インディペンデントの王者Tech N9neがどのようにして巨大なファンベースを獲得したかを語る。長年の活動による彼のカルト的なファンベース

 

 

キング・オブ・インディペンデント

近年では技術の発達により、インディペンデントで活動するのがある意味一般的なことになってきており、多くのラッパーたちが独自でハッスルする方法を身に着けている。ソーシャルメディアやプラットフォームが発達したことを考えると、インターネットが発達する前から「インディペンデント」にファンを獲得していたアーティストがいかに凄いかがわかる。そんなインディペンデントなキングと言ったらTech N9neであろう。以前は彼のレーベルから学ぶ③つのことを紹介した。

インディペンデントの王者、Tech N9neのレーベル「Strange Music」の事例。CEOから学ぶ③つのこと。

 

今回は上記の記事の続きとも言えるインタビューを紹介しようと思う。上記では、ビジネスサイドを担当しているTravis O’Guinのインタビューからビジネスサイドで学べることを紹介したが、今回はTech N9ne本人のインタビューから「アーティストとして」学べることを紹介したい。

7人の観客

彼がインディペンデント・レーベル「Strange Music」を立ち上げたのは1999年のことであり、当時はそもそもインターネットでファンを集めるという習慣がまだなかった時代である。そのため、彼の「ファンを集める方法」というのは逆に「インターネット・ラッパー」が飽和した現代でも通用する話である。ネット上のプラットフォームにて頭角を表すのは、そのプラットフォームのアーリーアダプター的な存在にならないと難しかったりするが、彼のカムアップの話は非常にアナログであり、誰もが知っている方法である。彼はこのように語る。

 

➖ Tech N9neのカルト的なファンベースの大きさはやっぱ他のアーティストから見ても凄いと思うんだけど、何が要因だと思う?

Tech:全力でライブをやってきたことはやはり、大きな要因だと思う。そもそもラジオやテレビなどのメディアを通さずに、そうやって0からハードコアなファンを獲得したんだ。最初は今までライブをしたことがない街にとりあえず行って、7人しか客がいないような状態でライブをした。7人しかいなかったとしても、俺たちはまるで7000人がそこにいるかのような気合いで、全力でライブをする。そしたらそこで見てくれた奴らが友達にその話をするんだ。

次にその街に戻ってきたときには観客が20人になってる。同じことが起きて、3回目に戻ってきたら50人になってる。それが100人、200人、300人となって、何年後化にRed Rocksとかで10,000人の前でライブをやるようになっていた。こないだもデンヴァーで18,000人のライブをした。それが長年積み重ねてきた「仕事/ハードワーク」って奴だ。俺はもう46歳だけど、俺にとってプラチナ認定やゴールド認定は最近の出来事なんだ。

 

彼は既にヒップホップ的にはかなりベテランと言っていいぐらいの年齢である。確かに彼のキャリアは若い頃に爆発したわけではないが、46歳になる今までハードワークを積み重ねてきたことにより、簡単には離れないハードコアなファンベースができているのである。それは最初は音源を出すのと、ライブとツアーをひたすらやり続けたことから確立したものであった。日本とアメリカではそもそも「ライブにいく」ということの温度感の違いはあり、アメリカの地方都市では遊び場の一種として確立していることが多い可能性もあるので、全く同じ手法が日本でとれるかは断言できない。しかし「最初はしょぼくても繰り替えすことによって大きくなる」という事例としては、非常に参考になる。

通常であればツアーをして7人しかいなかったら「あーこの街はめっちゃ有名になるまで行く意味ないなー」と思ってしまうだろう。そして他の方法に手を出しはじめるのだが、Tech N9neはその7人が「広告塔」として徐々に増えてくることを理解していたのである。むしろキャリアの最初で自分が知らない土地に7人ファンがいるというのは、非常に素晴らしい兆候であり、その一人ひとりの人生にいかに入り込めるかによっては、アーティストにとって非常に大きい強みとなる。

 

歩く広告塔

上記の話からもわかるように、彼はソーシャルメディア上ではなく「リアル」での口コミを非常に重要視している。彼はインディペンデント・アーティストとして知っておくべきこと、という質問について、このように語っている。

 

Tech:もちろんビジネスマインドを持つのは重要だ。それと重要なのは、「人は歩く広告塔」だと理解することだ。もしいい商品を持っていれば、人はそれを着たり、身に着ける。そしてその行動は「会話」への発展する。例えばTech N9neのシャツを着てる人がいたら「そのシャツいいな。お前とは仲良くなれそうだ」と他のファンに言われるだろう。その会話がファミリー意識をつくり、その意識は徐々に広がっていく。

 

インターネット上で「インフルエンサー的な人が着てるから」という理由と似ているようだが、違う点に関しては「相互的な会話」という部分であろう。インターネットのインフルエンサー経由のものは、一方的に情報をゲットできるが、多くの場合はそこに会話が生まれないので、盲目的に信じるファン意外は案外離れるのが早かったりする。しかしそこに「リアルでの会話」が生まれると、周りを巻き込むので、さらに深くハマるのだ。彼はその「深くハマる」という部分について「エモーションに働きかけ、様々な感情が共鳴する題材で音楽をつくる」と語っている。「深くハマる→レプリゼントしたくなりマーチャンダイイスを買う→他のファンとの会話が生まれる→他の人にも自分の感情が救われたことを広める」というプロセスで言葉通り「カルト的」なファンベースを作っているのだ。

 

これはアーティストだけではなく、WEBサイトやビジネスに関してもそうなのだが、広い範囲に一気に広告をうって「イイネ」を増やせばいいと一般的に思われている節がある。しかし感情とコンテンツの消費速度が速いインターネット時代だからこそ、地道にコツコツ、コアなファンベースを作るのが「ロンジェヴィティ」になるのだろう。Tech N9neは46歳であるが、今でもピークを更新しており、今までの業界の「年齢とキャリアピーク」という暗黙のルールを全部覆してくれている

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