The Internet「オートチューンによってさらに歌が下手に聞こえる場合もある」オートチューンについて色々考える

 

 

技術とヒップホップ

は永遠のテーマである。これはストリーミングやアウトレットの話だけではなく、機材など制作方面でも重要なファクターである。ストリーミングやアウトレットについては、Playatunerで頻繁に書いているので、是非チェックして頂きたい。機材については、プロデューサーの使用機材を調査し、紹介するシリーズを書いているが、今回はいつもとは少し違うベクトルで機材/技術について書きたい。それは技術と「オーセンティシティ」の話である。

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技術やDTMの進歩のおかげで、スキルを補える時代になってきている。昔はそのままのスキルで勝負しないといけなかったなか、今では加工もボーカルのピッチ補正もいとも簡単にできてしまう。そのなかで、2000年代後半にヒップホップサウンドをテイクオーバーしたのが「オートチューン」の存在である。T-Painのヒットを皮切りに、様々なアーティストが彼のスタイルを参考にしはじめたのだ。そしてそのオートチューンサウンドの人気は今でも続いている。Jay Zが2009年に「D.O.A.(デス・オブ・オートチューン)」としてオートチューン過多の業界を批判した。

そしてこの度オートチューンについて語ったのが、The Internetである。LA出身の彼らはアルバム「Ego Death」でグラミーノミネートされており、技術的にも非常に高い評価を得ている。そんな彼らはThe Come Upのポッドキャストでこのように語った。

 

Syd:ボーカルは他の楽器と違って、練習しすぎると喉を痛めたり、声を失ったりするから変だよね。そこのバランスを保ってやろうとしている。

インタビュアー:そう考えると、今の時代は元々歌えない人でもオートチューンを使えば歌えるんだよね。それに関してはどう思う?

Matt:まぁ「インテグリティ(真摯さ)」がある人で、自分の声を100%で使いたい人にとっては大変な時代になっているよね。ライブとかでもめっちゃかっこいいオートチューンもあるし、オートチューンを批判するわけじゃないけど!

Syd:実際にはエフェクトだし、私も自分のものでも頻繁に使用するよ。まぁでも「これオートチューンを使用する必要ないでしょ」と感じる曲もある。実際に自分は歌おうとしているのに、誰かがオートチューンを違うキーに設定して、ライブでわけわかんないことになっているパターンも多くみる。恐ろしいことだ。あとは、キーから外れた音をあえて使用してクレイジーなことやろうとするときも、オートチューンがあるとできない。

 

オートチューンを批判したいわけではないが、そのデメリットなどを語ったSydとMatt Martian。実際にSydがオートチューンを使用している曲もあるが、彼女は元々「歌える」人なのだ。「人」ができる自由さが機械によって制限される場合もある。そしてSydとMattは非常に重要なことを言う。

 

Syd:正直に言うと、そもそもちゃんと歌えないのなら、オートチューンを使用しても意味がない。というか、元々歌えない人がオートチューンを使っても逆に歌が酷く聞こえるんだ。実際にどんなにオートチューンを使ったとして、最適なテイクを録らないといけないんだ!

Matt:オートチューンには特に問題はないが、問題があるとすれば、オートチューンを使用することによりアーティストの「声のユニークさ」が失われることかな。歪みすぎて、誰の声か判別できないんだ。実際には「アーティストの歌」を聞いてるってよりは「オートチューンの声」を聞いているみたいなもんだよ。

 

オートチューンを上手く使用するには、そもそも歌が上手くないといけないと語ったSyd。歌えない人がごまかしのために使用する場合が多いと思うのだが、なんでも「元の素材」のクオリティが重要なのである。ここで一つ思い出すことがある。それはT-Painの存在である。

T-Painはオートチューンを広めたパイオニアとして知られているが、実はオートチューンなしでもかなり歌えるのだ。Tiny Deskコンサートでも、マイクも通さず、彼の生声の素晴らしさを披露している。ここまで歌えながらも、恐らく「新しい表現」という理由でオートチューンのパイオニアとして話題になったのだろう。

 

そしてMatt Martianが言ったことからもとあることを思い出した。それは「初音ミク」の存在である。恐らくオートチューンが少し初音ミクのような存在になっているのではないだろうか?と感じる。「誰が歌っているか?」ということより、「オートチューンを使用したこの声であること」に意味があるのかもしれない。

現在のオートチューンを使用しているアーティストは、恐らくオートチューンを使用している理由を明確に持っていないと感じる。「なんとなく、そういうものだから」というアーティストが多いだろう。表現としてのオートチューンではなく、風潮や世間の相場として定着しているものになってきているのだ。しかしそれは悪いことではなく、新しい音楽ジャンルが生まれ、定着するときに必ず起こる現象である。初音ミクの場合は、作曲者やプロデューサーがメインになるが、ヒップホップの場合は誰の声かわからない状態でパフォームしている「アーティスト」がメインの存在になるのは、非常に興味深いポイントである。もしかしたらそのアーティストが完全に「ポップスター」になったという証拠なのかもしれない。

ケンドリックの「DAMN.」にて多数の声ネタを提供し、再び話題になった伝説的なラジオDJのKid Capriがこちらのインタビューにてこのように語っている。

 

Kid Capri:今は誰でもなんでも「自称」できる時代だ。自分が本来そのスキルを持っていなかったとしても。そして実際にライブを見たりすると、自称する半分のスキルも持っていなかったり、世に出ている作品と比べ物にならないクオリティだったりする。

 

そう考えるとT-Painはオートチューンを「楽器」だと語っている。その意味を最初はわからなかったが、彼はそもそも歌のスキルがあり、オートチューンに操られるのではなく、オートチューンを操っているのだ。そういう意味で「楽器」と言っていたのだろう。オートチューンを自分の強みを活かす楽器として使用するのか、弱みを隠すためのセーフティーネットとして使用するのか、オートチューンを使用しない者としては、非常に興味深い見解である。

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