現代のアーティストにとって理想な「契約」をRussから学ぶ。アーティストが搾取されないために
技術と音楽
についてはPlayatunerで度々発信している。Playatunerの理念の一つとして「アーティストのエンパワーメント」というものがある。技術のメリットとデメリットを認識しつつ、アーティストが自身で最大限に自分のクラフトを活用できるように様々なアーティストの事例を紹介をしている。
そんななかで、現代のアーティスト活動のロールモデルとして参考するべきアーティストの一人がRussである。レーベルもなし、全曲プロデュース、レック、ミックス、マスタリングを自身で行っており、そのような状態でプラチナ認定シングル2曲になるようなファンベースを集めた。彼がいかに独自でそこまでのファンベースを集めたかは、こちらの記事で確認できる。まさに努力の結晶と言える活動である。
そんな彼はデビュー・アルバム「There is Really a Wolf」を流通するにおいてコロンビアと「パートナー契約」を結んだのだが、そのことについてこのように語る。
Akademiks:あなたは既に大勢のファンベースがいて儲かっていたし、契約する必要はなかったと思うんだけど、何故コロンビアと「パートナー」したの?
Russ:俺は他のアーティストと違って、業界への繋がりとかは全くなかった。ラジオやテレビの繋がりもなかったし、むしろこの番組の繋がりもなかった。もしそのコネクションがあるなら、別にそれでいいと思うんだ。自分のシチュエーションを考えてみたんだ。俺の曲たちはすでにヤバイ感じで売れていたし、200曲ぐらいのカタログをTunecoreでリリースしていた。Tunecoreを知らないラッパーがいたとしたら、それはまじでヤバイから調べたほうがいい。でも単にネットで売れるだけじゃなくて、もっと広いレベルで知られて欲しいって感じる曲たちも出てきたんだ。ラジオやテレビでも知られるようになってほしいと思う曲たちだ。
Akademiks:それであなたは契約をしたわけだ。
Russ:いや、俺は「パートナー」したんだ。割合の低いロイヤリティで支払われるのではなく、かなり対等な立場でパートナーしたんだ。アドバンスでも貰った前金も数億円ほどだ。計算をすると、俺は今まで300曲ぐらいリリースしていて、アルバムには20曲収録されている。前金をもらった状態で、コロンビアがリクープをしたら、50%で売上を分け合うようになっている。要するにコロンビアは10曲分のお金を俺の曲からもらっていることになる。だから俺の他の300曲は、コロンビアとは関係ないし、彼らはノータッチなんだ。コロンビアがアルバムを宣伝したり、テレビ出演とかの繋がりを作ってくれる代わりにアルバムの10曲分の売上をゲットして、俺は他にも300曲分の売上を一人で得ることができる。俺が「契約」したのは300曲のうちの10曲だけみたいなもんだ。
「パートナー」を組む以前に既にシングルがゴールド認定されていたり、ライブも数千人入るレベルでファンベースがいたRuss。実際に活動していくには、コロンビアとアルバム契約をする必要はなかったが、さらにファンベースを広げるために、非常に有利な「契約」を結んだのである。それは彼の10年の地道な努力が産んだ結果である。対等な立場であり、かつ自身に有利なパートナーシップを組むことについてさらにこのように語る。
Russ:新しいアーティストたちはもっと酷いロイヤリティ契約をしている人が多い。それでそのロイヤリティが入ってくるのに9ヶ月とか待たないといけなかったり、レーベルに搾取されたりする場合もある。ライブの集客が大勢いて、自分で売れるようになって、やっとさらに高みを目指すために「パートナー」できるんだ。
俺はそうやって業界への繋がりがないアーティストたちのロールモデルになりたい。お父さんがレーベルの関係者とか、叔父さんが誰かのマネージャーだとか、そういう繋がりがなくて一人で地下室で音楽を作っている人たちは、自分でどうにかするしかないんだ。そうやって自分で得た「レバレッジ(投機/影響力)」が交渉の全てだ。活動初期にレーベルに拾われて、いきなりアーティストにとって素晴らしい契約を交渉できるわけがないんだ。
(関連記事)
彼の活動や発言を見ていると、常々感じていることを思い出させてくれる。それは「アーティストは絶対に搾取されるな」ということだ。「契約」をすることを目的とするのか、その契約を自分のカタログの可能性を広げるための手段として利用するのか、これは全アーティストが考えるべきことであろう。ここで現代の技術基盤が重要な役割を果たす。「技術のせいで音楽が売れないから…」という言い訳とともに業界のシステムに良いように利用されてしまうのか、「まずは自分で地位をゲットする、そのために自分でカタログとファンベースを少しづつ培う」という精神性のもと、アーティストとして対等なビジネスができるようになるのか…どちらも「技術」をプラットフォームとして繰り広げられる考えだ。
その技術を非常に上手く使っているアーティストを考えるとTDEの「SZA」や、水面下でファンベースを培った「Blackbear」の例がわかりやすい。SZAとTDEはRCAと契約する際、売上の7割が自分たちに入ってくる契約を結んでいると語られている。通常であれば新人アーティストではあり得ない数字である。しかしこれもインターネットで「レバレッジ」を独自に作ることができたため、有利な契約ができたのである。Blackbearはその究極版である。彼はインディペンデントで年間6億円ほどの売上を見せているため、「レーベルとか契約するんなら倍額の12億ぐらいの契約金じゃないと駄目かな〜」と語っている。
「少ない月給だけで、レーベルが原盤も全部持ってる…」というアーティストたちがいるのも事実だ。しかし、この毎日グラインドすれば「レバレッジ」を作ることができるプラットフォームがある現代社会で、最終的に搾取されるのは、自分の権利のために戦えないアーティストたちなのかもしれない。昔であれば、そもそも表舞台に立つのは自分たちの力だけでは無理であったが、現代は「自由」だ。その自由を手放した瞬間に、既に「アート」を作る人ではなくなるのかもしれない。しかし自由を持ちながら、金銭的にも有利になれるのは、独自で「レバレッジ(影響力)」を作った者だけだ。
それでは技術的なプラットフォームを使用してどのような活動をすればいいのだろうか?それはアーティストによって全く違う話であろう。Russの「正解」は毎週1曲リリースというペースを三年間続けたことであった。アーティストのカラー、性格によって様々な仮説を検証していくしかない。ちなみにPlayatunerはまだまだ成長途中であるが、全く業界の繋がりがなく、ノウハウもない状態からここまで成長させるために、数ヶ月の間例外なく毎日3記事を書き続けた。それが仮説検証であり、正解の一つでもあった。
そのような意味でも「レバレッジ」を作るために活動をするアーティストたちを今後発見していくのが楽しみだ。下記の記事が活動の参考になるかもしれない。
いいね!して、ちょっと「濃い」
ヒップホップ記事をチェック!