年を取ったらラップができない!?Andre 3000の発言に反論しつつ、この発言について考える。

 

 

ヒップホップパイオニア

と呼ばれるグランドマスター・フラッシュでも現在59歳である。1970年代に産声をあげたヒップホップカルチャーというものは、比較的に新しい文化であり、まだ「お爺ちゃん」レベルのラッパーはいないであろう。最近はJay-Zが4:44をリリースしたのもあり、「Grown Man Bars」という「大人」なラップについて改めて考える機会が増えている。

そんななか、非常に興味深い議論が米国にて行われているのをご存知だろうか?それはOutKastのAndre 3000のとある発言である。Playatunerでは何度もAndre 3000のアーティスト性とオリジナリティを絶賛しているが、今回の彼の発言は色々考えさせられるものがあった。

伝説のヒップホップデュオ「OutKast」を読み解く〜第1章Andre 3000生い立ち編

 

彼はOutKastが2007年に活動休止してから、フィーチャリング以外では楽曲をリリースしていない。一方OutKastでのパートナーのBig Boiはコラボアルバムを含めると4枚リリースしており、アンドレは「もう音楽やりたくないのかな?」と思ってしまう活動ペースである。誰もがAndre 3000かOutKastの新プロジェクトを待っているであろうなか、彼はComplexにてこのように語った。

 

Andre:既に充分やってきたから、今自分が「ラップ」の一部じゃないことに少し心地よさを感じている。年をとると、徐々に自分の意識がラップから離れていくんだ。アルバムをリリースしたり、スタジオでプレッシャーを感じながら毎日ハッスルすることから離れていく。だから今は音楽は趣味みたいなもんだよ。もしもう一生OutKastのアルバムを出さないとしても、俺はそれで全然いいと思ってる。25歳のときは「30歳のラッパーになりたくない」って思ってた。今俺は42歳になって、「50歳のラッパーになりたくない」という想いがさらに強くなった。

 

このように語ったアンドレ。ここまでは、彼の個人的な想いなので、一ファンの私がとやかくいう権利はない。彼がラップではないことをしたいなら、彼にとってはラップをしないことが正しいのであり、彼の考えや希望を尊重するのが人間として私が「正しい」と感じることだ。他人が心のなかで思っているピュアな気持ちに対して、私のような一切関わりのないものが物を申すことはできないのだ。しかし彼は続いて、このように語った。

 

Andre:ラップはボクシングのようなものだ。どんなに素晴らしい全盛期があったとしても、年をとると鈍くなってくる。それは誰であってもそうだ。その感覚を徐々に感じ始めている。

 

そこまでだ。私は「好きなラッパートップ5は?」と聞かれたら、確実に毎回Andre 3000を入れているレベルで彼の音楽が好きだ。それを踏まえてこの後の文章を書く。「もうラップはする気はない」というのは彼の個人的な意見であり、尊重すべき意見であるが、この後半部分は正直あまり賛同できない。もしかしたら人によっては「ラップはボクシング」のようなものなのだろう。しかし実際には40代になっても、毎回ピークを更新し続けているラッパーはたくさんいる。彼のこの発言は、自分の個人的な「もうやりたくない」という意見を一般化し、「自分が嫌になったとかじゃなくて一般的にそうだから!」と自分と世間に言い聞かせている「言い訳」にも聞こえてしまう。捉え方によればそれを言い訳にして逃げているとも捉えることができる。私は20代なのもあり、正直42歳でラップをすることについては体験したことがないのだが、40代以上でも格好いいラッパーたちは多く存在している。

実際には40代のRoyce Da 5’9(40歳)やTech N9ne(45歳)は、今でも作品を出す度にピークを更新し続けるパワーを持っていると感じる。Nas(43歳)もラップのスキルは健在どころか、今彼が作っているアルバムは最高になるのでは!?と予想がされている。The RootsのBlack Thought(45)も変わらずリリシストとしてのスキルを出し続けている。そう、アンドレが「一般的にそうだから」というテンションで語った内容は「一般的」ではなく、彼の個人的な気持ちであり、彼のメンタリティからくる意見だと感じる。

元HipHopDXの編集長のJustin Hunteがやっているラジオ番組で、この話題について議論がされていたのだが、彼らも同じように感じているようだ。

 

Justin Hunteも非常にOutKastに思い入れがあるのか、要約するとこのような内容となっている

 

この一般化している感じが納得できない。40代を超えても素晴らしいラッパーたちは多い。これは彼のスキルの問題ではないと感じる。この自分の意見を「個人の意見」としてではなく、一般的にそうだと信じ込んでしまっている彼の「意識」が年寄りの考えだ。今まで誰もやったことがないことをやってのけ、誰よりも時代の先にいた「あのAndre 3000」が、このように自分で信じている。もしかしたら彼は新しいプロジェクトをリリースするのを恐れているのかもしれない。まるでAndre 3000じゃなくて、Andre 30ぐらいのような感じだよ。

 

「一般的にそうだと信じ込んでしまっている彼の「意識」が年寄り」このフレーズを聞いて、妙に納得がいった。私もJustinと同意見であったが、彼の意見を聞いて、改めて新たな考えが浮かんできた。

若い頃に「箱」や壁をぶち破って、溢れんばかりのオリジナリティを見せてきたアンドレのような人にとって、「年を取る」ということは、自ら「箱」に入ってしまうということなのかもしれない。彼の言う「鈍くなる」というのは、「俺は違う、俺ならできる」という自信が低下することなのかもしれない。彼の場合は昔から「将来的にはラップから離れたい」と感じていた。将来そうなることを理解していたからこそ、若い頃にあそこまで逸脱した存在になったという説も考えられる。

しかし「ラップはボクシングのようなものであり、年を取ると確実に鈍くなってくる」というのは一般化できる事象ではないだろう。彼の個人的な希望、そして自分自身を一般的な「箱」に入れている彼の姿を見て、私ははじめて「あぁAndre 3000も年取ったんだな…」と感じた。世間がどういう意見であったとしても、恐怖を乗り越えて「自分にしかできない表現」をしてきた「3000」は、表現をするアーティストたちの希望であったのだ。その表現のハードルが高くなりすぎて、自分が納得するものを作れなくなってしまったのかも知れない。

その代わり、若い世代がコラボをしたいと言ってきたら協力をしていると語るアンドレ。彼の意見を尊重しつつ、彼のヒップホップにおける功績を讃え、今後も活躍するであろう40代以上のラッパーを応援する。今の私に出来ることはそのぐらいしかない。OutKastをいつものように聞きつつ、いつか奇跡的にアンドレがヒップホップに帰ってきたときに準備が出来ているように過ごそうと思う。

OutKastのAndre 3000とYoung Thugから見る「人と違うことをする勇気」

ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington):カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼Playatunerの代表。umber session tribeのMCとしても活動をしている。

いいね!して、ちょっと「濃い」
ヒップホップ記事をチェック!