米ヒップホップ業界における「Trash(ゴミ)」という表現。Royce Da 5’9″とDJ Premierが批判する時の言葉遣いの重要性について語る。

 

 

デジタル・メディア

が主流となり、誰もが意見を公に発信できる時代になった。その結果、アーティストたちが技術の恩恵を受け、ファンベースを増やすことができるようにもなり、今まで以上に人々のインタラクションが重要な時代となっていった。その反面、「目立つように過激な発言をすることによって脚光を浴びる手法」もデジタルメディアの時代では頻繁に見るようになった。

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自分の意見を伝えることは重要である。しかしデジタルメディアやヒップホップファン(特に海外)の間には「相手はアーティストだから何を言ってもいい」という風潮が少しできてしまっているようにも感じる。アーティストの楽曲が好みじゃなかった場合、「好みかどうか?」という見解ではなく、「This shit is trash(これはゴミだ)」というフレーズを使うのが「定番」になっている。

そんな過激な発言でヒップホップ・コメンテーターとして、一気に話題になったのが、今ではラッパーを引退したJoe Buddenである。彼はヒット曲「Pump it Up」で一躍有名になった後、Slaughterhouseのメンバーとしても活躍したラッパーであるが、Complexの「Everyday Struggle」という動画シリーズでは彼のエクストリームな発言が人気となった。今回は彼のとある発言に対するSlaughterhouseのグループメンバーRoyce Da 5’9″の意見を紹介したい。

2017年の12月にJoe Buddenはエミネムの「Untouchable」という曲を「エミネムは俺の人生を変えてくれた恩人だけど、この曲はゴミだ。人生で聞いたなかで最もクソな曲だ。エミネムは天才だけど、これは受け付けられない」と非常にキツイ言い方で語った。ここで重要なのはJoe BuddenはエミネムのShady Recordsに所属しているので、彼は「Shadyファミリー」の人間ということだ。そのことによって、インターネットではJoeを批判する者も多かったが、「JoeはShadyの一員なのに、自分の意見を言った”リアル”なやつだ」という賞賛の声も見ることができた。

その一方で、同じくSlaughterhouseのメンバーでもあり、エミネムの盟友Royce Da 5’9″は「俺もエミネムの全曲が好きなわけではない。でも言い方というものがある。自分の意見で他人の判断を大きく揺るがそうとするのは良くない。”アート”に関しては、作った人を傷つけない批判をすることが重要だ。」と反論している。その発言を受けて、Joeは「そんなのオブラートに包んでるだけだ」と自身のPodcastにて語ったが、「アート」と「批判」と「好み」というものについて考えさせられる議論となった。そのなかで私が共感したRoyceのインタビューを紹介したい。これはJoeとRoyceの問題ではなく、メディアや「音楽ファン」にも関係がある問題であるだろう。

 

Royce:これはJoeが「ファミリー」だから、とかそういう話ではなくて、単純にアーティストとしての話だ。もし批判するなら、建設的意見で批判しろ。「これはゴミだからゴミ箱に捨てろ!クソだ!」とかじゃなくて。別に嫌いなのは全然いいけど、単純に言葉の使い方の問題なんだ。そういうエクストリームな言葉を使って、話題になって、動画の再生回数を稼ぐのは簡単だ。でも最終的には「これは好きじゃない」というのと、「これはクソみたいなゴミだ」というのには大きな違いがある。

批判している相手をどれだけ愛しているかとか関係ない。「こいつを愛してるし仲が良いから、俺はこういう批判の仕方をしていいんだ!」って思ってるのかも知れないが、俺やDJ Premierの周りにはそんな奴はいない。製作中にスタジオに来て「俺はお前らのホーミーだから言う権利があるけど、お前らの曲はクソみたいなゴミだ」って言う奴なんかいないんだ。それはただ不快にさせるだけだ。俺がスタジオに来て、Premierのビートを聞いて「このクソみたいなビートを捨てろよ!」って言ったらどう思う?

DJ Premier:ジョークだと願うね…

Royce:恐らく喧嘩になるだろう。これは彼に対して「リアル」な意見を言っちゃいけないとか、媚びる必要があるという意味ではなく、単純に友人/人間として「リスペクト」があるからそういう言い方はしないんだ。

 

これは人間社会で生きるなかで、割りと当たり前のような話であるが、実際にインターネット上の「批判」を見るときに感じることである。特に顔が見えない場所では、自分の意見を完全に通すために必要以上にキツイ言葉を使用する傾向があるようにも思える。以前も書いたが、必要以上にキツイ言葉での批判というのは、案外自分がマウントを取ったという「満足感」を得たいがために出てくる「エゴ」という側面もあるだろう。「批判している私は皆よりわかっている」という気持ちが潜在的にあると、相手を「上げる」ための批判ではなく、「下げる」ための悪口になる傾向があるのかもしれない。

