライブが世間で認められつつあるのも確かだ。これはDJカルチャーとの融合的な側面なのか、インターネット時代の自然な流れなのか?それについても考えてみたいと感じる。ちなみにDenzel Curryのライブは「ブチ上げる」と「ちゃんとラップをする」のバランスが取れているので、一度は生で見てみたいと感じる。BadBadNotGoodをバックに生バンドでラップしたときも、かなりの上達を見ることができる。

 

有名になる順序の逆転?

この「ライブでラップをしなくてもいい風潮」は、いつから出てきたのだろうか?これをきちんと語るには、相当なDJ/クラブカルチャーのリサーチが必要であろう。そちらに関してはもう少し調べてから、もう一度書きたいと感じる。むしろ詳しい方は是非ご教示願いたい。

パッと思い浮かぶのは、「有名になる順序の逆転」である。インターネット/ソーシャルメディアがラッパーの活動の主流でなかったときは、どのアーティストも「地道に有名になる道」は同じだったと感じる。

デモテープをつくる→ストア/ライブハウス/クラブ/知り合いに配る→小さめのライブからはじめる→繰り返す→ファンが増える→ライブを見ていた人にフックアップしてもらう

と言った流れがマジョリティであったのではないだろうか?

そのため、「初期のライブ=ファンがまだいない状態」であったのだ。そのようなファンがいない状態でライブをするとなると、その会場にたまたま居合わせた人や、友達を虜にするのは「ライブそのもののかっこよさ」である。せっかく誰かが居合わせたり、友達に来てもらっても「1人でぶち上がってるだけ」では引き込めなかったのだ。

逆にインターネット時代では、そのプロセスを全てスキップして音源がひとり歩きをする可能性が高まった。そのため、あまりライブをしたことがない状態でも「既に曲を知っている人」がライブに多数くる。そのようなライブは、「ライブのクオリティ」で盛り上げるのではなく、「皆が曲を知ってるから盛り上がっている」状態なのだと感じる。「皆が曲を知っているから歌ってくれる」ため、自分のラップを磨く必要を感じないのかもしれない。

もしそのようなアーティストたちが、全く曲を知らない人たちしかいない状態でライブをしたらどうなるのだろうか?盛り上がらないのを客のせいにするのか、自分たちで勝手に楽しむのか、それとも盛り上がっている本人たちを見て観客も一緒に盛り上がるのか?実験してみたいものだ。

ちなみに近年でライブがとても良かったのはAnderson .Paakである⬇

Anderson .Paakの軌跡PT.2 〜Dr. Dreとの出会い〜

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