Run-DMCのDMCがエアロスミスとの名コラボ「Walk This Way」から学んだことを語る
ヒップホップ史上に残るコラボ
というフレーズを聞いたとき、どのコラボを思い浮かべるだろうか?もちろんヒップホップアーティスト同士のコラボも素晴らしいが、ヒップホップが他のジャンルのファンにも広く知られるようになったコラボはまさに「歴史の残る」コラボであろう。そのように考えるとPublic EnemyとAnthraxの「Bring The Noise」やLinkin ParkとJay-Zのコラボも歴史に残るコラボである。
しかしそんな数あるクロスオーバーコラボのなかでも、最もインパクトがあったのはRun-DMCとエアロスミスの「Walk This Way」であろう。この曲は元々1975年にエアロスミスがリリースした曲であるが、1986年にRun-DMCがカバーをし、Steven TylerとギタリストJoe Perry本人も参加をした。
MVも含めフェノメナルであった楽曲であるが、当初Jam Master Jay以外のメンバーはこのコラボにかなり否定的だったと言う。しかしDMCはこのコラボから色々なことを学べたと語っており、そのストーリーが面白いので紹介をしたい。
DMC:俺らはその時にRaising Hellのアルバムを作っていて、既にヒップホップファンに愛されていたんだ。俺らはブロック・パーティーとかで「Walk This Way」のビートの上でいつもラップをしていて、「Rapper’s Delight」以前は皆このビートの上でラップをしていた。ただ、いつもDJたちはボーカルが入る前に巻き戻して、最初のビートをループしていたから、俺らはオリジナルのリリックや歌を聞いたことがなかったんだ。
俺たちは、あのリフをサンプルして、独自のリリックをのせようと思っていた。でもその時にプロデューサーのRick Rubinが部屋に入ってきて「凄くいいアイディアがあるんだけど…オリジナルと同じリリックでカバーをしたら面白いんじゃないか?」と言ってきた。
元々「Walk This Way」は定番ブレイクであり、イントロの4小節をループしてラップしていたが、オリジナルのリリックを聞いたことがなかったと語っている。彼らはあの有名なリフをサンプルし、独自の曲を作ろうと思っていたのだ。そこでRick Rubinがスタジオに入り、提案をしてきたのである。そんな提案を受けてRun-DMCはこのような反応だった。
DMC:Jam Master Jayは「それはスゲェいいアイディアだ!」って感じだったけど、既にRock BoxもKing of Rockも作っていたし、俺とRunは「いやいや、さすがにロックとラップの融合みたいなのやりすぎだよ!」って感じだったんだ。俺らはもっと自分たちのことをラップしたかったんだ。
Rick Rubinが「とりあえず原曲のリリック聞いて、文字起こししたら?」って言ってきたから、聞いたんだ。ボーカルが入った瞬間「うわぁ!こんなカントリー・ミュージックみたいなヒルビリーなちんぷんかんぷんなリリックやりたくねぇよ!」って叫んだのを覚えている。でもRick RubinとJam Master Jayに説得されて、しょうがなくレコーディングをしたんだ。
リリックを聞いて最初は嫌がったが、2人に説得され、やっとレコーディングしたと語った。独自のリリシズムに拘り、ラッパーとしてプライドを感じられるものを作りたかったのだ。
DMC:俺らがそのレコーディングをした後、Rickがスタジオにスティーブン・タイラーとジョー・ペリーを呼んだんだ。でも俺とRunは彼らを知らなかったから、「うわぁRickがスタジオにローリング・ストーンズを連れてきた…!」って思ったんだ。でも彼らは凄く良い人たちで、謙虚な感じで「ハハ、ローリング・ストーンズは別のやつらだ。俺たちはエアロスミスだ。」って言ってくれたんだ。
このレコードは、歴史に残るものとなった。だから俺は毎回学校とかで講演するとき、学生たちにこのように伝える。「新しいことにトライしよう。新しいことに寛容でいよう。自分の人生を変えるだけではなく、世界を変える可能性があるんだ。」ってね。もし俺らがサンプルして、普通にラップをしていたら、ただの良い曲で終わっていただろう。エアロスミスと一緒にやったから、歴史に残る曲になったんだ。
最初は嫌いであったが、新しいことに寛容であったJam Master JayとRick Rubinのおかげで、歴史に残る曲を作ることができたと語ったDMC。今までと同じように、ロックをサンプルしてラップソングを作っていたら、ヒップホップファンの間に留まっていただろう。エアロスミス本人たちを巻き込み、MVも「対立からの団結」という形を取っているため非常にインパクトのあるものとなった。結果的にロックのラジオステーションでも人気曲となったのだ。彼らの「Walk This Way」はロックファンとヒップホップファン双方に好評であったが、当初は少数のハードコアなロックファンに「こんなのロックに冒涜だ!」とも言われていたらしい。
そのように考えると彼らの寛容性とRick Rubinのロックとラップの耳の良さが招いた名コラボなのだろう。「冒涜だ!」で終わらせずに、「これは面白い!歴史が動く!」と感じたことに向かって突き進んだJam Master JayとRick Rubinが招いたレガシーである。このように疑問を感じたとしても、新しいことにトライしてみると、案外自分以外の「世界」を変えるきっかけになるかもしれない。
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