AlchemistとEvidence「楽曲としてベストな状態を作ることが重要」ラッパーと作品のクオリティについて語る。
プロデューサー×MC
のグループはいつの時代に聞いても素晴らしい。洗練されたトラックとリリシズムに磨きがかかったラップの掛け算ほど耳と心に喜びを与えるものはない。そんなプロデューサー×MCのデュオの2人が、どちらもプロデュースとラップ両方のスキルを持っているとしたらどのようなデュオになるだろう?そんなデュオがEvidenceとAlchemistのStep Brothersである。Alchemistに関してはPlayatunerで何度か取り上げているので、皆さんご存知であろう。EvidenceもDilated Peoplesの1/3として名を挙げてきたMCである。
そんな2人であるが、彼らは少年時代からの友達であり、Step Brothersというデュオを組んでいる。どっしり重いフローで、しっかりリリックを聞かせていくスタイルが印象的な2人であるが、彼らがラッパーと作品のクオリティに対して語っているインタビューが面白いので紹介したい。
ラップを書き留めないラッパーについて
Alchemist:まぁどんな方法でスープを作ったとしても、それが美味ければ文句は言わないよ。もしお前をアーティストとして気に入ったとしたら、ラップを実際に書いていたとしても、Jay-Zみたいに書かないで録ったとしても関係ない。ただ聞きたいのは「ラップを書かないで素早く録る」という行為に対してトロフィーでも欲しいのか?ってことだ。ラップを書かないスタイルにプライドを持つのはいいが、みんな少し混同しているようにも思える。Jay-Zは別に何も考えずにブースに入るわけではないんだ。「え?彼はそのままブースに入って、このライムが降りてくるの?」って勘違いしている人はいるけど、実際には頭のなかでアイディアをちゃんと構築してから録っている。4小節ずつ頭のなかで作って、それを繋げたりするんだ。ただ実際に最終的に曲として良ければ、方法なんて関係ない。
Evidence:そうだね。人々は単に音楽を楽しみたいだけなんだ。スタジオにいる10人の人たちを驚かせて、「自分が神だ」とか思いながら作業を終えることはできるけど、実際に曲を聞く人たちにはそんなの関係ない。素早く録ることが正義と考えている人もいるが、最終的に出来上がった作品がかっこよければ、録り終えるのに時間がかかっても、かからなくても関係ない。
録り終える速さは関係なく、実際に最終的なアウトプットが全てだと語った2人。音楽は誰のためにあるのか?という質問を自分に投げかけるきっかけにもなることだ。自分を表現することがまずは大切であると感じるが、実際に人々が音楽そのものを聞いたときに湧き上がってくる感情が全てだ。プロセスをいくら自慢したからと言って、それはインタビューなどの「音楽に付随した情報」でしかアウトプットできない。さらにその「最終的なクオリティ」について彼らはこう語る。
Alchemist:「俺は絶対にラップをパンチインしないからな!それは俺のスタイルじゃないんだ」ってやつもいるよね。
Evidence:俺まじでそういうの嫌いなんだよね。「俺は絶対ワンテイクで録るから」って言うラッパーは嫌いなんだ。もちろん全部ワンテイクで録ったときは、その時の美しさや不完全な「良さ」もある。でもビートメイキングだけではなく、楽曲を「プロデュース」したいなら「全体的に感情が出てて良かったけど、この小節の最後の言葉がもう少し強いほうが良い。ここだけパンチインしよう」みたいなプロセスを踏むことも大切なんだ。それで「ワンテイクで録りたいから全部録りなおすわ」って言われると、楽曲としてベストな状態を作るというポイントを見失っていると感じてしまう。「こうしないといけない」というルールをないはずなんだ。
Alchemist:俺的には、リリックだけではなくデリバリーも重要だと思うんだ。良いライムを書いた後に、一回や二回だけ録って満足するMCたちには「世の中が存在する限り、このテイクは人々に永遠に聞かれるんだぞ?だから自分のデリバリーが最高なものかを気をつけよう」って言うんだ。
一回で録ることに拘るのではなく、「作品」としてベストな状態になるように拘ろうという2人であった。プロデューサー/MCとして長年の経験を積んだ彼らだからこそ、様々なラッパーたちを見てきたのだ。Dilated PeoplesのRakaaも同じと感じるが、彼らのラップは言葉の一つひとつを聞き取りやすく、レコーディングのときにも気をつけているのが伝わってくる。メインストリームで爆発発的に売れたわけではないが、コアなファンたちが長年彼らの音楽を支持している理由もわかる。
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