J. Coleの「KOD」制作秘話から見るインスピレーションの源泉。ケンドリックからの受けた影響と「瞬間の熱」を捉えること
2018年のヒップホップ
は皆さんにとって順調だろうか?2017年はヒップホップ的にも面白い年であり、個人的にも感動したアルバムも多くあったが、2018年も今のところ順調であると感じている。そんな2018年であるが、新たなセールス記録を打ち立てたのがJ. Coleの「K.O.D.」である。
2016年末にリリースした「4 Your Eyez Only」のコンセプトとは違い、ハードなビートが印象的であるが、人間が抱える様々な「中毒/依存」という問題にフォーカスしている作品となっている。人生の痛みに蓋をするために、薬/アルコール/金/性/ソーシャルに執着をしすぎる「中毒」問題を表現した現代社会を上手くキャプチャーしたアルバムである。お金やお金で買える目先の幸せ/スリルに執着した人々を表現したコンセプト曲「ATM」のMVは非常にわかりやすい例であろう。
そんな彼のアルバム「KOD」は内容的にもサウンド的にも、フッドで起こる悲劇を表現した美しいストーリーの「4 Your Eyez Only」とは全く違うものとなっている。J. Coleは滅多にインタビューをしないのだが、Vultureにてそんな彼の「KOD」のインスピレーションを語っているので紹介をしたい。
「KOD」の種は2017年のデトロイトにて植えられた。彼はケンドリック・ラマーのDAMN.ツアーのデトロイト公演にゲストとして参加したときに感じたハイプが大きなインスピレーションになったと語っている。ケンドリック・ラマーのライブを見ていたときに、彼は「2014 Forest Hills Drive」をリリースしたときのエネルギーを思い出したのだ。
➖ケンドリックのライブを見て鳥肌が立ったんだ。「ヒットアルバムをライブで演奏する」ということがどういうことかを目の当たりにしたんだ。自分のなかの欲求に火がついた。まるでメニューを見ながら「これをもう一回味わおうかな」って気持ちになった。
もちろん「4 Your Eyez Only」もセールズ的には「ヒット」であったが、ライブでの「バンガー」となるようなアルバムではなかった。しかし彼は「DAMN.」を演奏しているケンドリック・ラマーを見て、「もう一度このハイプを味わいたい」と感じたのだ。
そんな彼はその後もツアーを続け、2017年に夏の終わりにイタリアとタンザニアへの旅行を計画した。しかし旅行にいく直前に、彼の頭に予想していなかったレベルのクリエイティブの欲求が湧いてきたのだ。彼は3日に4曲を制作したと語っており、そのインスピレーションは旅行中にも止まらなかった。プライベート・ジェットを借り、妻とまだ幼い息子との家族旅行となった。
しかし彼は旅行中にも睡眠できないぐらいのインスピレーションとアイディアに追われるようになる。妻と息子が寝ている間にも、ホテルスイートの別部屋でアイディアを全て録音していたと語っている。起こさないように小声で録音しながら、数日間で6曲が出来上がったのだ。
そのなかの一つが「Kevin’s Heart」であった。人間の不貞と、植えられた欲求に負けてしまう人間の弱さ、そしてその過ちを認め、学ぶ重要性が伝わってくる楽曲であるが、この曲も旅行中に生まれた曲である。とある日、J. Coleの妻がベッドに横たわりながら「あー駄目だよケビン…Oh My Godケビン」と嘆いていたらしい。そのケビンとは、当楽曲のテーマともなったコメディアン、ケビン・ハートであった。妻が見ていたのは、ケビンが妊娠中の妻がいるにも関わらず、不倫をしたというニュースであった。J. Coleとケビンは、10年前から親しい友人ということもあり、J. Coleと妻は「人間と不貞と自然の摂理」についての議論をするようになったのだ。その議論から生まれた楽曲が「Kevin’s Heart」となっている。
日常で起こったことであったり、自分の大切な人たちとの会話がこのようにインスピレーションになる場合も多い。アーティストとしては、いつインスピレーションが湧いても良いように、常に「その瞬間の熱」を記録をしておく手段の重要性を見ることができる。OutKastのBig Boiが少年の頃からノートブックを持ち歩いていたように、Andre 3000がトイレットペーパーにもリリックを書き留めていたように、「瞬間」という要素は作品を作る上で非常に重要になってくる。Smif-N-WessunのTekをインタビューしたときも、「瞬間をキャプチャーする」という表現使っていた。
また、The Internetのように「場所」を変えることによってインスピレーションが湧いてくるアーティストたちもいる。以前The Internetをインタビューしたとき、彼らはAirBnbを借りて今まで行ったことがない街でビートを作るというエピソードを語ってくれている。
このようにJ. Coleの「KOD」は現代社会が抱える「痛み」に蓋をする中毒症状について語っている作品であるが、実際には社会の定点観測的な側面以外にも、実際に肌で感じたインスピレーションが込められている作品である。そしてインスピレーションの源泉は、見渡してみると日常の様々なところに潜んでいるのだ。
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