アーティストの自己矛盾と二面性。G-Eazyから学ぶ「夢を掴んだ結果見えた世界」と「相反する真実」

 

 

 

長年夢を見続けていたもの

を手に入れたとき、見える世界はどのようなものなのだろうか?傍から見ていると「いい景色見てるんだろうな〜」と思うかもしれないが、実際には当事者になってみないとわからない。夢を叶えた人はキラキラしているというのが一般的な意見かも知れないが、様々な要因により堕ちていく可能性も多いにある。もちろんクリティックのような外部的要因もあるかもしれないが、外部から誘惑と同時に内部からくる感情/欲求/Viceである場合も多い。

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そのような内部からの感情というのは、どのようにアーティストの作品に影響を及ぼすのだろうか?今回は新アルバム「The Beautiful & Damned」をリリースしたG-Eazyを例に考えたいと思う。

彼はヒップホップシーンの中でも、必要以上に勘違いされている存在でもあるように思える。彼の最新作「The Beautiful & Damned」はBillboard Chart 200でエミネムとテイラー・スウィフトに続き3位を獲得した。「言葉遊び」などのリリシズムという観点で見ると特出したものはないが、キャッチーな楽曲とそのテーマ性は高いという印象を受けた。しかし彼はメディアからも「モデル系ラッパー」として紹介されており、女性ファンが多いため、見た目が良いから人気が出た「ポッと出」のアーティストだと思われている節もある。そのため彼をバイアスがかかった目で見ている人も多いという印象がある。

 

夢のために努力したカムアップ

上記のような印象を持っている方も多いなか、実際には彼は13歳の頃からずっと音楽キャリアを形成するために「グラインド」してきたアーティストである。カリフォルニア州オークランド出身の彼は、13歳頃に地元の友人たちと一緒に音楽を作り始めた。彼の母親は彼が小学1年生のときに父親の元を去っており、その後彼女は女性と付き合っていたため、G-Eazyは父親の存在がいない環境で育った。さらに楽曲「Everything Will Be OK」のなかでは、オーバードーズした母親のガールフレンドの死体を自宅の地下室で見つけたということも語っている。

 

そんな彼の母親はフォトグラファーであり、いわゆるベイエリアのヒッピー的な人なため、G-Eazyの「ラッパーになりたい」という夢を全面的に応援していたと言う。特に14歳のG-Eazyは手作りのミックステープCDを作り、近所で売っているような子供だったため、その「本気度」が母にも伝わっていたのだろう。そんな彼は音楽ビジネスの学校に通うためにニューオーリンズに引っ越した後にも、ホットドッグ屋さんでホットドッグ作りながら、店頭でミックステープを売っていたとも語られている。

見た目が良いからレーベルに拾われて爆発的に知名度が上がったと思われがちなG-Eazyであるが、実は彼のファンベースは非常にオーガニックに広がったものだ。むしろ彼は今ではメジャー流通であるが、実際にはかなりインディペンデントなアーティストである。Myspace時代から何枚も自主でミックステープをリリースし、ファンベースを獲得してきた「レバレッジ」があるからこそできる「メジャー流通なインディペンデント」スタイルであろう。そんな彼の「ハッスル」を見ていると、E-40やToo $hortが確立した「ベイエリアの精神」を感じることができるだろう。車のトランクからミックステープを売り歩き、ローカルで名前を売るようなベイエリアスタイルから明らかに影響されているのがわかる。実際には現在はE-40をメンターとして、彼のアドバイスを重宝しているとも語っている。

カムアップしてからも2年間同じジーパンを履き続け、常にツアーをしているような状態であっため、2017年までは住処を持っていなかったような人物である。今年に入り、やっとハリウッドにスタジオつきの家をキャッシュで購入するぐらいまで「成功」することができた。シンガーHalseyと恋人関係になり、一緒に楽曲を作ったり、傍から見たら「音楽で成功して順風満帆じゃん」と思う人生を歩んでいる。

 

成功とその先にあったもの

成功したアーティストが心のなかで何を感じているかは、作品やインタビューで表現されていない限りはわからない。強いて言えば当事者にならないと、理解できたとしても1ミリ程度かもしれない。そんな順風満帆のように見えるG-Eazyでも、内心感じている「自己矛盾」を表現している楽曲がここ数年で増えてきたように思える。そのなかでも特に話題になったのが2015年の「Me, Myself & I」であろう。

