【Blog】Eric B. & Rakimのツイッターアカウントは本物か偽物か?ヒップホップとフェイクニュースとWEBメディア

 

 

ソーシャル・メディア

から恩恵を受けているアーティストは非常に多い。このソーシャル・メディア時代には、独自で自分たちのファンとダイレクトにやり取りができるようになり、今まで仲介していた人たちを仲介しなくても活動できるようになったのだ。そのため自分で「レバレッジ」を作ることができるようになり、アーティストが有利になる事例も多く紹介してきた。

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しかしもちろん「便利」なものにはそれなりのデメリットもある。Princeが言うように、技術は諸刃の剣なのだ。多くのものが無料で手に入る世の中にてアーティストが金銭的に不利になるというデメリットもあるが、今回はまた別の観点で書きたい。それはPlayatunerでも何度か書いている「情報消費の速度」というテーマだ。以前からコンテンツの消費が速い世の中で、どのようにクリエイティブを世に出していくか?という記事は書いているが、クリエイター目線ではない切り口で考えてみようと思う。

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Eric B. & Rakim

最近話題になったツイートを紹介したい。ヒップホップ系のメディアをフォローしている方であればご存知であると思うが、ヒップホップ・レジェンドの「Eric B. & Rakim」のツイッターアカウントのとある投稿が話題となっていた。

Do you agree or disagree with Eric B. and Rakim?

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既に当ツイートは消されているが、「Eric B. & Rakim」のアカウントはこのようにツイートした。

 

あなたたちは今ラップ・ミュージックの退化を目の当たりにしている。ポエトリーとスムーズネスの死だ。メッセージのないものになっている。ヴァースと言葉を使用し、意味のある「変化」を及ぼそうとする能力の欠如だ。しかし最も悪いのは、彼らはこのアートを傷つけていること自体を認識していない。これは悲劇的だ。

 

このツイートは非常に話題になり、ほぼ全てのヒップホップ関連のメディアがこぞって取り上げた。なかにはRakimが書いたと断定したような文章を書いた記事もあった。これがもし本当であったらPlayatunerでも取り上げるべきであっただろう。しかしPlayatunerでは取り上げなかった。恐らくニュースとして取り上げなかったメディアは米メディアでも複数あるだろう。何故取り上げなかったかというと、恐らくこの「Eric B. & Rakim」のアカウントの中の人は、高確率で「関係者だが本人たちの意向と関係なくツイートしているスタッフ」だと推定ができるからである。(もしくはEric B.単体)

そもそもこの「Eric B. & Rakim」のアカウントに「違和感」を感じたのは2016年の年末のことである。このアカウントが、「トランプとペンスを支持し、トランプに投票する」との意向のツイートをしたのである。それ自体が疑問の源泉ではないが、そのツイートが話題になった後そのツイートは削除され、「ハッキングされたけど、今アカウントを取り戻した。トランプではなくヒラリーを支持しているに決まっているじゃん」という旨の弁解ツイートが連続で投稿されたのだ。しかし最もクリティカルなのが、その後Rakimの代表がOkayplayerに送ったこの声明である。

 

ラキムは彼のオフィシャルFacebookページ以外のソーシャル・メディアのアカウントと、全く関与がありません。また、どのソーシャル・メディアにも興味もなく投稿にも貢献もしません。Facebookアカウント以外には、使用していないこのツイッターアカウントが存在しています。彼の意見を反映する他のアカウントもありません。彼は音楽を通じてコミュニケーションを取ることを好みます。

 

そう、このアカウントは全くRakimは関与していないのである。実際にツイッター社の「公式マーク」がついている「Eric B. & Rakim」のアカウントであるが、Rakimは関与していないのだ。しかしEric B.のツイッターアカウントのプロフィールには「Eric B. & Rakim」のアカウントが@でメンションされているため、Eric B.は何らかの形で関与していると推測ができる。

上記の「ラップの退化」というツイートを見て、「Rakimがこう言っている!」と報道しなかったのはこのためだ。Rakimがこのアカウントに関与していないという情報を前に見たことがあったため、一旦何かしら声明が出るまで、色々調べながら待っていたのだ。Rakim本人が「関与していない」と出している声明が少し前にあったなか、このような発言がRakimのものだと「断定」して記事を書くのは、ある意味彼へのディスリスペクトにもなると感じていたのだ。そのなかで、「え?これマジ?」と調べずに「Rakimが◯◯と言った!」と報道するのは、「ソーシャル時代の情報消費の速度>クオリティ」という重みで報道している機関が増えたことを表しているだろう。そもそも「これはアクセス数になるから書くぞ!」という感じではなく、Rakimに限らずにアーティストへの愛があれば、彼の2016年末の声明にもたどり着くはずだ。(もしOkaplayerにてRakimの代表を名乗った人物も偽物だったら完全にお手上げだが)

