LAのアンダーグラウンド・ベテランEvidenceの「人生と愛と死」 #booze813 #Jwave

 

J-Wave × Playatuner

2018年10月からJ-Wave にて、Playatuner代表Kaz Skellingtonがナビゲーターを務める新番組「Booze House」が始まった。毎週木曜日26:00〜の30分間となっており、ブラックミュージックをはじめとする洋楽を掘り下げる番組となっている。

この番組ではJ-Waveとタッグを組み、番組で話した内容のリキャップをPlayatunerにて記事化している。また、番組情報を発信していくツイッターアカウントは下記となっている。

Vol. 6 「Classic Samples Vol.1」Stingの名曲「Shape of My Heart」をサンプルした曲特集

 

Evidenceの人生と死の刺さる楽曲

Vol. 7では私が敬愛するLAのベテランEvidenceについて紹介した。彼はDilated Peoplesという3人組のグループのMCであり、Playatunerでも頻繁に取り上げているアーティストである。Dilated PeoplesはEvidence、Rakaa Iriscience、そしてBeat JunkiesのDJ Babuからなるグループであり、今ではエミネムのバックDJをやっている凄腕プロデューサーAlchemistが多くの曲をプロデュースしている。Dilated Peoples時代とは違い、人生の痛みや心の弱みを赤裸々に、日記のように語る彼の楽曲は私の人生だけではなく、多くのファンを救ってきただろう。



Dilated Peoples – Back Again

 

「Back Again」は2006年にリリースされた「20/20」に収録されている。こちらもAlchemistプロデュースで、70年代のプログレバンドEthosをサンプリングしている。こちらの元ネタもかなりかっこいいのでオススメする。

 

 

 

Evidence – I Still Love You

 

Evidenceの1stソロアルバム「The Weatherman LP」の最後に収録されている曲。こちらは2004年に癌で亡くなった母親についてラップした曲で、率直に自分の感情を書いている曲の一つである。

彼の母親Jana Taylorは元女優であり、写真家として活躍していた。この楽曲の最後には、母親のインタビュー音声が挿入されている。インタビュワーに「何故女優から写真家に転向したのか?」と聞かれた母親はこのように答えている。

「母親になったから。演技を続けたら息子と過ごす時間があまり取れなくなると思って、息子ともっと一緒にいるために演技を辞めたの」

この音声を入れたことについて、Evidenceはこのように語っている

 

Evidence:母親が亡くなったとき、誰かに「母親の声を絶対に忘れるなよ」と言われたんだ。最初は「毎日のように聞いてたから忘れるわけないじゃん」と思ったけど、人の声は徐々に忘れていく。今では母親の声を聞くためだけにも「I Still Love You」を聞くんだ。母親の声が含まれてる録音はあまりないから、この曲を聞いて思い出す。そういう意味でもこの曲をやって本当に良かったと思ってる。自分の感情を素直に出したから、大きな意味が返ってきた。かっこいいラップをするより大きなものだ。

 

胸の奥に溜まった感情を表に出し、ラップとして自分が感じていることを率直に書く。そのように感情を消化/昇華したものが「作品」となり、母親の声が作品として永遠に残る。これは良い作品を作るという意味だけではなく、一日の感情を日記に書く行為のように、Therapeutic/セラピー的な意味を持っている。この感情を内に秘めたまま、誰にも伝えないで生きることも可能であったが、表に出したことにより「より大きな意味」が返ってきたのだ。

 

Evidence – I Don’t Need Love

 

先程とは違い「愛は必要ない」というタイトルのこちらの楽曲。こちらは私が最も好きなEvidenceの曲と言っても過言ではないが、この楽曲も母親が亡くなったときのことが語られている。彼はカニエ・ウェストのCollege Dropoutのツアーに参加していたのだが、そのツアーの最中に母親の状態が悪化したため、ツアーを離脱してLAに戻ったのだ。

2ndヴァースの出だしで「カニエが全国のステージで宇宙船を追いかけているとき、俺は墓地で地面に顔をうずめていた」とラップするEvidence。彼の2ndヴァースはそのときの心情を非常に鮮明に描いている。

 