こちらでは彼が「自己矛盾」に悩まされている描写が上手く描かれている。G-Eazyの誕生日を祝うために集まってくれた人たちと盛り上がるG-Eazy、「一人にしてくれ」と言わんばかりのテンションで「お前らには何もわからない」と嘆くG-Eazy、そんな嘆くG-Eazyを見て「これがお前が長年求めてた夢なんだろ?なんで悲しんでんだよ」と疑問に思うG-Eazyがいるのだ。「演技が上手い」や「どれが本当の感情なの?」と思う方もいるかもしれないが。相反するようであるが、全部が本物の感情であり、本音なのであろう。他人に対して「こないだ◯◯だって言っていたじゃん!」と思うシチュエーションは人生で何度も起こるが、実際に人間は一面的な感情だけではなく、多面的であり、矛盾した複数の感情を持っている生き物であるように感じる。

今まで紹介した彼の「夢を掴み取るまでの努力」と「多面的であり、矛盾した感情」を踏まえて新アルバム「The Beautiful & Damned」を聞いてみると、よりその内容を理解できる。「The Beautiful(美しい)」心と大志を持っている本名「ジェラルド」と、「Damned(呪われた)」心を持っている「G-Eazy」として、彼は自分の二面性/自己矛盾を表現している。今まで大志を成し遂げるために努力してきたジェラルドと、数々の誘惑と欲求に負け、堕ちていきそうなG-Eazyだ。「No Limit」のような楽曲ではG-Eazyが求めていたロックスター像がバリバリに出ており、逆にアルバム後半では「ジェラルド目線」の迷いが見えてくる。

音楽に対して非常に真摯に取り組み、積み上げてきた自分が、毎日のようにパーティーしてコカインなどのドラッグや酒を摂取する自分に「このままでいいのか?」と問いかける。

「今までこんなに頑張ってきたのに、これが本当に自分がなりたかった自分なのだろうか?」

そんな感情が「自分が望んでいたロックスター像」と「罪悪感」として分裂し、自分の心のグレーゾーンとして残る。そんなアルバムの国内盤は2017年12月27日に発売になるので、解説などを読むと理解しやすいだろう。

 

実際にこのような「二面性」と自己矛盾を表現しているアーティストはかなり多い。Jay-Zの「4:44」も「Jay-Z/Jay Z」と「ショーンカーター」の二面性が表現されていた。ケンドリック・ラマーも、TPABにて「i」という自己愛と、「u」という自己嫌悪を表現している。そういう意味ではG-Eazyの「The Beautiful」と「Damned」のコンセプト自体は新しいものではないが、逆に言うとこれはアーティストの多くが「自己矛盾」を感じているということでもある。世間に常に見られている人物としての「キラキラ」した部分と、それと矛盾した自分のなかのドロドロした真実を感じながら、双方の「正解」を抱えるのが非常に人間らしいとも言える。その矛盾を意識し、表現できているだけでも、アーティストとしては成長できているのかもしれない。

以前DJ PremierとGang Starrの記事で、「自分のアピールポイントはコンプレックスの裏返し」という旨を書いた。自分を表現することを職業としているアーティストがこのような自己矛盾を感じやすいのはもちろんだが、実際にはアーティスト以外にも当てはまることである。自分が「笑いのネタ」にしていることは、本当はコンプレックスであることを隠すための逆張りであったりする場合もあるだろう。それをネタにせざるを得ない状況/風潮になってしまっているのかもしれない。就職活動の「自己PR」なども、自分がその部分を意識しすぎるあまりに、無意識に「コンプレックスをカバーするもの」となっている場合が多いのではないだろうか。この自己矛盾に気が付かず「無意識」に行動に起こしているのか、意識して「表現としてアウトプット」しているのか、近年の「多くの人が共鳴する音楽作品」は後者が多いだろう。このように多面性のあるアルバムは、自分が感じている自己矛盾を嫌うのではなく、表現する上で擁することの重要性を教えてくれる。

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