ソーシャル時代のヒップホップが抱える鬱症状。4年前に亡くなったPro Era創始者のCapital Steez
Writer: 渡邉航光(Kaz Skellington)
2012年前の12月24日ヒップホップは若い才能を一人失った。
Joey Bada$$がヒップホップコレクティブのPro Eraを創設したことは周知の事実ではあるが、もう一人いたことを知っているだろうか?それはCapital Steez(キャピタル・スティーズ)である。彼は2012年12月24日に、Cinematic Music Groupが入居している建物から飛び降り自殺をしたのである。彼は19歳という若さで自ら命を断ってしまったのである。この記事では米メディアDJ Boothが取り扱ったキャピタル・スティーズの記事を元に「ソーシャル時代のアーティストにとって大切なこと」という独自の考察していきたい。
Capital SteezはFlatbush ZombiesやThe Underachieversとともに「Beast Coast(ビーストコースト)」というムーブメントを始めた人物でもある。彼は東海岸ヒップホップの復活のために、イノベーティブな手法を行動に起こす人であった。しかし自身がJoey Bada$$と創設したPro Eraのフルアルバムがリリースされた2日後に亡くなってしまった。
米DJBoothやWikipediaによると、彼の様子が変わったのは、その夏のツアーを終えてからとのことである。音楽業界の裏側を少しづつ理解しはじめた彼は、その実態に酷く落胆したらしい。それから彼は古代の哲学にのめり込むようになり、いずれかは自殺をほのめかすような予言を、自身のFacebookにてしはじめたのである。彼が音楽業界について感じたことはどのようなものかわからないが、自分の理想とのギャップに耐えられなくなってしまったのかも知れない。自殺の原因の詳細はわからないが、ヒップホップにとっては、これから開花するであろう若い才能を失ってしまったことには変わらない。彼のエピソードはヒップホップにおける数少ない事例のうちの一つだ。
昔からのヒップホップのイメージと言ったら、マッチョな音楽であり、いかにリリックで男らしくハードなことを書けるか、というものであろう。しかしエミネムやDMXなどのアーティストが、自身の憂鬱な感情や、知名度ゆえのストレスを楽曲の題材にすることにより、少しづつヒップホップ内の精神性が変わってきていると感じる。
アーティストにとって大切なこと
ソーシャルメディアの時代になり、アーティストが受けるストレスも変わってきたと感じる。ただでさえ、常に自身を世間の目に晒してきたアーティストたちであるが、ネットが発達し、さらにプライバシーがなくなったと言える。しかし上記の通り、エミネムやDMXなどのアーティストがヒップホップに「同情/共感力」という感情を持ち込んだからか、アーティストが自身の問題を公にすることが受け入れられ始めているのかもしれない。
Kid Cudiが自身の鬱病を治療していたというエピソードや、ケンドリック・ラマーの「自己嫌悪を曲の題材にし、同じ問題を抱えている子供たちを救いたい」というエピソードを見ると、アーティストにたいしてもファンが共感力を持ち、支えるのが大切なのだろう。
特に最近のカニエ・ウェストやYelawolfはかなり大変な時期を迎えているだろう。そのようなときに、彼らにポジティブなエネルギーを持ち込めるかどうかは、もしかしたら私たちファンやメディアが、いかに彼らの状態を認めるかにかかっているのかも知れない。常に自分のことを監視している世間から「大丈夫」という風を感じることができれば、自分の身近な人や医者にも相談がしやすくなるだろう。ツアーをキャンセルするのには、もしかしたらしょうがない理由があるのかも知れない。どんなに強い人でも、今まで自分のことを支持していた人たちから毎日のように攻撃されたら、壊れてしまうだろう。
ソーシャルで身近になり、アーティストの人間味が見えてくるこの時代。絡みやすさとしての「身近」だけではなく、一人の人間として「身近」に感じさせるようなファンからのサポートが必要なのかもしれない。
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