また「こいつを愛してるし仲が良いから、俺はこういう批判の仕方をしていいんだ!」というのはイジメに関しても似たことを言えるだろう。JoeとRoyceの「言葉」に対する価値観が全く違うだけという話でもあるが、Royceは「人間としてリスペクト」しているから、相手への個人的な攻撃になる言葉は使用しないと語る。また彼は「イエスマン」であることとの違いを語る。

 

Royce:「自分がイエスマンじゃないって証明するために、こういう言葉を使わないといけない」って風潮があるけど、そういうことではない。もちろん「リアル」な意見を言うけど、それは友人としてリスペクトした形で伝える。

それが公の場になったとき、酷くなるんだ。例えば、俺がこの部屋に入ってきて、Premierの息がクサかったとしよう。そしたら俺は彼にミントをスッと差し出すだろう。カメラの前で、大声で「Yo!Premierの息がクサイぜ!俺たちは仲良いし、リアルだし、イエスマンじゃないから大声でこんな事も言えるんだぜ!」なんて絶対言わないだろ?でも皆こういう形で、わざわざ酷い方法を選んで「批判」するんだ。そういう言い方しかできないなら、もう部屋から出てけよな。

Premier:誰かガムを持っている人はいるか?(笑)

Royce:でも皆「好き」じゃなければ「クソ」になるんだ。これはメディアだけではなくて、アーティストでもよくある話だ。もしその音楽が明らかに俺を対象として作られていなかったとしたら、俺の意見なんて関係ないだろ?そういう音楽を「好き」にならないのは当たり前だよ。だって俺に向けて作られたわけじゃないんだから。それが音楽の美しさで、全ての音楽が全ての人のために作られているわけじゃないんだ。だから全てのことに対して、意見を述べなくてもいいんだよ。毎日Twitterで全てのアルバムの批評をすることなんてしないし、むしろ「良い」と思った作品についてしか書かない。それは「リスペクト」の話であって、リスペクト/尊重されるには、人を尊重する必要があるんだ。

 

世間的にキツイ言葉を使用しないと「イエスマン」というレッテルが貼られる風潮は、インターネット時代ではあるように感じる(特に米国では)。あまり日本では見ないかも知れないが、これは実際にアメリカの中学校時代に感じたことでもある。「キツイ言葉を使って批判する=自分が他人よりわかっている」という風潮が強かったというイメージが今でも残っている。それは自尊心やエゴの問題なのかもしれない。

Joe Buddenに関しても、たしかに彼は自分の上司や恩人にもあたるエミネムの楽曲に対して「批判」を言ったのは「リアル」だと感じる。むしろ私もリアルタイムでずっとエミネムの最初の3枚を聞きまくったファンであるが、「Revival」は好きではなかった。しかし「リアル」だからと言って、人を「口撃」する言葉をあえて使う必要はないし、人間としてどうなの?というのがRoyceの論点なのだろう。

また、メディアに関しては明らかに大げさな表現を使うレビューも多い。それは単純に入念に企画を考えるより、エクストリームな表現を使ったほうが話題になるからであろう。そもそもこの米ヒップホップファンの間で横行している「Trash」という表現が、業界のレベルを下げているようにも思える。音楽以外のゴシップ的な要素を求め、さらに自分が「理解」できないものを「Trash」と呼ぶ風潮があるため、メインストリームで「認められたい」アーティストは「Trash」と呼ばれないように、既に流行っている楽曲に音楽性を寄せるようになる。「現代のヒップホップは全部同じに聞こえる」という批判もあるが、それは自分が理解できないものを、ソーシャルメディアという「直接アーティストにリーチできる媒体」で、「ゴミ」という無意味な表現で済ましてしまっていることにも原因があるようにも思える。直接アーティストに声が届く時代ならではの現象なのかもしれない。この内容に関してはVince Staplesの「メディアがラッパーにプレッシャーを与えている」という記事を読んで頂ければニュアンスが伝わるだろう。

「有名税だから、アーティストはどんな言われ方をしてもしょうがない」と思う方もいるが、実際にそれで命を落とすアーティストもいる。Royceが言うように「人間」としてのリスペクトがあれば、「好き/好きじゃない」で語ることができるだろう。もちろんクオリティ的に「下手」なものも世の中に蔓延っているので、「好き」という問題ではない場合もあるが、叩き落とすよりは全体のクオリティが上がる方法で発言ができたら業界の水準も上がるのでは?とも感じる。また、ヒップホップはコンペティションでもあるので、「俺が一番凄い」というアティチュードも重要になってくるだろう。しかしそれは他人を下げるというより、自分と仲間たちを上げるために使いたいものだ。Royceの意見を紹介したいがために、非常に長い記事なったが、RoyceとDJ Premierの「PRhyme 2」とRoyceの楽曲も素晴らしいので、是非聞いて頂きたい。

Vince Staples「メディアや世間のイメージがラッパーたちにプレッシャーを与えている」彼の超リアルトーク。

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