NYで活躍する日本育ちラッパー「KAZUO」のインタビュー。来日公演を控えた彼のルーツとYouTubeでファンベースを獲得したその心得

 

 

 

The Grind Filez

「グラインド」という言葉はPlayatunerで頻繁に提唱しているスラング的な言葉である。ニュアンス的には「ビジョンや目標に向かって毎日集中して努力すること」という意味であり、今まで「グラインド」をテーマにした記事は何度か書いてきた。恐らくまだ日本で定着していないこの言葉であるが、私は様々な分野で目標に向かって努力している人や、まだ自分がやりたいことに飛び込めていない人の糧になるように、アーティストたちの「グラインド」を紹介してこの言葉を広めたいと思っている。また、カムアップ中のアーティストを応援するために、Playatunerというプラットフォームを使ってインタビューをする企画でもある。

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以前はトロントのRaz Frescoというラッパーについて書いたが今回は、以前Playatunerでも取り上げた日本人ハーフのラッパーKAZUOの活動について紹介したい。アメリカでは、活躍しているアジア人ラッパーはまだ少ないが、彼は実際に日本に住んでいた経験があるので、話を聞いてみると面白そうだと感じていた。彼は現在絶賛カムアップ中であるが、2016年~2017年の「グラインド」は見事なものであった。今ではYouTubeの登録者が25,000人突破し、独自でコツコツ伸ばしてきたのが伝わる。「ロイアリティ」が高いファンを集めることができている彼から、どのようなことが学べるのだろうか?

彼のインタビューで興味深いと感じたのが、音楽への入り方である。

 

Kaz:元々どこ出身なのですか?

KAZUO:アメリカで生まれて、神奈川で育ったよ。横須賀の学校に通ってて、横浜にも少し住んでた。

 

Kaz:アメリカに引っ越したのはいつですか?

KAZUO:元々5歳までアメリカに住んでて、そこから日本に引っ越して、高校一年生のときにNYに戻ったんだ。

 

Kaz:日本で音楽の世界に入ったのですか?どのようにして音楽にハマったのでしょうか?

KAZUO:親友の父親が横須賀のクラブシーンでDJをしてて、俺と母親に当時アメリカで流行ってた音楽が収録されたミックステープをくれるんだ。だから日本に住んでいながらも、どんなラップが流行ってるかを把握してた。当時はあまり一緒に活動する友人とかもいなかったから、時間を潰すためにも有名な曲のパロディとかをやってたんだ。そこから徐々に0から自分の曲を書いてみたくなった。最初はゴミみたいなもの作ってたけど、やり続けた。

 

彼が音楽に入ったきっかけが非常に興味深いと感じた。日本にいながらも、横須賀のクラブシーンでDJをする友人の父親の影響で、米国の音楽シーンを自然と聞いていたのである。実際に彼の楽曲を聞いてみると、ずっとアメリカに住んでいた人だと言っても疑いはしないだろう。それは日本で生活しつつも、横須賀でアメリカの音楽にずっと触れてきたことが要因とも言える。彼のスピーディーなラップを聞いて後、「彼、日本人だよ」と言われたら驚く人も多いかもしれない。しかし彼の楽曲は確実に日本で育ったことの経験が含まれており、多くの人が共感できる内容になっていると感じる。

そのなかでも特に目立つのが「GAIJIN 外人」という曲だ。こちらの曲は彼が日本の小学校/中学校に通うなかで受けた扱いを表現している。「日本人」であるが、黒人とのハーフとして、他の少し見た目が違うというだけで虐げられた経験をラップしているのだ。

 

Kaz:楽曲「GAIJIN 外人」について話したいです。この曲は外国で育って、性格が形成された後に日本に引っ越した私的にも共感できる内容でした。逆に私は、日本に結構長いこと住んでいるからか、2つの場所の狭間で自分の立場に混乱することがあって。アメリカではフィジカル「外人」で、日本ではまだ内面的に「外人」のような感覚で、どちらの国にいても「外人」という感覚が消えなくて。
KAZUOは作品で日本について頻繁にラップしていますが、そのなかにもNYの「自信/アチチュード」が含まれている感じがします。特にNYのような場所でヒップホップをやっているなかで、どちらの国でも「外人」である感覚ってありますか?

KAZUO:「GAIJIN」は日本に住んでいた頃からずっと作りたかった曲だ。この曲を聞いて、様々な人が自分のストーリーや経験をシェアしてくれる。本来はどちらの国でも「外人」ではないんだけど、そう感じるんだ。あなたが説明してくれたことと同じだけど、自分の場合は逆だ。母親が日本人で日本で育ったけど、俺の見た目は完全に「日本人」ではない。その反面、アメリカで生まれたけど「アメリカ人」って感じもあまりしない。
俺の「アチチュード」の面だと、もちろんNY/NJで活動しているのが伝わると思うけど、その「アイデンティティ・クライシス(自己喪失)」的な側面が、KAZUOという「キャラクター」を形成しているようにも思える。その側面がKAZUOというキャラを他と差別化するし、ステレオタイプと全く違うことをする「普通」じゃない人物にしてくれる。

 

Kaz:「GAIJIN」では日本のイジメ問題などについて表現していますが、KAZUOは日本人であることに大きな誇りを持っていますよね。

KAZUO:結構ファンに「日本の悪い経験を話すことが多い」って言われるんだよね。「日本が嫌い」ってヴァイブスを出してると思われがちなんだけど、それは真実ではない。俺は自分が育った日本が好きだし、文化も好きだし、日本人であることも好きだ。でもどこで育ったとしても、そこでの悪い記憶や辛い経験をシェアしないといけないんだ。この曲では小学校と中学時代に受けた不当な扱いを表現して、それでも立ち上がる自分を表現したかった。

 