カニエが全国のステージで宇宙船を追いかけているとき、
俺は墓地で地面に顔をうずめていた。
カレッジ・ドロップアウトを離脱し、最初の飛行機で急いで向かった。
ペンシルベニアのスクラントンから飛行機に乗り、祈っていた。
ピッツバーグでは心臓が飛び出しそうになり、
ファーストクラスでパラノイアの襲われ囁く声が聞こえる
LAXに着き、携帯が1000通のメッセージと共に鳴り始める
空港のゲートを飛び出しひたすら走り続けた。

 

最愛の母親を亡くしたことがきっかけで、多くの人との関係が上手くいかなくなったと語る。人を愛することにより、それが最終的に痛みになることを知った彼は、他人に親切にされても突き放すようになってしまったとこの曲ではラップをする。サビではKRS-ONEのボイスサンプルが入っており、KRS-ONEは「いつも言っているように、愛というものは非常に重いものだ。だから気をつけないと」と語っている。

 

Evidence – By My Side Too

 

今年リリースされたアルバム「Weather or Not」の最後の曲として収録されている「By My Side Too」。「By My Side Too」ではEvidenceとの間の息子を産んだばかりのパートナーに、乳癌が見つかった話をラップとしてアウトプットしている。毎日2人で治療に行く自分の日常と、自分のパートナーが苦しんでいること、そして息子が生まれたことによって乳癌が発見されたのもあり、息子が一時的に母親の命を救ってくれたこと。彼はそんな「リアル」な日常と感情を書き出すことによって、セラピー的な発散をしている。彼はこのように語っている

 

Evidence: 「My Lady is losing her hair(パートナーの髪が抜け落ちていく)」と最初に書いた。その後に友達に「これ書き続けるべきかな?」って聞いたら「落ち込むから書くの止めよう」と言われて、そのラップをしばらく閉まっておいたんだ。でも何故かそのラップのことをずっと考えていた。毎日一行ずつ、一行ずつ、それに付け足していたんだ。彼女と毎日治療に行っていたんだ。

彼は楽曲についてこのように語る。楽曲のラップのパートは短く、言葉数も少ないが、彼の声のトーンからも彼の感情を汲み取るのには言葉は多くいらないことがわかる。治療中に痛みに耐えるパートナーの姿を見る辛さ、息子が生まれた喜び、「生」と「死」の境界線を同時に目の当たりにしている自分が実感する「生きている」という感覚。この混ざりあった感情を汲み取ることができる。

 

医者がまるでディーラーのように薬を彼女の体に打つ
その様子を見るのはとてもつらい
あなたが冷酷なサグだったとしても、
全てを見たことがあると思っていても、これは見たことがないだろう
自分にはじめてできた息子の母親が、薬の痛みに堪え、こぶしを握っている

自分が弱音を言わないように気をつけないと
良い日をおくって、ずっと一緒にいると約束する
太陽(sun)を覗き込み、息子(son)の目を見つめて
「今までにないぐらい生きてる実感を感じるのは何故だろう」と聞く

俺たちは生きている。2015年12月24日に長男Enzo Taylor Perrettaが生まれた。
彼の母が母乳をあげようとしていたら、何かを見つけた
その結果はステージ3cの乳がんだった。息子が彼女の命を救ってくれた。
神からの贈り物だ。愛している。

 

 

このように彼は当時は闘病中であったパートナーと自分がまだ生きており、そして息子がいるおかげでその実感がさらに湧いてくると表現した。この曲がリリースされた3ヶ月後にパートナーは亡くなってしまったが、彼が楽曲として表現した結果、多くの人が救われている。YouTubeの動画などを見ると、同じように家族を亡くした人たち等のコメントが寄せられており、「家族を亡くして以来ずっとこの曲を聞いている」というコメントからは、リスナーの人生において大きな要素になっているのが伝わってくる。

「I Still Love You」「I Don’t Need Love」「By My Side Too」と経て、彼は非常に多くの経験をし、「表現」にセラピューティックな役割をもたせてきた。このような表現が自分を含め、多くの人の人生に残る。「感情と共鳴」した音楽は、リスナーの心に一生残るのだ。今はシングルファーザーとして、世界中をツアーしながら一人息子を育てているEvidenceが活動する限り、私は応援をしたいと思う。

 

次回は#throwbackthursdayということで、70年代、80年代に活躍したファンクバンド「The Gap Band」を紹介します。また今回の放送は11月22日までRadikoのタイムフリーで聞くことができる。

 

「心を打ち明けることによって救われる」亡くなった母親とパートナーの癌についてラップしたEvidenceに返ってきたもの。

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