実際には、このアカウントの中の人が何者で、Eric B.なのかスタッフなのか、もしくはSNSに対する温度感が急に変わったRakim本人なのかは断定はできないが、Rakimである可能性は極めて低い。Rakimはサウスのヒップホップなどを「一種の音楽」として認めており、「好き」と「認める」の区別をしている人物であることもわかる。(Rakim本人が出した正式な声明はこちら

 

ヒップホップとフェイクニュース

ヒップホップ界でフェイクニュースが話題になるのはこれがはじめてではない。むしろかなり頻繁に起こっている印象である。「◯◯が◯◯をした!」と報道された後、「実はあれば嘘だったと判明!」と報道されることも非常に多い。私が大好きなヒップホップ・ジャーナリストであり、HipHopDXの元チーフエディターのJustin Hunteの動画シリーズでも、このテーマは取り上げられていたが、インターネットは非常に速く情報に飛び乗る。

例えば2016年の10月にとあるユーザーがSNSにアップした「MF Doomが結婚式にて司祭を務めた」という旨の写真が話題になった。

 

この写真は拡散され、複数のヒップホップメディアが「MF DOOMが今週結婚式の司祭を!ハロウィンだからマスクがピッタリ!」という旨の記事を投稿したのだ。それと同時に多くのファンが「え?これ嘘でしょ?」と疑ったが、実際には「ある意味本当」であった。これはStones Throwの元マネージャーのEgonの結婚式だったのだが、Egon本人が

これは本当だよ。でも2009年の出来事だけどね。インターネットを絶対に信じるな

ツイートしている

恐らく調べて挙げればキリがないぐらい多くこのような「ニュース」が存在しているだろう。しかしこれはWEBメディアのビジネスモデルを考えるとごく自然な流れである。

 

WEBメディアのビジネスモデル

WEBメディアというのは本質的には非常に難しい商売であるように感じる。WEBメディアのビジネスモデルと言ったら、簡単に説明すると基本的に「①バナーなどの広告」と「②記事広告」がメインであろう。①に関しては皆さんもお馴染みの横長い広告であったり、思わずクリックしてしまう広告である。②に関しては企業などから「◯◯について書いてくれませんかね?」と依頼された「PR記事」である。そしてどちらも「アクセス数」が重要なのである(本質的には違うと感じるが)。

実際に①で事業を回せるぐらいの収入を稼ぐのは非常に難しい。単価が低かったり、そもそも人間には興味があっても「広告」と分かっているものをあまりクリックしない習性がある気がする。そのなかで、①を稼ぐためには「圧倒的なアクセス数」が必要になってくる。その圧倒的なアクセス数を稼ぐためにはとにかく多く記事を更新する必要がある。そんななか、情報のクオリティではなく「とりあえずアクセス数を稼ぐ」というスタンスのメディアが増えるのは当たり前の流れであり、むしろビジネス的には正しい判断であるようにも思える。しかしこのソーシャル・メディア時代には、スーパースピードで多くの「楽しい」情報が消費されるため、それに追いつくためにもリソースが「速度」に注力されることが多い。その結果、アーティストのツイートなどを、裏付けのないまま記事にすることが増え、謎の情報がいつのまにか「真実」として定着するのだ。(そもそもメディアのビジネスモデルに疑問を感じている節もある

今回のRakimの件も含め、結果的にはメディアが「情報加害者」となっている場合も多々ある。本来であれば、疑問を投げかける立場であるべきなのかも知れないが、「◯◯で報道されていたから正しい」と思う読者も多いだろう。そして言語などが原因で、自分で確かめることができない人たちが損をしてしまうのだ。本来であれば信頼するべき存在のメディアであるが、実際に「海外の記事を翻訳したりしている日本のメディアの翻訳は本当に正しいのか?」という疑問も常に持つべきなのかもしれない。様々な情報が素早く入ってくるため「便利」な時代にはなったが、逆に誰もが自分で確かめる責任を持つ「不便さ」も持ち合わせており、そういう意味でも冒頭で書いた「諸刃の剣」なのである。(「スヌープ・ドッグがBootsy Collinsの甥」という情報もその結果だと思われる

かくいう私も「ケンドリックの偽トラックリスト」が浮上したときに、テンションが上がって「これは本当なのだろうか!?」という記事を書いているので、人のことを言えない。しかしPlayatunerを運営して1年が経つにつれ、「もしかしたらこれは嘘かもしれない」という意識が強くなった。もちろん人間であれば誰もが間違えるので、自分で調査した上でも誤った情報を書いてしまうこともあるだろう。そういう時は是非、指摘して頂きたい。また、全てはバランスなので、素早くニュースを紹介するメディアもあれば、じっくり読むするメディアがあり、双方が共存して業界が盛り上がれば良いな、とも感じる。

この件については続きもあるので、是非チェックして頂きたい。

「Eric B. & Rakim」のツイッターアカウントに関してRakimが正式な声明を出す。彼自身の意見は?

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