日本での経験がいかに「アーティスト」として彼を成長させてるかが伝わってくる。彼の「辛い経験」をリリックとしてアウトプットする力をこの楽曲では見ることができる。いじめ問題子供たちの居場所というテーマはPlayatunerにて何度も書いていることなのだが、「GAIJIN 外人」はそのテーマにも深く関わってくる内容だ。「見た目」が周りと違うから「外人」として扱われる、という経験をしたことがある方は多いのではないだろうか?彼は自分のパーソナルな経験をリリックとして表現することにより、まるでPhonteがアグレッシブなラップスタイルになったかのように、似た経験をしたリスナーの共感を得ることができているのだ。

そんな彼は現在YouTubeの登録者25,000人であり、今までPlayatunerで紹介してきたアーティストたちのように「独自」で水面下でファンをじわじわ増やしている。この記事のテーマである「グラインド」が伝わってくる。そんな彼のグラインドについて聞いてみる。

 

Kaz:YouTubeでロイアルなファンベースを獲得することができてますね?どのようにして最初スタートしたのでしょうか?また、どんな手法でファンを増やしたりしましたか?

KAZUO:いやー本当になんでもやったよ。高校のときは毎週ビートジャックしたラップのビデオをアップしていたんだ。でも高校であまり目立ちたくなかったから、ラップしてるってことは周りに内緒にしてた。かなりの本数をアップしてたんだけど、実際にラップ・キャリアに対するヴィジョンとかも持ってなくて、YouTubeを使ってどうなりたいかもあまり深くは考えてなかった。

当時は多くのオンライン上のラップ・コンテストみたいなのに応募しまくってて、燃え尽きちゃったんだ。徐々にラップに対する熱がなくなって、Vlogに興味を持つようになった。MVも撮りたいって気持ちもあったけど、普通のカメラしか持ってなかったし、誰も手助けしてくれなかったから、ちゃんとしたのは無理に近かった。俺の彼女がタトゥー・アーティストで、彼女がいつも作品を作っているのを見て、それがモチベーションになっていた。

そこから徐々に部屋でラップスキットを撮りはじめて、YouTubeとFacebookに貼り始めたんだ。

 

Kaz:2016年から2017年にかけて結構ライブやってましたよね?ブルックリンとかニュージャージーでライブをやることによって、どのような影響を受けましたか?

KAZUO:世界中の人々が夢を叶えるために、俺が住んでいる場所にくるんだ。ヒップホップを産んだこの町で、自分の存在を表に出していかないのはもったいないと感じた。ちょうど2016年ぐらいに、俺はインスピレーションを失っていた。大学を中退して、仕事に生気を奪われていた。だから一旦制作を休んで、パブリック・フィギュアとして名を知ってもらうために外に出るようにしたんだ。そこで新しい人たちと出会ったり、今まで自分が知らなかった様々な人生の視点/価値観を学んだ。そこで才能あるやつらとゴミみたいなやつらに出会ったし、自分がクリエイターとして何をやるべきなのかを理解した。毎週末ライブをやってたし、自分にとって良い経験になった。音楽やビデオを作るモチベーションも再び出てきたし、新しく改良された「KAZUO」を作る上で、外に出てライブをするのはかなり重要な役割を担ったよ。

 

実際に音楽をはじめ、ファンベースを増やしていくとき、一番の難関となるのが「スタートライン」にたつことであろう。最初に200人のファンをつけることができるかどうかが、肝となってくる。そんななかで、最も重要なのは「継続」である。これはNipsey HussleHopsinの例からもわかるが、インターネット時代ではコンテンツが素早く消費されやすいので、継続が非常に重要になってくる。新しいコンテンツを作ることが、自分のカタログ全体のプロモーションになるのだ。KAZUOの例は、まさにHopsinと共通しており、最初はスペックの高いカメラなどは持っていなかったが、段階を踏んでコンテンツを頻繁に世に出していく「グラインド」が「アーリーアダプター」的なファンベースを獲得する要因となっている。まさにひたすら、ひたむきにコンテンツを出していくという行動力である。

また、最後に日本語を使う理由、そして今後の展望を聞いてみた。

 

Kaz:多分メイン言語は英語だと思うんですが、ファンベースがアメリカで出来ているなかで日本語でもラップする理由はなんですか?戦略的な要素はありますか?

KAZUO:家では日本語喋るし、95%ぐらいの音楽を部屋で作るから日本語は自分に根付いてる。しかも俺のアメリカのファンは大体アニメファンだから、気にしてないと思う。むしろ正直日本語を使ってるから俺のことを好きになったってのはあると思う。文化を感じることができる楽曲で、部分的にわかる日本語を入れることが戦略でもあるかな。あとは「カッコつけ」のために日本語いれてるのもある。

 

Kaz:KAZUOの未来はどんな感じですか?日本に自分の名前を広める計画とかはありますか?

KAZUO:KAZUOの未来?世界に多くの曲とビデオをリリースする準備が出来てるよ。全部違うタイプのコンテンツだ。あとは4月26日に日本に帰って、自分のホームランドでライブができることが嬉しいよ。俺の目標は日本とアメリカのファンベースを均等に広げることで、色々戦略は考えてあるよ。

 

彼が「日本語」を使用するのも、戦略的な部分があると語った。断片的に日本語入れていくことにより、日本に興味を持っている人たちにとって良いバランスが保てているのだろう。

また、彼は4月26日に渋谷LUSHにて来日公演を行う。彼にとって日本でライブをするのははじめてであり、この機会に彼のライブを見ることをおすすめする。他のサポートアクトも楽しみなライブとなっている。

渋谷LUSH 「CUE0426」
OPEN/START 19:00
ADV 2000 / DOOR 2500 (+1D)
Ticket予約 info@steezy.jp

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